第32話

 まさかの新情報で、体中に電流が走った。実際には電気も電車も走ってないけど。今すぐ確かめに行きたい想いが無限大。


 あのときは、どうしてドロップしなかったのか。たまたまなのか、それとも僕のゴブリンに対する思い入れが足りなかったのか。もっと彼らに愛情を注ぎ込まなければならないのか。届け、この熱い想い。敵の持ってる激レアアイテムが一種類だと、いつから僕は錯覚していたっ。


 でも今は、まず封印の洞窟だ。通せんぼキャラの激レアアイテムを先に調べてしまいたい。待ってろよ、ゴブリン。必ず会いに行くからな。



「くはははっ、この私に挑むとは身のほど知らずな人間だ」


 このゲームで喋るタイプの敵に初めて出会った。厳密にいえば二回目だけど、一回目は印象にないからノーカンだ。こいつの名称はレッサーヴァンパイア。ヴァンパイアだけどレッサーだから、ヴァンパイアもどきみたいな存在だ。


 商業都市バンドルを南下して封印の洞窟へ到着。入ってすぐの部屋に待ち構えていたのが、このレッサーヴァンパイアだった。配置場所から考えて、こいつが通せんぼキャラで間違いない。曖昧な記憶しかないけど。


 ゲーム的には中ボスクラスの強敵……のはず。どんな攻撃をしてくるのかも謎。でもクリームの魔法三発で消滅した気がするから、感覚的にはフィールドの雑魚モンスターと大差ない。


「ヴァネッサ、突っ込んでタウント!」

「分かりました」


レッサーヴァンパイアの爪が伸び、ヘイトを集めたヴァネッサに襲いかかる。


「せいぜい私を楽しませてくれたまえ」


【14】【14】と二回ポップアップする被ダメージ。こいつレッサーのくせに連続攻撃してくるのか。


【被物理ダメージ20%ダウン】をジョブ特性に持つヴァネッサにこのダメージなら、元のダメージは【18】。物理攻撃力は……【160】か。中ボスにしては弱いな。これならガードスタンスを使わせるまでもない。


 定石通り、背後から近づきバックアタック。【49】【49】【49】【49】【49】【49】【49】【49】と、合計【392】の与ダメージ。


《ハイスチール失敗》

《ハイスチール成功》

《ハイスチール失敗》

《ハイスチール失敗》

《ハイスチール失敗》

《ハイスチール成功》

《ハイスチール失敗》

《ハイスチール失敗》


 ハイスチールも成功して、レアアイテムも盗めたようだ。でも表示から推測するに、まだ何か隠し持っている。しかもHPは一割弱しか削れてない……だと?


 硬直している隙にもう一閃するも、それでようやく一割ちょっと削れた感じ。特に強くも硬くもないくせに、HPだけはやたらと高い。リザードマンもそうだったけど、中ボスモンスターは総じてそんな設定なのだろう。


「くはははっ、こそばゆいわっ!」


 こしあんの与えたダメージに怯まず、攻撃を繰り出すレッサーヴァンパイア。そのこそばゆさも、塵と積もれば何とやらだぞ!


「ガードスタンス!」


 さすが堅実派でサービス残業をしない主義のヴァネッサ。硬い体をより硬くして、被ダメージをとことん抑えるつもりだ。


「さすがだぜ、相棒」

「ふふっ」


 …………おお!

 戦闘中に反応してくれた!


 これは嬉しい。すごい進歩。雇用費用を惜しまず、ここまで連れ回した甲斐があったというものだ。僕、君のおかげでもっと頑張れるよ。


「ダークヒール」


 HPバーが半分になったころで、レッサーヴァンパイアが回復魔法を唱えやがった。緑色の文字でポップアップする【500】の回復量。モンスターなのに回復するとかずるい。でもその回復量なら、こしあんの攻撃二発で追い越せる。


 時間はかかるけど、このまま続ければ勝てない相手じゃない!


「くはははっ、雑魚め!」


 レッサーのくせに生意気な。いやいや、お前のほうが雑魚だからな。こっちはもう、勝ち筋が見えてるから、負けはないんだ。


「アッ――」

「え?」


 ちょっと可愛い声を漏らしたヴァネッサのHPバーが、グングン減ってゼロになった。


「また雇ってください……」


 死にゆく別れ際の台詞にしては、ちょっとおかしな言葉を残して消滅する彼女。何が起こったのか全く分からない。


【82】【82】


 放心状態の僕に襲いかかる無慈悲な連続攻撃。今まで散々「くはははっ」とか笑ってたのに、こんなときだけ無言で攻撃かよ。悪役の美学を分かってないレッサーだ。


【82】【82】


 そして全損する、こしあんのHP。


 ここへ来るまでの戦闘で、セカンドジョブのレベルも【12】に上がっていた。かなり物理防御力にSPを振って、少しは硬くなってたのに……。

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