二章 VRなのに暗闇でオンライン
第8話
「マジか……、またやり直しだ」
何をやってるかって?
もちろん、レガリアワールドオンライン2のキャラクターメイキングだ。
僕はレガリアワールドオンラインを始めたとき、キャラクターメイキングに十時間以上費やした。それは、ユニーク特性の最高値が30%だと分かっていたからだ。どんなに出にくくても時間さえかければ必ず出る。そんな思いがあったからこそ、寝食を犠牲にして長時間のリセマラを繰り返せた。
でもこれは……レガリアワールドオンライン2は、そんなことが生易しく感じるような鬼畜っぷりだった。
まずは【個体】。これを選ぶところからキャラクターメイキングは始まる。選べる種類は500種類以上。しかも個体番号が表示されるだけで、どんな個体? 種族? なのかが分からない。そして最初の個体を選んだら、その先にまた500種類以上のツリーがあって、さらに選ぶとまたまた500種類以上のツリーが表示される。
そうして合計三回選ぶことで、【戦闘】【支援】【生産】の初期ランクが決まる。それだけ聞けば、たとえ数が多くても、時間さえかければ納得できるキャラを生み出すことができる。そう思うだろう。
でも実際は違う。いくら良さげな感じで選んでも、【固有スキル】が毎回違ってくるのだ。いや、毎回は言い過ぎだけど。ひとつの個体には確実に十以上の固有スキルが設定されていて、さらにどんな法則なのか分からないけど、稀に【一般スキル】が付随してくる。
こしあん
個体 --- LV1
戦闘 近---/中---/遠---
支援 治---/バ---/デ---
生産 武---/道---/他---
固有スキル --- --- ---
一般スキル --- --- ---
SP ---
これがキャラクターメイキングをする前の雛形。そして500以上ある選択の中から個体をひとつ選ぶとこうなる。
こしあん
個体 22 LV1
戦闘 近✕/中△/遠◯
支援 治◯/バ---/デ---
生産 武---/道---/他---
固有スキル 与回復力上昇LV1 --- ---
一般スキル --- --- ---
SP ---
最初に選んだ個体で戦闘するときの得意レンジが決まり、【生産】【支援】の中から、どれかひとつの技能を使えるようになる。そして固有スキルがひとつ付与される。これが曲者で、個体番号22番の固有スキルは【与回復力上昇】以外にも十種類以上あるのだ。しかも付与はランダム。
まあそんなものだと思って、次の個体番号を500種類以上ある中から選ぶとこうなる。
こしあん
個体 22-54 LV1
戦闘 近✕/中△/遠◯
支援 治◯/バ---/デ---
生産 武---/道◯/他---
固有スキル 与回復力上昇LV1 集中LV1 ---
一般スキル --- --- ---
SP ---
【生産】【支援】の中からまたひとつ技能が使えるようになって、固有スキルもひとつ付与される。ちなみに55番の固有スキルも十種類以上あって、とうぜんながらランダム付与。しかもハズレ(固有スキルが付与されない場合)のときもある。
そして、最後の個体番号をまた500種類以上ある中から選ぶとこうなる。
こしあん
個体 22-54-307 LV1
戦闘 近✕/中△/遠◯
支援 治◯/バ✕/デ✕
生産 武◯/道◯/他✕
固有スキル 与回復力上昇LV1 集中LV1 集中LV1
一般スキル チャクラLV1 --- ---
SP ---
お分かりだろうか?
固有スキルがダブることもあるのだ。今回は運良く一般スキルも付与されたけど、されないほうが多い。ゲーマーとしては、やはり一般スキルを付与した状態で始めたいし、固有スキルのダブりもなくしたい。さらに言えば、スキル関係は有用だと思われるものだけで占めたくなるのが
まず500種類以上が三回で1500種類以上ある個体番号それぞれが、どんな固有スキルを持っているのか、そこから始めなければいけない。そして、欲しい固有スキルのある個体番号を抜き出して、それが来るまでリセマラを繰り返す。奇跡的に三種の有用な固有スキルが揃っても一般スキルがなかったり、変なスキルだったりしたらやり直し……。
こんなのやってたら十時間じゃ到底足りない。一週間あっても足りるかどうか。一生かかっても僕の考えた最強の主人公なんて作れる気がしない。僕は、このキャラクターメイキング画面だけで生涯を終えるのではなかろうか。ゲーム終了までのタイムリミットは、1000日しかないのに。
『明日の16:00より、レガリアワールドオンライン2へのログインが可能になります』
オスカーさんからそう連絡をもらったのが、レガリアワールドオンラインのサービス終了直後。終了時刻が午前零時だったので、つまり真夜中。さっきまでニャン汰さんやクリームやエミリア、ナナさんたちやカプールと一緒に、レガリア城下町の広場に集まって終了を惜しんでた。
オスカーさんなんてガッツリ泣いてクリームとハグしてたのに、電話ではそんなことはなかったみたいに冷静沈着な口調だった。ロールプレイ恐るべし、いや女子の建前恐るべし。
『開始日より10日以内にゲームを始めなければ棄権とみなされますので、宜しくおねがいします』
「分かりました。明日の16:00ちょうどからログインして暴れてやりますよ」
『さすが木下さん、頼もしいです! 今回のプレイ期間は1000日です。その間、通っておられる大学は出席扱いになり、ゲーム終了と同時に卒業できる運びです』
「じゃあ、もう大学に行かなくても大丈夫ってこと?」
『はい。木下さんは1000日後、日本国が用意した職場に自動採用が決定していますので』
これはまさかの展開だ。ゲームだけやってれば大学を卒業できるなんて嬉しい誤算。しかもゲームが終わればメガネの楽園(※個人の感想です)に就職できるなんて。
『ただし、こちらに届いている資料によりますと、今回のゲームに【死にもどり】はありません。一度キャラクターをロストすれば、そこで終了となるようです』
「えっ、ハードですね。じゃあその場合、大学は……」
『自力で通っていただきます。しかし、就職は約束されていますので御安心を』
ゲームへの参加を条件とした要望だったから、そこは当然だ。大学も通うつもりだったから、特に何も変わらない。でもどうせならゲームだけプレイして1000日間過ごしたいところ。
「大金を要求した人が初日にロストしたらどうなるんですか?」
『生存日数によって支払われる金額が決まっているようです。木下さんの場合は、まあ、なんと言いますか、とても微笑ましい要望でしたので初日にロストしても報酬は支払われます』
「分かりました。明日からがんばりますよ」
そんな感じで翌日の16:00、フルダイブ専用シートに座ってヘッドギアを装着。スタートボタンを押してVR空間に入った僕を待っていたのはチュートリアル妖精の卑弥呼さんだった。ただし以前イレギュラーで遭遇したときとは違い、中の人がいないただのAIだったけど。
そして説明を受けてキャラクターメイキングを開始し、現在に至る。
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