第65話
八月二十九日はモンスターの変化がなかった。その代わりなのか、アッパーガルムが十体から二十体に増加したけど。即死攻撃の効かない敵はホント、勘弁してほしい。
いつでもミルクティーの面々は、バリケード役をしながらの範囲魔法攻撃を絶え間なく繰り出し、ノーダメージでポイントを稼いでる。僕も混沌のローブを装備したい。アッパーガルムの群れに飛び込んで無双したい。闇属性魔法をわざとくらって「今、何かしたか?」とか言ってみたい。
「こしあんさんのおかげで、とても楽です」
「アッパーガルムが雑魚に思えてくるわ~」
請求してやる。絶対代金を請求してやるぅ!
アイテムひとつで攻略がスムーズになるのは、MMORPGの常だ。普通のRPGでも攻略アイテムさえあればボスを倒せるなんてこともある。
そう考えると、アイテム入手係のシーフ系が冷遇されてきたこのゲームは、やはり在り方が間違ってたんだと思う。運営はそれに気づかせるため、わざとこんなイベントを開催したんじゃないかな……それは考えすぎか。
どちらにせよ、これでシーフ系の重要さがみんなに伝わっただろう。それは、増え続ける所持金を見れば明らかだ。
所持金 4988691800G
もう、絶対、百パーセント、こしあんはこのサーバーでナンバーワンの金持ちだと思う。僕、このイベントが終わったら、真・転生の魔法陣と水系アイテムを大人買いするんだ……。
「こしあんくん、何を黄昏てるのかにゃ」
「やることもないから、所持金を見てるだけだよ」
「壁役と攻撃役がひとつになった、あの集団には入りにくいからにゃ」
「そうなんだよね。早く次のモンスターになって全滅すれば良いのに」
「……闇にゃ。こしあんくんが闇堕ちしてるにゃ」
「どんなこしあんさんでも、私はついて行きます」
「ありがとう、ヴァネッサ」
そんな僕の、ささやかな妬みも虚しく、この日は何ごともなく過ぎて行った。そして時計の針が八月三十日の深夜零時を指したとき……。
アッパーガルムが二十体から五十体に増えたのだ。これは攻略難度に変化がないのと同義だ。僕はニャン汰さんとヴァネッサに断ってから、そっとログアウトした。本当にやることがないからね。
タブレットを操作して、ニャン太郎様の攻略サイトを覗く。いつ見てもここの雰囲気はホッとする。欠乏していたニャンタロウミン的な栄養素が補給される感じだ。
お、トップページに動画が貼り付けてある……見てみようかな。再生をタップしたら、いきなりタイトルがドーン!
《待ったなし! レガリア城下町の攻防戦(0829ver.)》
『今日の敵はカオスタイタンにゃ! 即死攻撃がデフォルトで、やたらHPが高いにゃ。殺る前に殺られるにゃ。そのステータスはこちらにゃ!』
クルクル回転しながら画面に現れたステータスを見て驚愕。
カオスタイタンLV??
HP 50000000
MP 50000000
物理攻撃力 3500
魔法攻撃力 1800
物理防御力 0
魔法防御力 0
速度 20
幸運 0
【能力】
三回攻撃・即死攻撃100%・大地属性範囲魔法・物理属性範囲攻撃
【持っているもの】
N 経験値玉手箱(ぴえん超えてぱおん)
R アースメガシールド
UR ???・???
『もうすでに色々おかしいにゃ。運営、殺りにきてるにゃ!』
そして映し出される大地の巨人。
『ウガアァァァァァッ!』
カオスタイタンの雄叫びとともに放たれた三連続の大地属性範囲魔法に、数百人のプレイヤーが露と消える。
『いや無理だろこれ!』
『ゾンビアタックだ! 少しでもダメージを!』
『第六部隊、前に!』
『んなモン、とっくに全滅してるわ!』
『ナイト系はとにかく前へ! 街に入られたら終わりだぞ!』
『もうナイト系とか関係ないだろ!』
いやいや、これ本当に無理でしょ。レガリア城下町は防衛クランが多いから人海戦術で持ちこたえてるけど、ほとんどのキャラが死に戻りのエフェクトを纏ってる。蘇生薬やリザレクトが全く間に合ってない。いや、蘇生薬に関してはもうインベントリのストックが尽きてるのかも。あとでオークションに並べておこうかな。
『ウガアァ、ウガアァ、ウガアァァッ!』
そして三連続物理攻撃。これも範囲攻撃っぽい。なす術なくゴミのように消えるプレイヤーたち。それでも後方からの弓や魔法の攻撃で、カオスタイタンのHPは少しづつ減っている。千人以上のプレイヤー同時攻撃で死なないとか、本当にもう色々おかしすぎる。
そして絶望を煽るように後方から歩いてくる、もう一体のカオスタイタン。いや、もう二体いる!
そんな阿鼻叫喚な映像が数十分続き、ようやく一体倒すのに成功していた。それまでに被った被害や損害やストレスは計り知れない。
魔法攻撃もそうだけど、奴の物理攻撃を受けるには物理防御力に全振りしたナイト系で、なおかつセカンドジョブにもナイト系を据えておかないと耐えられないだろう。それもレンジャー系のジョブスキルや、ガードスタンス、シールドなどの支援魔法を駆使してギリギリ……もしくはそれでもダメかもしれない。
で、耐えられたとしても、即死攻撃に殺られる未来しか見えない。なるほど、これはニャン太郎様がフレンドコールしてくるわけだ。
『こんな感じの強敵にゃが、数の力で何とかなってるにゃ。それではまた明日にゃ。拠点防衛に失敗しないことを祈っててほしいにゃ~』
ドキドキしながら、タブレットの電源を落とした。映像でこんなに心臓が飛び跳ねたのは外国のホラー映画を見て以来だ。
僕は宿場町の防衛を選んで、本当に良かったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます