25、現代の戦闘ドクトリン
見たところ、守備隊の戦力は騎兵が八騎に騎士が十六人ほどのようだ。通常歩兵、いわゆる平民の兵士の姿はない。全員が騎士のようだ。
騎士は鎧から武器まで、全て魔術道具を使う。見たところ全員が完全武装をしているようだ。生身ではとても耐えられないような装備重量でも、騎士は魔術鎧による肉体強化の補佐を受けているから多少重量が嵩んでも問題はない。
昔は徴兵されたことのない平民がよく誤解していたが、騎士は別に剣などの近接武器だけで戦うわけじゃない。むしろ銃は積極的に使う。騎士の使う銃と言えば、それがつまり
遠距離では
これが機械馬に乗る騎兵であれば、そこに
騎兵は機械馬の機動力によって戦闘単位として凄まじいポテンシャルを持っている。
「……なんか、こうして見る限りじゃ昔とあんまり変わってないように見えるな」
騎士の装備を観察したが、機械馬も含めて非常に見覚えのある装備ばかりだった。おれが見たことのないような新兵器などはどこにもない。
……ふむ。
前世から200年近くも経過しているはずなのだから、それはもうおれの知らない魔術道具がたくさん開発されているんだと思っていたが……おかしいな。あれか? 辺境だから装備が古いのか? と思ったがテディは王都から来たんだよな。じゃあ、あれが現代の軍事力の基本的な装備なのか……?
うーん、でもそれにしたって装備がちょっとショボいような気はするよな。ワイバーンとは言えドラゴン種が相手なのだし、それこそもっと威力があって遠くから攻撃できる曲射式カノン砲や、空へ逃げられた時のために自走式対空砲くらいはあってもいいような気はするけどな……?
対空砲、というのは空中に存在している目標を攻撃するために造られたカノン砲の一種だ。通常のカノン砲と違って近接反応炸裂弾というものを発射し、一定距離に魔力反応を感知すると爆発する仕組みになっている。
人間側は魔族に対して圧倒的に数で勝っていたのに、どうしてあんなにも苦しめられていたのかと言えば、それは完全に制空権を取られていたからだ。空は魔族やドラゴンの領域だったのだ。
人魔大戦初期の時代、あの頃はまだ空を飛ぶマギアクラフトは〝
魔力機関というのは、おれが新型の〝自然型魔力機関〟というものを開発するまでは人体型魔力機関しかなかった。ようするに人間の魔力エネルギーを利用する魔力機関だ。魔力エネルギーというのは大気中にも存在しているものだが、それを活用する方法はしばらく開発されていなかったのだ。
人体魔力というのは万能のエネルギーではなく、色々と扱いが難しい。主観性排除操作、一意性制約、そして人間という種族の魔力量上限値限界など、人体型魔力機関の性能は人間の魔力が持つ性質的欠点によってある一定のところでずっと進歩が止まっていた。人体の魔力エネルギーを使うという性質上、どうしても性能的限界があった。
それを解決したのがおれが開発した自然型魔力機関だが、これはこれでやはり万能ではなかった。とにかく装置の大きさが人体型魔力機関の比ではないくらいデカくなるため、小型化して運用するのは無理だった。しかし、そのぶん人体型魔力機関では生み出せなかったような大がかりな機械装置を造ることができるようになった。
いわゆる〝飛行艇〟が建造可能になったのは、この自然型魔力機関が生まれてからだ。飛行艇は気囊艇に比べて速度が速く、かつ浮力も大きかった。武装した飛行艇は〝空戦艇〟と呼ばれて、これによって人間は魔族に対して有効的な空戦能力を得ることができた。空戦艇は魔族たちの飛行高度よりもさらに高く空を飛び、下方に存在している魔族に上空から対空砲などで攻撃するよう造られた画期的な〝切り札〟となったわけだ。
守備隊の装備を観察しながら、おれは考えた。
……いや、さすがにあれだけでドラゴンと戦うわけがないだろう。きっとどこかに空戦艇が待機してるはずだ。対空砲すらない地上戦力だけで、真正面からドラゴンに向かっていくわけがない。それでは人魔大戦初期の戦い方と同じだ。そんな戦い方しかできなかった当時の西側諸国連合がどうなったかと言えば……まぁあえて言う必要はないくらい結果は明らかだった。
あの頃、人間は大陸の西と東の連合に大きく分かれて戦争をしていた。
西側諸国連合体と、東側諸国連合体だ。
魔族が現れたのは西側諸国連合体の中枢とも言えるアヴァロニア王国だったが、これが当時おれの住んでいた国だ。
西側諸国連合はわずか五年ほどで崩壊し、人類は大陸の生存圏を一気に半分も失った。この〝西域の崩壊〟による大混乱と魔族の追撃によって膨大な難民が発生し、このわずか短期間でおよそ数千万の人間が死んだ。20年続いた人魔大戦の中で、この初期が最も多くの人間が死んだ期間だ。以後、人間側は東側諸国連合体を母体とする超国家軍事同盟〝魔王討伐軍〟を組織し、魔族との戦争を継続していくわけだ。
二百年前の人間ですら時代遅れと感じるような戦い方を、まさか現代の人間がするわけがないだろう。
それよりもう一つ気になるのは、輸送用の
……はて、騎兵以外の連中はどうやってここに来たんだ? 徒歩で来たのか? それともチャリで来たのか?
首を傾げながらもう少し後方に視線を動かしてみると、そこには馬車の姿があった。武装していない人間の姿もちらほらあった。騎士なのか兵士なのかは分からないが、どうやら後方要員のようだ。
「……は? 馬車? あの騎士の連中もしかして馬車で来たのか?」
思わず首を捻った。
平民の歩兵じゃあるまいし、馬車で移動する騎士団など聞いたことない。
騎士団なら普通は〝
陸行艇はようするに地上用のマギアクラフトのことだ。車輪がないので〝車〟ではない。そのため〝船〟と呼ばれる。機械馬も分類的にはこれになる。
これは昔なら貴族にとっては当たり前の移動手段だったし、戦場でも兵員輸送にはもちろん陸行艇が使われていた。馬車で騎士を運ぶなど騎士団が壊滅的被害を受けて他に手段がなくなった時くらいだ。
そもそも貴族は車輪のついた乗り物は基本的に馬鹿にしてたから、それでも乗るのを嫌がる連中もいたくらいだ。
ううむ、昔の基準で考えるとよく分からんことばかりだな。戦闘ドクトリンに何か大きな変化でもあったのだろうか……?
「なんか分からんが……まぁ様子を見るしかないな」
おれがここに来た目的はただ一つだけだ。別に見学しに来たわけじゃない。
それはワイバーンのオパリオスを手に入れることだ。
作戦はこうだ。
騎士団がなんやかんやしてワイバーンを倒す。
↓
おれが乱入して煙幕などで騎士団を混乱させる。
↓
混乱に乗じてワイバーンの死骸からオパリオスをかっぱらう。
以上!!!!
……ふ、我ながら完璧な作戦だ。
いちおう
とにかくこっちには時間がない。
貰うもん貰ったら、さっさとここから逃げるつもりだ。
やがて、騎士団に動きがあった。
どうやら行動を開始するようだった。
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