第43話

 クランを設立するのに必要な条件は、お金と上位ジョブになっていることだった。どちらもクリアしてるから、さっそく冒険者ギルドの専用窓口を訪ねてみる。


《ここはクラン専用窓口です。本日のご用件をお伺いします》



 ・クランの設立

 ・クラン効果の変更

 ・ウランの廃棄



 とりあえずウランの廃棄をタップ。


《よそでやれ!》のメッセージと共にメニューウィンドウが閉じた。うん、想像通りのツッコミに大満足だ。


 専用窓口を再度タップして、今度こそクランの設立を選択。新しいウィンドウがポップアップして、クラン名の入力画面が現れた。


 考えていた名称、【ラッキーサークル】を入力。費用を支払って設立完了。大金を払ったのに、とても味気なかった。


 冒険者ギルドを出てメニュー画面を開くと、そこには新しく【クランハウスに移動】の項目が。迷わずタップすると画面が切り替わり、一瞬でクランハウス内に移動できた。


「何もない……」


 椅子も机も窓もなく、あるのは出入り口の扉だけ。そんな白い空間に、ポツンとひとり佇むこしあん。【クランメニュー】なるアイコンが、画面右上で点滅してるだけ。


 クランメニューをタップすると【クラン効果設定】と【内装変更】の項目があった。内装変更を開いてみたけど、選べるものは何もない。クランポイントで購入可能と書かれている。


 クラン効果設定を開くと、恩恵を与えるステータス値が選べるようになっていた。迷わず幸運を選択。最初は【1%】からスタートで、これもクランポイントを使えば増やせるらしい。


 クランポイントって何だ? どこかで聞いたような気がするけど……あ、イベントで獲得できるやつか! じゃあ今は関係ないね。


 さて、やることもやったしレベル上げに参りましょうか。


 扉から外に出たら、さっきと違う場所だった。でも見覚えはある。ここはレガリア城下町の大通り。クランハウスは、どこで設立申請をしてもここに建つ仕様らしい。


 ヴァネッサを雇おうと傭兵ギルドに入ったら、いつもと違う画面になった。グラフィックは闇市システムイベントみたいなアニメ調に。


 コツコツ……と足音を立てて、ゆっくり奥から近づいてくる鉄仮面の女騎士。ヴァネッサだ。もしかして本当に恋愛フラグが立ったのか?


「私は今、人生の岐路に立っている。これからも傭兵として生きるべきか、それとも……」


 光源を無視したスポットライトに照らされ、ミュージカルのように両手を広げて天井を仰いでいる彼女。何してんだよ。


「ハッ! あなたは……」


《今日も雇いにきたよ/今日も貢ぎにきたよ》


 え、選択肢がでるの? 当然のように、今日も貢ぎにきたよをタップ。あ……やってしまった!


「わ~い嬉しい。今日はヴェトンのバッグが欲しい気分なの~、って違う!」


《何か悩みごと?/今日も雇いにきたよ》


 何だか分からないけど正解だったようだ。ヴァネッサって、ノリツッコミできるんだ……。ここからは意識をしっかり持って答えを選ぼう。何か悩みごと? をタップ。


「実は……あなたと冒険するうち、もっと自由な立場で戦いたいと思うようになりました」


《冒険者になるってこと?/今日も雇いにきたよ》


 冒険者になるってこと? をタップ。


「はい。しかし傭兵として生きてきた私には仲間がいません。ひとりでモンスターを倒せる自信もないのです」


《うちのクランに入りなよ/今日も雇いにきたよ》


 こ、これはもしや、NPCが仲間になる流れでは……! うちのクランに入りなよをタップ。


「良いのですか! あなたなら信用できます、信頼もしています。それにあなたのことを…………ぜひ、私を仲間にしてください!」


《これからは仲間だ!》


 一択になった! もちろんタップ。


《NPCヴァネッサがラッキーサークルに入団しました》

《NPCヴァネッサのジョブチェンジが可能になりました》

《NPCヴァネッサのセカンドキャラを設定可能になりました》

《NPCヴァネッサの加護を設定可能になりました》

《NPCヴァネッサにアイテム譲渡が可能になりました》

《NPCヴァネッサの装備変更が可能になりました》

《NPCヴァネッサの好感度が上がりました》


《隠しイベント 傭兵を仲間にしよう達成》

《ヴァネッサ専用装備 真紅の大盾を獲得》

《絆の証を獲得》

《仲間にした傭兵は、クランハウスに常時待機します》

《パーティ申請を送って一緒に冒険をしてみましょう》


 そして通常モードに切り替わる画面。そこはいつもの傭兵ギルドで、さっきまで近くにいたヴァネッサの姿は消えていた。


 そうか、これが好感度によって起こるイベントだったんだ。条件はクランに所属していることと、傭兵の好感度が一定以上あること……だと思う。


 試しに傭兵ギルドの受付をタップしてメニューを表示させたけど、そこにはもうヴァネッサの名前がなかった。急いで、クランハウスに戻らなければ!


 クランハウスに戻ると、何もない部屋の片隅に直立するヴァネッサがいた。何だかとても感慨深い。


 僕がこのゲームを始めたころから、ほぼずっと一緒に戦ってきた傭兵。お金はかかるけど、その分の働きはしてくれた守護騎士。そんな彼女が今は僕のクランにいて、これからは冒険者として共に戦える。


 ヴァネッサをタップすると、見なれないメニューが表示された。これはクランハウス内専用のメニュー画面なのだろう。



 ・ジョブチェンジ

 ・セカンドジョブ設定

 ・装備変更

 ・アイテム譲渡



 傭兵は上位ジョブにもなれないし、セカンドクラスも設定できないのが今までの認識だった。だからいづれ役立たずになる未来が見えていたのも事実。でも、これなら……好感度を上げてクランに入団した今なら、プレイヤーみたいに強くなれるんだ!


 そうと分かれば、他の傭兵も雇い続けて好感度を上げるしかない。イベントには間に合わないだろうけど、いつかきっと力強い仲間になってくれるはずだ。


 まずは、ヴァネッサをジョブチェンジさせてみよう。

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