第38話

「あれは……!」


 とにかく彷徨うしかない仕様の迷宮を、ひたすらにウロウロしていたら中ボスっぽい人影を発見。普通ならそうは思わないけど、学校指定の体操服を着用して、胸のゼッケンには【ボス】の文字。これで敵じゃなかったらコミカルすぎる。


 ワープポイントから飛んだ先の直線通路。その終点部分であり、別のワープポイントが設置されてるだろう地点を護るように、彼女は立っていた。


「どうしてリスティルがこんな場所に」

「リスティル? 沢田さんじゃなくて?」

「沢田さんが誰かは知らないけど、あれはリスティルだよ。僕が愛したアニメヒロインの箱型アンドロイドさ」

「いやいや、どう見たって人間じゃないか」

「こしあんくんと僕とでは、見えているモノが違うのか……」


 そういうことらしい。僕には仁王立ちをしながらアッカンベーをしてる沢田さんが見えるけど、ボッチリオさんには箱型アンドロイドが見えているようだ。アニメヒロインが箱とか想像つかないし、それを愛すると公言した彼の趣味も理解できない。まあ人それぞれだとは思うけど。あ、人じゃなくてメガネ型生命体か。


「こしあん、遅かったじゃない。私を倒さないと先へは行けないわよ」

「クッ……、リスティル。僕の愛を試そうというのか!」


 え、どんな会話してるの? 沢田さんは普通の中ボス的な台詞しか言ってないけど、リスティルとやらは違うようだ。


「さあ、かかってきなさい。ハワイに行ける人間と、そうじゃない者との格の違いを見せてあげるわ」

「エーディンとはそんな関係じゃない。僕が好きなのはリスティル、君だけなんだ!」


 沢田さんのハワイ発言も気になるけど、ボッチリオさんの愛憎劇からも目が離せない。箱とメガネの愛……アリなのか?


「行くわよ、こしあん」

「ボッチリオさん、取りあえず戦うけど大丈夫?」

「大丈夫じゃない! 彼女を傷つけるなんて、僕には、僕には……ぐわっ」


 沢田さんのサマーソルトキックがボッチリオさんに炸裂。それを皮切りに、数々のテクニカルアタックが、彼の盾に、顔に、体に襲いかかる。僕は自他共に認める後衛職なので、後方へと避難。結果的にボッチリオさんVS沢田さんのガチンコバトルが展開された。とはいえ、片や防御に徹しているから一方的な戦いだけど。


「止めるんだリスティル、そんなに箱を展開しないでおくれ」


 箱を展開するって何? 彼にはこの近接ファイトが、どんな攻撃に映ってるのだろう?


 まあでも、そんなことは置いておいて。回復スキルがあるとはいえ、このままだとボッチリオさんはジリ貧だ。そこそこ強いはずなのに攻撃しないから、負ける未来しか見えない。


「召喚いよ、ヴァネッサ! 彼の者を護ってくれ」


 地面に広がった魔法陣から頼れる女騎士が顕現。変異ダンジョンでは遅れを取ったけど、眼前の敵くらいの攻撃なら掠り傷にもならないだろう。


「オールカバー!」

「ああ、リスティル、痛いよ。愛のムチがいた……あれ? 痛くない」

「ボッチリオさん、しっかりしてよ。あれってどう考えても幻覚じゃん」

「そうであっても、リスティルに手を出すなんて。僕はフェミニストなんだ」

「じゃあ選手交代。僕はこんなところで、ロストしたくないからね」

「す、すまない、こしあんくん。でもできれば優しく攻撃してあげてほしい」

「……まあ善処するけど(しない)。視聴者は何か言ってる?」

「えーと『王種、逃げてんじゃねーか』『見掛け倒しかよ』とかって、あ……」


 ヴァネッサが攻撃を全て受け止めてくれるから、僕は逃げも隠れもしない! メイダス人の視聴者たち、この勇姿に刮目せよ!


「ドラゴンゾンビメイルを生贄に傀儡発動! 黄泉に囚われし悪鬼よ、今こそ姿を現せ!」


 正規のプロセスを経て、傀儡人形を生成。暗黒の粒子が回転するエフェクトの中で形作ったのは、全長五メートルほどもある不死の怪物。


 グアァァァァァッ!


 骨と腐肉で構成されたその巨体が突進し、沢田さんを吹っ飛ばした。

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