第62話

「そろそろポイントを集めましょうか」


 八月二十八日の夕方。敵がマーダーオークからダーティーオーガに変化したところで、オスカーさんが呟いた。



 ダーティーオーガLV??

 HP 16000

 MP 0

 物理攻撃力 500

 魔法攻撃力 0

 物理防御力 0

 魔法防御力 0

 速度 10

 幸運 0


【能力】

 二回攻撃・即死攻撃40%・毒無効・麻痺無効


【持っているもの】

 N 経験値玉手箱(大)

 R 中級Mポーション

 UR 討伐ポイント玉手箱(大)・クランポイント玉手箱(大)



 ダーティーオーガはHPだけ見るとアルカ遺跡のシャインスライムよりも上。物理防御力も魔法防御力もゼロだけど、瞬殺できる相手じゃない。こしあんは即死攻撃があるからできるけど。


 しかも、いつでもミルクティー所属のパラディン三人衆は、ヴァネッサより物理防御力が低い。聞いたところ、クラン効果にあやかろうと、セカンドジョブをヒーラー系にしてるらしい。さらに回復魔法の威力を高めるために、魔法攻撃力にもSPを割り振ってるのだとか。


 なので、【26】【26】【26】【26】……


 ガードスタンスありきで、物理攻撃力【500】の攻撃が通ってしまう。シールド込みならもう少しダメージを減らせるだろうけど。


 ただ、HPが【1700】以上あるから陣形が崩れるほどのダメージじゃない。パラディンのスキル、リジェネレートでカバーできる範囲だ。


「ダーティーオーガ以降のモンスターには苦戦しそうですからね」

「そんな感じですね。ヴァネッサを前に出しましょうか」

「ヴァネッサさんは、いくつまでのダメージなら耐えられそうですか?」

「ガードスタンスで物理防御力が【641】です。加えて被ダメージを【50%】以上カットできるから、まだまだ大丈夫ですよ」

「支援魔法のシールドを乗せれば、さらに行けそうですね」

「ニャン汰さんのジョブ特性もあるから、もっとですよ」

「……すごいわ。うちのクランに欲しいくらい」

「ヴァネッサは嫁にやらんからな!」

「じょ、冗談ですよ。こしあんさん、いきなりキャラ変わってますよ」


 ヴァネッサはボーッと突っ立ってるだけのときから、僕が育てたNPCだ。言わば子供のようなもの。今さら手放すとか考えられない。


「とにかく、そちらのパラディン三人とヴァネッサを扇状に広げながら前進させましょう」

「そうですね。オードリーさんたち、そろそろ打って出ます。間隔を広げつつ前進してください」

「了解でーす」

「承知しました」

「前に出るの怖いですぅ~」


 ひとりナイト系らしくないのが混ざってるけど、防御力自体は他のふたりと比べても遜色ないようだから大丈夫だろう。


「ヴァネッサもオードリーさんの右について前進」

「任せてください!」


 颯爽と戦列に混ざる彼女が勇ましい。ひとりだけノーダメージなのも、ちょっと自慢だ。いい子に育ってくれてパパは嬉しいぞ。


「では賢者とピショップの皆さん、行きますよ!」

「待ってました~アイスバレット!」

「ひゃっほ~ファイアバレット!」

「エナジーバースト! 超快感なんですけど~」


 オスカーさんはじめ、魔法職の十二人が同時に範囲魔法を撃ちまくる。パラディンたちが前進したことで、範囲魔法が街の門に阻まれていないのも大きい。周囲を埋め尽くしていたダーティーオーガは一瞬で消滅してしまった。でもまたすぐに、後続が押し寄せてきたけど。


「僕らも行こうか」

「そうにゃ、ぶっころにゃ!」


 静観してると、いつでもミルクティーの面々にポイントを全部持って行かれそうだ。


「アタック!」

「回転斬りにゃ!」


 ちなみに、こしあんとヴァネッサとニャン汰さんはパーティーを組んでるから、誰が敵を倒しても全員に経験値やポイントが分配される。なので、護ってばかりのヴァネッサが損することはない。


 かくして徐々に戦線を押し上げての大虐殺は、深夜前まで続いた。もちろん、その間には交代で夕食を摂ったりお風呂に入ったりもしたから、モチベーションは保たれている。


 そして迎えた八月二十九日の深夜零時。


 地平線の彼方まで湧いていたダーティーオーガの群れが光の粒子となって消滅し、代わりに四足歩行の大型獣が出現した。


「え……! あれはアッパーガルム……?」

「今回はエビルオーガがいないっぽい~」

「拙いわ、この時間にあんな強敵が出るなんて……」


 前々回のイベントで、いつでもミルクティーの防衛を破り、街を壊滅させた強敵。一匹ならともかく、集団で攻めてこられたらパラディンが総崩れになってしまう。さすがにこれは一筋縄で行きそうもない。

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