27、魔力制御と魔法
夕食後。
おれたちは部屋に戻ってきていた。
いまはおれの部屋で魔王と顔を突き合わせているところだ。
「……いいか、魔王。とにかくヨハン相手には死ぬほど手加減しろよ? ほどほどじゃヨハンが死ぬかもしれん」
「ははは、おいおい。まるで人を化け物のように言うではないか」
「お前の腕力は十分化け物なんだよ!? どこの世界に熊を倒して盗賊を何十人も蹴散らす女の子がいるんだよ!?」
「ちっちっち、分かっておらんなぁ、お前は」
なにやらムカつく仕草をされた。
ムッとしたがとりあえず話を聞くことにした。
「……分かってないって何がだよ?」
「確かに魔力制御によって妾の身体能力は前よりずっと強化されているが……それでもたかが知れている。元々からしてこの肉体は脆弱過ぎるのだ。本気で全力を出したら身体が負荷に耐えられんだろう」
「……なに? そうなのか? いや、待て。じゃあお前は今まで一度も本気なんて出してなかったってことか?」
「ああ。仮に本気を出して相手を殴ったらこんな細腕すぐに砕ける。魔力で身体能力を上げるにしても限度があるからな。だから妾は決して腕力だけで敵と戦っているのではない。魔力の流れを読んで、それを利用しているに過ぎんのだ」
と、魔王はしたり顔で言った。
何かむかつく顔だったがそこは流した。
「……そういや、前もそんなこと言ってたな。急所がどうとかって」
「そうだ。魔力を持たない存在など一つもない。全てには魔力があり、全ては大いなる流れの中によって繋がっている。一は全であるし、全は一であるということだ。相手の魔力、大気中の魔力、そして自分の魔力――それら全ての流れを読んで〝急所〟を狙えば過度な力は必要ない。そこを突いてやるだけでいい。簡単なことだ」
「いや、全然簡単じゃねえんだが……おれたちには魔力の流れなんて分からねえし、そもそも魔力を感じ取るのに必要な〝感覚〟もねえんだからさ」
「らしいな。だが、妾は感じ取ることができるぞ? 今は亜人の身体だが、以前と同じようにな」
「それについては恐らく、前世の記憶情報がお前の脳に何らかの影響を与えたんじゃねえかとおれは推測しているが……」
「……ん? どういうことだ?」
「確かに今のお前はおれたちと同じ身体だ。だから本来は魔力や四元素を知覚する能力はないはずだが……お前の持つ前世の記憶情報が脳に影響を与えたせいで、もしかしたら本来はおれたち人間には存在しない脳の部位が形成されたのかもしれない。それで魔力や四元素が知覚可能になってる――というわけだ」
「なるほど……分からん」
「まぁ本当のところはおれにも分からん。でも可能性はある。人間の脳は人間の身体ごときで使うにはあまりにも高性能過ぎて、本来持ってる処理能力の半分も使ってないんだ。使わなくても生きていけるからな。ようはそれだけ能力を拡張できる余地があるってことでもあるわけだ」
人間の脳に関する研究は魔術の分野でもけっこう進んでいた。
そもそも魔術は〝外的作用学〟と〝内的作用学〟の二つがあって、内的作用学においては脳の研究は大きな課題だったのだ。
「やっぱりさっぱりよう分からんが、まぁようするに妾が前世の能力を引き継いでいる可能性は十分にあるわけか」
「そういうことだ」
「ふむ……ならばお前にも、もしかしたら可能性はあるのやもしれぬな……」
「可能性? 何の話だ?」
「いや、何でもない。気にするな」
「……? まぁいいが……あと、前も言ったように〝魔法〟は人前では使うなよ?」
「分かっておる。というか、今はまだ〝魔法〟が使える段階にないからな。妾も無闇に使うことはない」
「使える段階にないってのはどういうことだ?」
「魔法とは己の魔力を使って四元素を操ることで現象を発生させるものだ。まずは魔力制御が完璧でなければ魔法を使う段階には至らぬのだ。それが未熟なまま魔法なんて使おうとすると暴発して自分が危険だからな」
「……え? お前の状態でもまだ〝未熟〟なのか?」
「魔力量が多いほど制御を完璧にするには時間がかかるのだ。ましてや亜人の身体だしな。まぁ初歩的な元素干渉くらいならできるとは思うが……たぶんまだうまく加減ができん。可能な限り力を抑えて使っても余裕で人が死ぬレベルだろう」
「お前やっぱヨハンと勝負するのやめよう???? な????」
「あくまでも魔法を使えば、の話だ。使うことはないから安心しろ。まぁ、ヨハンのことは別に取って食ったりはせん。軽く相手してやるだけだ。そう心配するな。ははは」
と、魔王は軽く笑った。
もちろんおれは「そうか分かった」とは素直に頷けなかった。
……なーんか心配なんだよなぁ。
μβψ
その後、魔王は自分の部屋に戻り、おれはベッドに潜り込んだ。
……しかし。
「ぜんぜん眠れん」
目がギンギンに冴えていた。
今日だけで本当に色々とあったというのもあるが……明日のことが気になりすぎて眠れる気がしなかった。
……ここはもう
今はまだ周囲は魔王のことを『すごいやつ』という目で見ているが、それがどこでいつ『異常』と見られるようになるか分からない。
……あいつ自身、少し楽観的なところがあるからな。
やはりここは、おれがちゃんとしてないとな……あいつの面倒を見ることができるのはおれだけなのだから。
「……」
……いや、違うぞ?
別にあいつの心配をしてるんじゃない。
そういうことではない。ただ自分に火の粉が飛んでこないようにしたいだけだ。決して魔王の心配をしているわけではない。
「くそ、アホらし……寝よ寝よ……」
おれは頭から布団を被り、ぎゅっと目を瞑った。
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