14,リーゼの騎士階級
やがて、おれらは城門までやって来た。
城壁の周りには堀があって、そこから橋を渡してある。
さすがに昔の城壁なだけあってかなり大きかった。
「シャノンくん、あんまり真ん中を歩くと危ないですよ」
口を開けて城壁を見上げていると、リーゼに手を引っ張られた。
「あ、すいません」
「城門は色んな乗り物ががよく出入りしますからね。気をつけてください」
「分かりました」
リーゼの言うとおり、城門は多くの乗り物が出入りしていた。
実はさっきから陸行艇や機械馬の姿もけっこう見かけるのだ。城門を出入りしているのはほぼマギアクラフトで、むしろ馬車は少なかった。
「おい、大賢者。また馬無し馬車が来たぞ」
ぐいぐいと、魔王に服を引っ張られた。
さっきから魔王はずっとこの調子だ。陸行艇が来るたびに、まるで子供のように目を輝かせていた。
……そこにはさっき感じたような、突き放すような感じはもうなかった。
やはり気のせいだったのだろうか?
うーん……よく分からんな。
おれの考えすぎだったかな……?
ま、まぁ別にこいつに嫌われようがおれには別にどうでもいいことだけどな!
「おい、どうかしたか?」
「え?」
魔王がおれの顔を覗き込んでいた。
めちゃくちゃ距離が近かった。
思わずおれの方から距離を取ってしまった。
「べ、別に何でもねえよ」
「何やらぼうっとしていたようだが……」
「ちょっと考え事してただけだ。それより、あれは
「何を言う。妾たちは正真正銘の田舎者ではないか。今さらそれを笑われたところで恥じ入ることもあるまい」
魔王はけらけらと笑った。
その姿は何というか……本当にいつも通りだった。
くそ、なんかおればっかり気にしてるのもアホらしくなってきたな……考えるのやめやめ!
おれは頭を切り替えた。
魔王がいつも通りにしているのだから、こっちもいつも通りにしていればいいのだ。
……しかし、こうして外に出てくると、おれたちがこれまで暮らしていた環境がどれほど辺境だったのかがよく分かる。そこらへんを歩いている平民のほうがおれたちよりは金持ちに見えるくらいだ。
城門には門番らしき騎士の姿が見えた。
まだ若い男の騎士だ。恐らくリーゼよりも若いだろう。
貴族は10歳から15歳まで学校に通うから、学校を出てまだ間もないくらいの年齢に見えた。
こっちに気がついた騎士が驚いた顔をした。
「こ、これはリーゼ班長!?」
騎士は慌てて胸に手を当てて敬礼した。
すると、リーゼも同じように答礼した。
「お役目ご苦労様です。遠征でしばらく席を外してしまい、ご迷惑をおかけしました」
「いいえ、とんでもありません。フレンスベルクへ行かれていたのですよね? もしかして昨年発生したワイバーンの調査に関することでしょうか?」
「いえ、それとは別件ですよ」
と、リーゼは答えた。
おれはちょっと「あれ?」と思った。
ワイバーン?
確かに最初はそういう話でテディたちはやって来ていたが、蓋を開けてみればそれは間違いで実際にいたのは
……待てよ? そう言えば、あの一件は〝機密〟になったとかテディが言ってたな……? もしかして
「おや? 班長、そちらの子供たちは?」
男の騎士がおれたちに気がついた。
「この子たちはテディ様の客人です。貴族街へ入れてあげたいのですが……手続きをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え? テディ様の? わ、分かりました! すぐに手配します!」
騎士は慌てて城門の詰め所みたいなところで駆け込んでいった。
……というか、今の騎士ってもしかしてリーゼの部下か何かだろうか?
確か〝班長〟とか言ってたような気がするが……?
「あのう、リーゼさん」
「何でしょう?」
「今の人はもしかしてリーゼさんの部下ですか? リーゼさんのことを班長って呼んでましたけど」
「ええ、そうですよ。彼はまだ新人で、今年の初めからわたしの班に配属されているんです。なので〝騎士階級〟はまだ五級ですね」
「……ん? 新人で五級……? ちなみにリーゼさんは何級なんですか?」
「わたしは三級ですよ」
「三級? そんなに若いのに、ですか?」
おれはちょっと驚いてしまった。
騎士には生まれもっての身分階級の他に〝騎士階級〟というものがある。
まぁ騎士階級と身分階級はほぼイコールのようなものだが、騎士団内での指揮系統を決定するのにより細かい序列が必要になるため設けられたものだ。同じ身分階級同士でも先任と後任でどっちの序列が上とか色々とあるからだ。
騎士階級は一級、二級、三級と順に数えていく。
一級騎士だと騎士団のトップ――つまり総長や副総長だ。二級は大隊長、三級は中隊長――という具合だった。
おれの知っている感覚からすれば、三級騎士はかなり上位の部類だ。少なくとも小貴族がなるようなポジションではなかった。それに五級も決して新人のなるようなクラスではなかったのだが……今と昔とでは違うのかもしれないな。
リーゼはどや顔をした。
「ふふん、まぁ確かに〝班長〟クラスではわたしが一番若いですね。他はみなベテラン揃いですから。こう見えても小貴族の中では出世頭なんですよ?」
「へえ、それはすごいですね」
とりあえず褒めておいた。
なら仕事中に酒は飲まないでくれ、頼むから。
「ところで、一つ訊きたいんですけど……騎士階級ってもしかして五級までしかないんですか?」
「ええ、そうですよ。五級が一番下です」
「……そうか。五級が一番下なのか。昔はもっと下まであったけど――」
「ん? 昔は?」
「ああ、いえ違います何でもないです!?」
おれはとっさに誤魔化した。
すると、ちょうどいいタイミングでさきほどの騎士が戻ってきた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます。さ、行きましょう二人とも」
おれたちは詰め所の中へと入っていった。
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