第27話

「クハッ……」

「え、なになに?」


《残像のキーホルダーが砕け散りました》


 考えるより先に、本能が体を動かして上空へ。本来なら僕はロストしていた。素早くインベントリを操作して、複数持ってる残像のキーホルダーを装備し直す。


 PKを誘うべく冒険者ギルド周辺を飛び回ってたら、いきなり後ろから攻撃された感じだ。問答無用で襲ってくるなんて悪の矜持が足りてない。本物は『ぐへへ、カモが来たぜぇ』とか、フラグを立ててから向かってくるはずなのに。で、返り討ちに遭うまでがテンプレ。


「ギルドの前におって正解やったな、妖精が二匹も来たわ」

「妖精ちゃうで、経験値やで」

「アホか、スキルブックやっちゅーねん」


 出来損ないの悪党でも、フラグはちゃんと立ててくれるのか。偉いぞ。


 VR-MMORPGの長所であり短所は、戦闘になってもバトル画面に移行しないところ。スムーズなプレイが楽しめる反面、不意打ちも簡単に行えてしまう。ヒューマンタイプの戦士系キャラなら平気かもしれないけど、妖精キャラだと一撃だ。


「せやけど、矢が当たっても死なんかったで。妖精やのに何なん?」

「ホンマや。ちょっと硬いタイプかもしれん」

「硬いタイプの妖精ってなんやねん。ウケるわ」

「うっさいな! 短いタイプの蛇みたいなもんや」

「見たことないわ」

「聞いたこともないわ」


 PKと思われるプレイヤーは三人組で、レガリアワールドオンラインから引き継いだ武具を装備していた。グラフィックは多少違うけど、覗き見で確認したから間違いない。僕はこれでもアイテムコレクターだったから、その全てがどんな効果を持つ武具なのかは把握済み。


 体格の良い金色の長髪エルフ男が装備してるのは【鳳凰の剣】【鳳凰の鎧】【鳳凰の兜】。どれも最高レベルの武具で、しかも火炎攻撃無効のセット効果がついている。


 そのとなり、ヒョロい青髪エルフ男が装備しているのは【海神の杖】【海鳴りのローブ】【雷神のバンダナ】。セット効果こそないけど、どれも最高レベルの武具には違いない。海神の杖はMP消費半減効果がついてるし、雷神のバンダナはそれ単体で麻痺攻撃無効の効果がある。海鳴りのローブは特殊効果こそないけど、シンプルに性能が高い。


 そして最後、浅黒い肌に黒髪のエルフ女。わがままなプロポーション自体が非常にけしからん。しかも装備してる武具はもっとけしからんものだ。【幻惑の弓】【幻惑のボンテージ】【幻惑のネコミミ】。セット効果は、全ての魔法攻撃を無効化。それだけでも厄介なのに幻惑の弓にはホーミング(追尾機能)、幻惑のボンテージには状態異常無効の効果がついている。幻惑のネコミミはただ単に可愛いだけだ。三人の中で遠距離攻撃ができるのはこの女だけだから、僕を狙ってきたのもこいつだろう。


「ちょっとアナタたち! いい加減、PKは止めないと酷い目に遭わせるわよ! こしあんくんが」


 仁王立ちで勇ましくも浅ましい台詞を決めたテフロンさんだけど、その姿は僕より遥か後方の空中にあった。安全距離を取りすぎて、相手に自分の攻撃も届かない感じだ。ちょっとビビりすぎだぞ、キノコ。


「なんかゆーてるけど、弱さは悪やで。妖精族とか選ぶから悪いんとちゃうのん」

「何ですって! このエルフオタク!」

「それブーメランやで。お前らはフェアリーオタクやん」


 僕はフェアリーオタクじゃないのに同類だと思われてしまった。まあでも弱さが悪だと言うのなら、遠慮なく殺らせてもらおう。


「君たちに恨みはないけど、僕の前に立った愚かさを恨んでね。雷光!」


 スキルレベルマックス、しかも限界の1000までMPを込めた極太の紫電が青髪エルフに直撃。メイダス側の名も知らぬプレイヤーを一撃で葬った、この攻撃に耐えられるかな。


「うわっ!」


 情けない声を出して尻餅をつく青髪エルフ。でもパリンッと障壁が砕けるエフェクトが現れたから、ダメージを負っていないようだ。


「ちょっとちょっと、いきなり何すんねん自分! 残像のキーホルダーつけてなかったら死んどったわ」

「めっちゃ厨二な台詞吐いたクセに、ノーダメージとか笑うわ」

「厨二は悪ないで。こっちがめっちゃ強すぎるだけやん」

「俺らをロストさせる威力ってことは、雷光の最大威力を使ったんやろな。そやったら、もうMP残ってへんでアイツ」

「カモやな」

「カモやわー」


 さすが腐っても元トッププレイヤー。残像のキーホルダーは僕も持ってるアイテムだから、相手が持ってるのは想定内。


 しかも残念ながらMPはまだまだ残ってるんだよね。このゲームのアクセサリー枠は三箇所。そこに全て残像のキーホルダーを装備してるのは、覗き見で確認済み。


「雷光、雷光、雷光」


 パリンパリンと連続して起こったエフェクトのあとに、三発目の紫電が直撃。


「な……何なん?」


 そんな歌謡曲みたいな台詞を残して、元青髪エルフだった光の粒子が霧散した。


「マジか……お前、許さへんからな!」


 金髪ヒョロエルフ男が吠えるけど、こいつは外見通りの近接特化だ。悔しがってるだけで、上空にいる僕を攻撃できないのも織り込み済み。


《レベルが上がりました》

《相手の固有スキルをひとつ取得できます》

《選択してください:フレア クエイク MP増量 MP消費低下 MP高速回復 HP増量》


 PKしてただけあって、青髪エルフは固有スキルを豊富に持っていた。カオスロアの字面がカッコいいけど、MP高速回復を選択。これでさらに魔法を打ち放題だ。


「バーカ、バーカ。関西弁バーカ」

「関西弁はバカとちゃうわ! 降りてこいやボケキノコ」


 テフロンさんは、いつの間にか僕の隣に移動していた。有利と見るやすぐさま相手との距離を詰める状況把握能力が、ある意味すごい。


「うるさいわね、麻痺胞子!」

「テフロンさん、ちょっとそれは……」


 彼女のスキルは放射状の広範囲に胞子をばら撒いて、【自分以外の範囲内にいる全員】を確率で状態異常にする。そんな地雷技を使うと、どうなるのかと言えば……。


「うっ、動かへん。クソチビ、何しよんねん」

「体の自由が……」


 その確率に抗えなかったふたり。金髪エルフと僕の行動が制限される。当然、飛翔も解除されて真っ逆さま。地上に激突して、三回ほどバウンドした僕のHPは一桁になってしまった。


「テフロンさん、酷い」

「あわわわ……、ごめんなさい!」


 アンタ、ホントに攻略班だったのかよ。安全確保以外の能力が低すぎるだろ。金髪エルフ男は麻痺になったけど、黒髪エルフ女が残ってるんだぞ。しかもこいつ、魔法も状態異常も効かないし。防御力自体は低いだろうけど、威力の高い攻撃方法が魔法しかない僕には天敵みたいな存在だ。


 それだけでもキツいのに、体が痺れて上手く動けないとか泣けてくる。


 棚ぼたでラッキー、みたいな顔をしてニヤリと笑うエルフ女。スマートな感じでPK討伐したかったのに、これじゃ逆に殺られちゃいそうだ。

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