剣の道

響世 燐光

第1話 剣の道

拳が見えなくなるところまで腕を振り上げ、肩肘手首の順番に力を伝える。

足は肩幅程度に広げ体重はやや左足に。


幾度となく繰り返した動作を今日もまた反復する。


振り上げ、振り下ろすと同時に声を上げる。

千を超えた頃には道着は汗にまみれ息も上がってくる。

腕にはしるかすかな痺れにしかし僕は満足を覚えた。

この積み重ねが自身を強くするのだから。



富山の県大会に出場した僕は一位の成績を収め全国大会に出場することに決定した。

日々の鍛錬が報われたのだ。


「おめでとう高橋」

「ありがとうございます先生」


普段厳しい先生も破顔して喜んでくれた。

部活仲間達も我が事のように喜んでくれた。



また、剣をふる。

何度も何度も繰り返して。

時に折れそうになる心を叱咤する。

この時代は誘惑に溢れていると僕は感じている。

その誘惑に対して心を強く保ち自身の望む道を突き進む事こそが強さだと信じている。


僕は自分が強い人間だとは思っていない。

ならば何故他人より努力が続くのか、それは努力が報われると言うことを信じているからだ。

努力は必ず報われるとは限らない。それは分かっている。だけど僕は努力は必ず報われると信じている。


信じることで努力を続けることが出来ているのだ。



度合いにもよるが、自分が苦しむとわかっていることを積極的に行うことは簡単ではない。

それを行うためには自身の思い描く姿への渇望、努力への我武者羅な信頼、ある種の狂気が必要となってくる。


だから人は努力する人を尊敬する、あるいはその眩しさに嫉妬するのだ。




道剣高校剣道部主将高橋智也


彼は一言で言うと努力の人だった。

武道場に誰よりも早く訪れ竹刀を振る。

稽古の時も誰よりも声を張り上げ力強い打突を繰り出していた。

誰もが彼の剣道を尊敬し、模倣していた。


だから高橋が剣道を辞めたときは皆驚いていた。


全国大会に出場した高橋はどこだったか、たしか関東の高校の選手とあたり一回戦で敗退した。

文字通りレベルが違ったのだ。


誰よりも努力していた高橋だったけど練習環境の違いで負けたって相当堪えてたからな。




努力の量は内的要因で決められるが、努力の質は外的要因が大きく働くというお話。

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剣の道 響世 燐光 @suraimu9292

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