第53話

 レベルも上がってジョブチェンジも繰り返したし、初期のころと比べたらゲームの進行がとても楽になったと感じる。それもこれも、アドバイスやパワーレベリングをしてくれた人がいたからだ。


 チュートリアルも聞かずに飛び込んだゲームだけど、今はすごく愛着を感じる。ひとりじゃ何もできないことは変わってない。でもMMORPGって本来そういうものだから、これからも自分の役割を全うしたいと思う。


 そんな物語の締めくくりっぽいことを考えてしまうのは、ひとえに夏休みが残り少ないからだ。


 嗚呼……僕はこの夏、何をしてたんだ! 海にも行ってない。山にも行ってない。繁華街にも行ってない。そもそも友だちと遊んでない。ゲーム内では遊んだけど、沢田さんや桜田さんはクラスメイトの女子であって男友達じゃない。


 虚脱感と共に押し寄せてくる罪悪感。でも、だからってゲームを止められる気もしない。この優柔不断な性格は、いつか直さなければ。


 一通り後悔も終わったので、今日もレガリアワールドオンラインへとログイン。昨日はニャン汰さんが入団してくれたので、一日中パーティを組んで遊んでいた。そしてログアウトする直前に思い出したのだ。


 あ、ヴァネッサのジョブチェンジしてないや……と。


 彼女のクラスアップ先は、こしあんと同じく一択だった。



 パラディン

 全てのダメージを軽減できる

 戦闘中、徐々にHPが回復する

 装備可能武器 槍

 装備可能防具 重装

 ジョブ特性 被ダメージ25%ダウン



 迷う要素もないので、すかさずタップして決定。


《ヴァネッサはパラディンになりました》

《ジョブ特性が変更になりました》

《リジェネレートを覚えました》

《各ステータスが5ポイント上昇しました》

《転職ボーナスとしてSP20を取得しました》


 SPは物理防御力と魔法防御力に振って、ますます鉄壁な感じに。武器は追加ダメージを期待してブリザードランスを。



 ヴァネッサ

 ジョブ1 パラディンLV50

 ジョブ2 パラディンLV50

 HP 1890

 MP 180

 物理攻撃力 20+10+180

 魔法攻撃力 12+6

 物理防御力 126+63+135

 魔法防御力 126+63+50

 速度 12+6

 幸運 11+6+1

 ジョブ特性1 被ダメージ25%ダウン

 ジョブ特性1 被ダメージ25%ダウン

 ユニーク特性 ヘイトアップ12%

 ジョブスキル ガードスタンスLV5 タウントLV5

        シールドバッシュLV3 タックルLV2

        ヒールLV3 ハイヒールLV1 キュアLV1

        リジェネレートLV1

 後天的スキル 全状態異常耐性LV1 即死耐性LV1

 ヘパイストスの加護 被物理ダメージ5%ダウン

 所属クラン ラッキーサークル

 クラン効果 幸運1%アップ


 武器1 ブリザードランス 物理攻撃力+180 氷の追加ダメージ

 武器2 真紅の大盾 物理防御力+30 被ダメージ5%ダウン

 頭防具 金剛石の兜 魔法防御力+50

 体防具 大地の鎧 物理防御力+80

 足防具 金剛石のレガース 物理防御力+25

 装飾品 退魔のネックレス 魔法防御力+25


 ジョブ1 SP 0ポイント

 ジョブ2 SP 0ポイント



 HPの上昇具合がハンパない。もう、賢者の石でどうにかなるレベルじゃなくなってしまった。自力で回復もできるヴァネッサだけど、魔法攻撃力が低いので回復量と回数はたかが知れている。


 バロスも育ってほしいけど、こうなるとヒーラーのピエールを育てることが緊急課題のように思えてきた。あいつ、いつまで経っても愛想がないんだよな……。好感度もまだ上がらないし。


「おはようにゃ!」


 そんなことを考えていると、クランハウスにニャン汰さんがログインしてきた。ログインと死に戻りの設定をここにしたようだ。僕もしておかなくちゃ。


「ニャン汰さん、昨日はありがとう」

「こっちこそ楽しかったにゃ。ところで防衛イベントには参加するのかにゃ?」

「そのつもりだけど」

「どの街を護るのかにゃ?」

「え……考えてなかった!」


 確かイベント参加の条件は、クラン単位であることと期日までに冒険者ギルドに防衛拠点を申請することだ。トレジャーハンターになったこと団員が増えたことに浮かれて、すっかり忘れてた。


「さすがのクオリティにゃ。一緒に冒険者ギルドへ行くかにゃ?」

「うん、お願い。参加し損なうとこだったよ」


 クランハウスを出て、ニャン汰さんと一緒に冒険者ギルドへ。レガリア城下町は広すぎて、すぐにタップできないところが辛い。


「ニャン汰さんは、防衛イベントの経験あるの?」

「もちろんにゃ。過去二回とも、レガリア城下町を護ったにゃ」

「やっぱ、ここを落とされるとマズイもんね」

「王城、クランハウス、道具屋通り、封印の洞窟への中継地。色々と重要な場所にゃ。ここと港町シェレナさえ無事ならゲーム的には何とかなるにゃ」


 なるほど。はじまりの街は潰れないし、バンドルや宿場町は重要施設がない。ここと、新大陸への足がかりになる港町シェレナさえ無事なら最悪の事態は免れる……みたいな感じなのかな。


 でも秘密の店があった場所を護れなかったエミリアは、ちょっと悲しそうだった。どうして、人気のない街を防衛しようと思ったのか僕には分からない。でも思い出とかお気に入りの場所があるとか、何か理由があったはずだ。


 こんなにグラフィックが綺麗で素敵なゲームなんだから、できればどこも廃墟になってほしくない。そんなことになれば、誰かの思い出もなくなっちゃいそうだから。


「なんか今、カッコいいこと考えてた風にゃ?」

「そ、そんなことないよ。至って普通」

「こしあんくんは面白いにゃ」


 冒険者ギルドが見えてきたので建物をタップ。室内画面に切り替わったけど、どこで申請……画面右上に、めちゃくちゃデカく《イベント申請はこちら》って書いてあったわ。タップするとメニューが表示された。


《第三回 シンボル防衛イベントに参加しますか? する/しない》


 するを選んでクラン名を記入。続いて防衛拠点の選択画面が表示されたけど……。



 はじまり 防衛クラン 0 防衛人数   0

 レガリア 防衛クラン81 防衛人数5022

 ダーク村 防衛クラン 8 防衛人数 315

 バンドル 防衛クラン13 防衛人数 403 

 宿場町  防衛クラン 1 防衛人数  12

 シェレナ 防衛クラン63 防衛人数3248



「ダーク村?」

「商業都市バンドル近郊の森にあるにゃ。ダーク系のプレイヤーにしか見つけられないにゃ」


 そんな場所があったのか。でも考えてみたら、ダーク系の人って街に入れないから不便だもんね。こんな救済措置でもないと、ストレスが溜まりそうだ。


 はじまりの街は防衛クランがゼロか……。実質防衛する必要がないから仕方ないとして、宿場町の不人気さが如実に現れてる。中継地点としての役割しかないし、施設数も少ないから仕方がないとは思うけど。どこかを切り捨てろと言われたら、僕も宿場町かなとは思うけど。


『ここを防衛してたのはウチのクランだけだったから、失敗は仕方なかったんだけど……ちょっと悲しかったな……』


 エミリアの言葉が脳裏を過る。ひとつのクランだけで防衛するなんて、多分無理だ。このイベントが終われば宿場町が消えてしまう。


 思い出もないし、お気に入りの場所でもない。特別なことなんて何もなかった街だけど、みすみす廃墟になるのを見過せない。


 僕の弱小クランが入ったところで、防衛人数は二十人に届かない。でも僕には……こしあんには、ゲーム内随一の資金力と激レアアイテムの数々がある。裏方につくことで、防衛が少しでも楽になるのなら……。


「決まったかにゃ?」

「えっと……ポイントを稼ぎたいニャン汰さんには悪いんだけど」

「宿場町かにゃ?」

「うん、あそこの防衛に参加したいんだ」

「分かったにゃ。さっさと申請するにゃ」

「え、良いの?」

「MMORPGは想いをつなげるゲームにゃ」


 このネコが男前すぎて、思わず惚れそうになってしまった。






 四章 弱小クランでオンライン 了

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