第6話

 今日が三連休の最終日。結局昨日は機材搬入のあとに取り扱いを説明され、なんやかんやで夕方までオスカーさんと一緒にいた。


『レガリアワールドオンラインが終了するのは一ヶ月後なので、新たなゲームが開始されるのはそれ以降になると思います。それまでに使い方をマスターしておいてください』と言われたけど、ソフトもないのにどうしろと。


 ヘッドギアを被り、専用シートに寝てから肘掛け辺りにある電源を入れたけど、とくに何も変化が起きない。やはりハードだけでは使えないようだ。


 さてと。今日こそは映画に行きましょうかね。そう思って専用シートから立ち上がったけど、どうも映画の気分じゃない。そんなものよりよっぽど特異な体験をしてるので、脳内がわがままになってるようだ。


 でも部屋にこもる気分でもないので、取りあえず外出しようかな。



 アパートを出てコンビニに向かう。何はなくともまずコンビニ。コンビニに行けば大概のことは解決する。僕のコンビニに対する信頼は絶大だった。


「あ、岩ちゃん」

「ん? 木下か、久しぶり」


 店内の雑誌コーナーに岩ちゃんがいた。


「またエロ雑誌読んでるの?」

「ちょ、お前そのイメージは捨てろ。ミリタリー雑誌だぞ」

「へぇ、最近はそれ系の雑誌にもエロい記事があるんだ」

「だから違うって」

「それより、レガリアが終わるの知ってる?」

「そうなのか? 大学に入ってからサークルで忙しかったからな。全然ログインしてないわ」


 ですよね、普通はそうですよね。僕も何度引退しようかと思ったことか。でもレガリアが面白すぎて、ズルズルと居続けてる。その結果、日本の命運を左右するゲームに参加しなければならなくなった。


「まあほら、高校のときとは違うしな。彼女もできたし」

「……岩ちゃん、マジか」

「マジマジ。写真見る?」

「いや見ない。見たら自分のあれやこれやが崩壊しそうだから」

「そ、そっか? 可愛いんだけどな」


 いつの間にか、みんなが大人になって行く。僕も大人になったけど、周囲のそれとは何か違う。別に気にしてないけど。


「木下にもそのうち、運命の人が現れるさ」

「その上から目線、ムカつくわ」


 彼女がいたら毎日が楽しいと思う。以前はあんまり考えなかったけど、最近はそう考えるときがある。どうしても欲しいわけじゃないし、彼女かゲームかと問われたらゲームを取る。


 でも一度くらい異性とお付き合いもしてみたい。理想は、一緒に毎日ゲームができる関係なら最高だろう。僕が前衛で彼女が後衛。ペアでクエストをこなして苦楽を共にする。どこかにいないかな、そんなパートナー。まあ、いないだろうけどね。



 岩ちゃんが、まだ立ち読みを続けるらしいので、炭酸飲料を購入してコンビニから退散する。歩きながら無意識にペットボトルのキャップを開けたら、ジュワッと中身が溢れてしまった。どうも『岩ちゃんに彼女が出来た事件』を聞いて、多少動揺してるようだ。


 僕は大学に入って、今まで何をしてたんだろう。勉強はしてるし、講義にもちゃんと出席してる。単位も余裕だし、このペースを保てば普通に卒業できると思う。でもなんか違うんだよね。


 ゲームの中でしか深いコミュニケーションを取ってないし、ゲームの中でしか異性と接してない。ゲームの中でしか冒険してないし、ゲームの中でしかスキルアップしてない。


 特に困ってないから気にならないけど、ドキドキハラハラするような刺激がたまには欲しい。

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