第4話

「我々には、奴らのやり方を飲むしか道がなかった。国連宇宙平和維持軍の宇宙艦隊はファーストコンタクト直後に謎の力で動力停止。その後、M・E・I・D・A・Sの兵士が艦内にテレポートしてきて乗組員は全員拘束されたのだ。もはや科学技術のレベルが違うとしか言いようがない。逆立ちしても奴らには勝てないだろう」


 テレビとかでやっていた国連宇宙平和維持軍の演説は、人類の混乱を抑えるためのポーズで、本当は戦いにすらなってなかったらしい。地球人はもう、M・E・I・D・A・Sには逆らえないのだと桜田長官は悔しそうに語った。


 しかし幸運なことに、異星人の思想やルールは地球人のそれとは異なっていた。科学技術や異能力で絶対的な優位に立っていながら、一方的な武力による侵略を良しとしない種族なのだとか。それを裏づけるように、拘束された国連宇宙平和維持軍の兵士は、誰ひとりとして殺されてはいないらしい。


「圧倒的な力を見せつけた上で、奴らが我々地球人に提案してきたのは陣取り合戦のようなゲームだった。M・E・I・D・A・S側が作成した箱庭内で、イベントと呼ばれる仮想戦争を定期的に行う。参加人数に制限はなく、それこそ全人類が参加しても問題ないとのことだった」

「じゃあ本当のことを報道して、参加者を募れば良かったのに」

「各国政府は混乱と暴動を恐れたのだ。それに大多数の人類が参加してしまえば経済が滞ってしまう可能性がある」


 確かにそうだ。働く人がいなくなれば社会の機能が麻痺してしまう。僕は学生だからゲーム漬けの日々でも嬉しいけど。むしろそのほうが良いけど。


「そしてイベント中に陥落した街と、場所的に一致するリアルの領域を植民地化すると言うものだ。だから実は、日本だけではなく世界中の国でレガリアワールドオンラインのような国営ゲームが存在する」


 イベントで街が潰されたら、現実世界でその場所と照らし合わせた周辺一帯が【迷宮ダンジョン】になるらしい。迷宮とはつまり、M・E・I・D・A・Sが住みやすい環境に改造された空間。そこでは大気中に未知の元素が混ざり、地球人の中枢神経に大きな負荷がかかるのだとか。


 レガリアワールドオンラインの防衛イベントで廃墟になったのは、泡沫の街と東北方面の名も知らぬ街。位置的に合致するのは、ダンジョンがある山口県と秋田県だ。なるほど、そんな理由があったのか。


「そして今回、奴らは新たな要素を加えたゲームを提案してきた」

「新たなゲーム?」

「……うむ。詳しい情報はまだ分かっていないが、ゲームに参加できるのは各国の箱庭、つまり日本ではレガリアワールドオンラインでランキング100位以内に入っているプレイヤーだけなのだ」

「でもあのゲームにランキングなんてなかったよね?」

「M・E・I・D・A・S側だけに分かるランキングがあるらしい。そしてその中のひとりに選ばれたのが……君なのだよ」


 うん、流れ的にそうなのかなと思ってた。でもそんな面倒、いや日本の命運を左右するようなことには極力関わりたくない。どうにか断れないかな……。


「無論、タダでとは考えていない。引き受けてくれるなら、君の希望する報酬を何でも用意する」

「一個だけ?」

「複数あるのなら、それを全て用意しよう」

「断ったら?」

「……君の意見を尊重する」


 僕が欲しいものってなんだろう?

 小さな不満はたくさんあるけど、大きな不満は何ひとつない生活を送ってきた。だからいざ何が欲しいかと聞かれれば答えに困る。


 シャーペンの芯とかノートとかの消耗品はもちろん欲しい。でもそれは数百円で買えてしまう。多分、これは生涯で一度のチャンス。だったらもっと建設的なものを要求したほうが後悔しないはずだ。


 桜田長官は「何でも用意する」と言った。さすがに「王様になりたい」とか「世界征服したい」は無理だろうけど、少し贅沢な要望なら出しても良いはずだ。


「大学を卒業したら、週休三日以上で実労六時間以内、給料とボーナスは多めで、福利厚生がしっかりしてて、理解力のある上司がいて、メガネの似合う可愛い受付嬢のいる会社に就職したい!」


 どうだ、言ってやったぜ!


 一生働かなくても大丈夫な環境とかも頭を過ぎったけど、そもそも働くために大学で勉強してるんだ。それに贅沢三昧な生活をしてたら、ブクブク太ってすぐ死ぬ気がする。ストレスなくずっと働ける職場。絶対これに勝るものはない。


「用意できる?」

「えっと……他にはないのかね?」

「用意できないの?」

「できるとも! そんなもので良ければ私の裁量で何とでもしてみせよう。良かった、君が小市民で本当に良かった」


 あれ? もしかして、もっとぶっ飛んだ要求でも通ったのかな。いやいや、でもこれ以上のものなんてそうそうないはずだけど。


「先に面談した参加者たちは『大金』や『ハーレム』や『異世界転生』などを要求してきたものだから困ったよ」

「……ちなみに、そんなのでも大丈夫だった?」

「さすがに異世界転生は無理だが、それ以外は想定内だった」

「僕の要求も想定内だったのか……」

「ある意味想定外だが、約束しよう。必ずその要求は国に認めさせる」

「メガネの似合う可愛い受付嬢も?」

「何ならメガネ博覧会ができるくらいの人数を揃えよう」

「ちゃんと書面にしてね」

「もちろんだとも」


 とても実りのある話し合いができた。ここが僕のターニングポイントだったに違いない。バラ色の人生が約束されたんだ、どんなゲームでも喜んで参加しようじゃないか。

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