第34話

 転移門を使ってレガリア城下町へ。そこからフィールドへ出ると、数十人のプレイヤーが防壁を背にして集まっていた。みんな一様に金色の瞳で、一様に少し耳が尖ってる。


 僕はシーフを選んで少し苦労したけど、町に入れず、装備が調達できないばかりに足止めをくらっているダークも苦労してそうだ。むしろダークのほうが不遇かもしれない。闇市システムを使えるようになったら違うだろうけど。


 それにしても……。


 困ってるなら、向こうから話しかけてくると思ってたのに。誰もこしあんにチャットを飛ばしてこない。ここでもシーフ系は敬遠されてるのかな。


「あ、あのっ!」


 ようやくチャットをくれるダークの人が現れた。


「やめとけ。どうせ断られるぞ」

「そうそう、しかも上位ジョブの奴じゃねーか。冷やかされて終わりさ」

「でもっ、頼んでみるくらいは良いでしょ!」

「まあ、好きにしろや」

「新人が一度は味わう挫折さ」


 うわ……、ものすごく荒んでる。この人たち、どれだけ断られ続けたんだよ。というか、じゃあどうしてまだ、ここにいるんだ? このままだと何も解決しないのに。


「闇市システムのクエストでしょ? 良いよ、手伝うよ」

「え……えっ、えっ?」

「さあ、内容を教えて。ささーっとやっちゃおう」

「本当に? お兄さんみたいな上位ジョブの人が?」

「そのために来たんだ。いろいろ検証するのが趣味だから」

「ありがとうございます! じゃあまず私とパーティを組んでください」


《カプールさんからパーティに勧誘されました。 受ける/受けない》


 もちろん承諾してパーティ結成。その途端、画面が切り替わって世界が大きく……街の防壁、門、足元の石や雑草とプレイヤーの比率が、かなり忠実に再現された。今まで【よくできたグラフィック】だったものが【3Dアニメ】っぽく変化したのだ。いや、これはもう【3Dアニメ】以外の何ものでもない。


 こしあんは見た目が滑らかな感じになって、いつもよりアップで画面内に映っている。柔らかな風に揺れる頭髪の一本一本が確認できるほどに。


 ダークの子もそれは同じで、胸には小さな膨らみが確認できた。声変わりのしてない男の子かなと思ってたけど、スレンダー系の女子だったようだ。


 イベントの挿入シーンによくあるアニメみたいだけど、違うのはこのまま動かせるという事実。これが、闇市システムクエストの専用モードみたいだ。悪くない、むしろ良い。


 この状態でもメニュー機能は問題なく使えるようなので、【パーティメンバーの状態】から彼女のステータスを確認してみた。



 キャラネーム カプール

 ジョブ1 ダークLV10

 ジョブ2 なし

 HP 190

 MP 180

 物理攻撃力 21+2+15(見習いダークの剣)

 魔法攻撃力 17+1+15(見習いダークの剣)

 物理防御力 20+1+15(見習いダークの胸鎧)

 魔法防御力 18+1+15(見習いダークの鉢金)

 速度 10+1+5(見習いダークのブーツ)

 幸運 1+5(見習いダークの腕輪)

 ジョブ特性 全ステータス10%アップ 取得経験値30%ダウン

 ユニーク特性 取得経験値26%アップ

 ジョブスキル ダークロアLV3 ダークヒールLV4

        ダークスラッシュLV2



 バランスの取れた隙のないステータスだ。こしあんが同じレベルのときは隙しかなかった。やっぱりダークは良い。すごく理想的。ジョブスキルの名称もそそる。


「マジか! あいつパーティ組みやがった」

「めっちゃラッキーだな。兄さん、あとで俺たちも頼むわ」

「一度試して、面倒くさくなかったらね」

「……望み薄か」

「……実際、面倒だしな」


 ダークの人たちが落胆してる。周囲の彼らも3Dアニメ化しているので、驚愕や諦めの表情が細かく見て取れる。面倒じゃなかったら手伝うから、希望はほんの少しだけ持っていてほしい。


「じゃあ、お兄さん。さっそくで悪いんですが行きましょう。あ、私、カプールって名前です」

「僕は、こしあん。ハイシーフだから戦闘は期待しないでね」

「戦闘はないと思うので大丈夫です。でもハイシーフさんですか、初めて見ました」

「人気ないもんね」

「あはは……」


 カプールに連れられてレガリア城下町の防壁沿いを反時計回りに歩く。街もリアルな比率になったので、どこまでも続いてるような壁を左手に進んだ。


「これって、どこで何をするの?」

「街の裏側からスラム地区へ潜入するクエストです。近衛兵に見つかったら、やり直しですけど……」


 この縮尺だと、街の裏側に移動するだけで何時間もかかる気がする。僕はもうすでに、手伝ったことを後悔しかけていた。

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