3,大事な話、再び
「シャノン、ちょっといいか?」
夕食後のことだった。
食器を片付けて、さていつものようにお風呂の用意でもするか、と思っていた時にダリルに呼び止められた。
「何ですか、父さま?」
「うむ。ちょっと話があってな」
真面目な顔をしていた。
なるほど。これは大事な話なのだな。
「シャノン様、お風呂の用意でしたらわたしがやっておきますので」
すかさず、魔王がエリカスマイルでそう言った。
うちの風呂は薪で沸かすやつだ。普通に平民の家にあるやつと変わらない。
……さすがに今はティナとは一緒に入ってない。
いやぁ、物心ついた時点では前世の記憶を思い出してたからなぁ……
「ああ、悪いなエリカ。怪我はしないようにな」
「いえいえ。お義父さまとシャノン様は、ごゆっくりお話していてください」
魔王は外に出て行った。薪で風呂を沸かすためだ。
……相変わらずの気の利かせ方だ。隙がない。
「あいつもすっかり元気になったな。病弱だったのが嘘のようだ」
と、ダリルは言った。その顔は親らしい、優しげな顔だった。
それからおれに視線を向けた。
「お前の〝お守り〟は本当によく効いているようだな」
「え、ええ。そうみたいですね。いやはや、苦労して手に入れた甲斐がありましたねぇ……ははは」
おれはちょっと視線を逸らしながら笑った。
……〝お守り〟の
まさかあれが自作の魔術道具などとは口が裂けても言えない。しかもペンダント・トップの中にはいまのうちの財産では絶対に手が届かないようなオパリオスが内蔵されているわけだが、それも秘密事項だ。知ったら多分腰を抜かすと思う。
じゃあ、あれはいったい何なのかという話になるわけだが……おれは〝世界でいちばん、よく効くお守り〟だと言い張っている。
「やっぱりどこで手に入れたかは秘密か?」
「えっと……すいません。それだけは言っちゃダメって、もらった時に言われたので……」
おれは申し訳なさそうな顔をした。
もちろん『貰った』なんて嘘っぱちだ。
正直、嘘を吐くのはあまりいい気分ではないが……こればっかりは仕方なかった。
ダリルはふっ、と顔を緩めて、
「いや、いい。言えないのなら仕方ない。約束は守らねばならないものだからな。それに、お前のことは信用している。だからもう、これ以上は聞かないことにしよう」
と言った。
本当は色々と不思議に思っているだろうが、ダリルはそれらを飲み込んだ上でそう言ってくれたのだろう。そう思うと頭が上がらない。本当にいい父親だ。
「ま、そのことはいい。とりあえず座れ。お前にしなきゃならん話があるんだ」
何の話だろうかと思いつつダリルの向かいに座った。
おれたちはテーブルで向かい合った。
……何の話だろうな?
ダリルはやけに真面目な顔をしているように見えた。
以前、こうやって切り出されたのは魔王との許嫁のことだったが……は!? もしかしてあれか!? おれと魔王の結婚式の日取りが決まったとかか!?
「実はな、テディ様がお前を中央の学校へどうかと誘ってくださっているんだ」
「……え? 中央の学校?」
まったく予想してない話題が飛んできた。
おれが面食らっていると、ダリルは大きく頷いた。
「ああ。まぁもちろん、お前さえよければ――という話だがな」
「……えっと、ちょっと待ってください。話がいきなり過ぎて……うちって地方の小貴族ですよね? 中央の王立学校になんて入れるんですか?」
「普通は無理だろう。だが、テディ様がそこを何とかしてくださると仰っているんだ」
……えっと。
なんだ?
全然話が見えないぞ?
おれが中央の学校に?
順当に考えれば、おれはこの領地の学校へ通うはずだ。中央なんて一生、縁の無いところのはずである。
「あの、父さま。どうしてテディ様がわざわざそんなことをしてくれるんでしょう? というかそもそもあの人は何者なんです?」
「ん? 言ってなかったか?」
「ええ。昔の知り合いだとか、父さまの剣の師匠だとか、そういう話は聞きましたけど……」
「そうか、それはうっかりしていたな!」
ははは、とダリルは笑った。
ここでシリアスな感じは消えた。
「実はな、あのお方は中央の大貴族なんだ」
と、ものすごくさらっと言われた。
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