第28話

「フレンドリーファイアとか最高やん」

「くっ……」


 至近距離で笑うエルフ女。僕は麻痺ってるから逃げられない。動けなくても魔法は撃てるけど、無効スキルを持ってるこいつには通じないだろう。もはや命は風前の灯。


「ほんなら遠慮なくキルさせてもらうわ。ぴょ~ん」


 エルフ女が、空に向かって矢を放つ。ホーミング機能があるから、どこに向かって撃とうが僕に突き刺さるのは揺るがぬ事実。


 でもさ……。


 ちょっと余裕を見せたつもりだろうけど、それがお前の命取り。いや、悪役の悪役たる所以だ。直接僕を狙えば終わってたのに、時間をくれたことには感謝しかない。


「絆召喚!」


 力の限り大声を出して叫ぶ。声に出す必要はないけど、雰囲気は大切だ。地面に広がる魔法陣。精一杯の力を込めて、痺れている手をそこに持って行く。


 ズブズブ……。


 腕が魔法陣に沈み、底にある不定形の『何か』に触れた。膨らませたイメージは大盾。全ての攻撃から護ってくれる絶対的な守護天使。


 魔法陣の奥、『何か』が高速で形作られる感覚。それを掴んで、引き抜くように持ち上げる。


召喚いよ、ヴァネッサ。力を貸してくれ!」

「オールカバー!」


 出現と同時に的確な行動で矢を防いでくれた、燃えるような赤髪の女騎士。しばらく会わなかったけど、やっぱり彼女がいると安心感が桁違いだ。VRでも相変わらず鉄仮面で顔を隠してるのは、もはやお約束なのでツッコむ気すら起きない。


「お久しぶりです、こしあんさん」

「うん、そうだね……って、僕が分かるの?」

「もちろんです。私たちは絆で結ばれていますから」


 感動的で尤もらしい理由だけど、イマイチ意味不明で不明瞭な説明だ。でも彼女はAIのNPCだし、そんな疑問はプログラムから排除されてるのだろう。


 この絆召喚は、前作で絆を結んだNPC傭兵を召喚できる優れたスキルだ。貴重なアクセサリー枠をひとつ潰す価値は充分にある。


 召喚上限数は一体で、制限時間はバトル終了まで。召喚されるNPCのステータスは、僕が込めたMP量に依存する。なので今回は全MPをヴァネッサにベット。数十秒もあればそれなりの数値に回復するから、これに関しては何の問題もない。


「仲間が増えるとか、ズルいんちゃうの!」

「不意打ちしてきた奴に言われたくないぞ」

「ほう、こしあんさんに不意打ちを。……死んで償え」


 スッと鉄仮面から覗く瞳を細める女性騎士。久々の再会なのに、やっぱカッコいいですわ。もう姉御と呼んでも差し支えないレベル。


「ナイト系が偉そうに何ぬかしとんねん。硬いだけのクセに!」

「果たしてそうかな?」


 口角を持ち上げ、好戦的な笑みを浮かべるヴァネッサ。鉄仮面の外側からは瞳しか見えないので、僕の脳内妄想だけど。


 レガリアワールドオンラインにおける彼女の最終クラスは、最上級職の守護聖騎士。その被ダメージダウン率は実に80%を超える。しかも物理防御力と魔法防御力にしかSPを振ってないから、強固さはナイト系のプレイヤーを凌ぐほどだった。


 一方で攻撃力はシーフ系最上級職の怪盗だった僕よりも低く、スキルを使わなければ後半の敵にはダメージを与えることすら出来ない。


 そう。スキルを使わなければ、だ。


「うちを甘くみんといてや、速射八連!」

「シールドバッシュ!」


 速射八連。これはレガリアワールドオンライン時代にもあった、レンジャー系では珍しい近接物理攻撃スキルだ。威力軽減の少ない八連射の弓専用攻撃で、速度さえ上げていれば三十二連撃にも四十連撃にもなる最終奥義。


 終盤のモンスターでも、これをまともに喰らえば致死ダメージは必須だった。でもまあ、それは所詮モンスター相手の結果。


【2】【2】【2】……と、合計四十連撃の猛攻が襲ってきたけど被ダメージは僅か【80】。しかも守護聖騎士は自己回復能力が優れているので、負ったそばからダメージが超回復して行く。ラッキーサークルの移動要塞を舐めんじゃないぞ。


「ぎひゃっ!」


 そして、女性が出してはいけない声で吹っ飛ばされるエルフ女。幻惑シリーズの特殊効果は絶大だけど、防御力自体はさほど高くない。


 対してヴァネッサが放ったシールドバッシュは、ナイト系の基本にして奥義とまで呼ばれる強攻撃。物理防御力と魔法防御力を足した数値が、相手の防御値を無視して与ダメージになる壊れ技。これを喰らって無事なのは、同じナイト系くらいのものだ。


「覚えときや……」と、捨て台詞を残して光の粒子へと変わるエルフ女。なんだかんだ言っても、やっぱり悪役。倒されるのは運命だったらしい。


《レベルが上がりました》

《相手の固有スキルをひとつ取得できます》

《選択してください:レンジアップ 必中 速射八連 剛の一撃 魔法無効 チャーム HP増量》


 こいつ魔法無効の装備を持ってるのに、同効果のスキルも持ってたのか。ありがたく、いただくとしよう。


 さっきの青髪エルフがキルしたのが三人で、このエルフ女がキルしたのは四人か。よくもまあ、こんなに味方を殺ったものだ。報復とか考えなかったのかな。考えなかったんだろうな、無双大好きっぽいから。


「雷光、雷光、雷光、雷光」

「グッ、げっ、ちょ……、止め……」


 まだ麻痺効果の続いていた金髪エルフ男を、問答無用で全力攻撃。状態異常耐性のある分、僕のほうが早く治ったようだ。


《レベルが上がりました》

《相手の固有スキルをひとつ取得できます》

《選択してください:剣鬼 豪腕 心眼 貫通 ライジングサン 双竜爪波斬 HP増量》


 金髪エルフ男がキルした味方もエルフ女と同じで四人。それにしても、HP増量は人気スキルなのかな。結構な確率で選択肢に表示されるんだけど。彼は近接特化のスキルばかりで、他に良い感じのものがないからHP増量を貰っておこう。


「時間です……」


 一連のバトルが終わると、ヴァネッサの足元に魔法陣が出現。そこに呑み込まれようとしているのに、慌てた素振りは微塵も見せない沈着冷静さ。


「また召喚んでください」


 意味合いは違うけど、どこか懐かしい台詞を残して彼女は虚無データの海に消え去った。






 四章 妖精王でオンライン 了

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