第五章
24,守備隊
「――ね、眠い」
むちゃくちゃ眠かった。
……さすがに夜中の強行軍は無茶だったな。
けれど夜通しヒンデンブルク号に頑張ってもらったおかげで、朝方には目的地付近に到着することができた。
「悪いなヒンデンブルク号。帰ったら死ぬほどニンジン食わせてやるからな」
「ブルルル」
当たり前だ馬鹿野郎、と言われような気がした。
うん、ほんとすまん。
「……さて、もう近くまでは来てると思うんだがな」
いったん川辺に移動した。
ヒンデンブルク号に水を飲ませている間、おれは改めて周囲を見回した。
この辺りは山しかない。人里からは離れた場所だ。
テディの言っていた西の方角で山二つを越えたところと言うと、まぁ恐らくこの近くだろう。
と言ってもこんな何も無いところでドラゴンやテディたちを闇雲に探したところで遭難するだけだ。
だがしかし!!
そこでおれの魔術道具の出番だ!!
「測定しちゃうぞ君バージョン2.01!!」
肩下げ鞄から取りだした物を高らかに掲げた。
特に意味は無い。
説明しよう。
こいつは測定しちゃうぞ君を改良し、指向性アンテナの探知距離を飛躍的に伸ばしたものである。指向性アンテナの有効範囲を伸ばしたことで一種の魔力探知機として使えるようにしたというわけだ。有効範囲限界は大賢者的改造により30プランクからおよそ12キロプランクへと大幅アップ。まあでも対象との相対距離は分からんので、とりあえず反応のある方向に行くしかない。
「中型のドラゴンがいるなら必ず引っかかるはずだ」
おれはアンテナを周囲に向けた。
しばらくそうやっていると、とある方向で急激な魔力反応を感知した。
「よし、こっちか――って、あれ?」
おれは計測器の数値を見て首を捻った。
……なんだこの魔力量?
中型種のドラゴンなんか目じゃないほどの大きな魔力量だった。
いや、これじゃ大型種並みの魔力量じゃねえか……?
ドラゴン種は基本的にかなり高い魔力量を持っている。
小型種でも最低エクサバイト・クラスだ。
小型種なら馬より少し大きい程度だが、ドラゴン種は鳥などと違って魔法で空を飛んでいるため基本的に魔力量が多いのだ。
大型種ともなれば、魔族の幹部級に匹敵する魔力量は持っている。
先日計測した魔王の魔力量がちょうどそれくらいだ。
で、いま計測器に表示されているのが550エクサバイトだ。
……おかしいな。
おれは数値をリセットし、もう一度同じ方向へ向けた。
今度は何の反応もなかった。
……おや?
今度は反応がないな。
装置の誤作動だったか……?
それから何度か試したが、やはり同じような数値は引っかからなかった。
ふむ。やはり何かの誤作動だったようだ。
おれは気を取り直して改めて周囲を探知した。
すると今度こそそれらしい魔力反応をキャッチした。念のために二度計測したが、同じ方向から同じ計測値が探知された。
……121エクサバイトか。間違いない。ワイバーンならだいたいこれくらいの魔力量だ。
「……よし、今度こそ間違いなさそうだ。行くぞヒンデンブルク号!」
「ヒヒーン!」
μβψ
森を抜けて高台にやってきた。
ヒンデンブルク号から降りて手綱を木に繋いだ。
「よしよし。ちょっとここで休んでてくれ」
「ブルルル」
高台の頂上へ移動し、周囲の木々に隠れるように身を低くした。
「へ、へっくしょん!!」
おもくそクシャミが出た。
ずず、と鼻をすすった。
「うーん、もうちょっと厚着してくれば良かったな。夏場とは言え、明け方は思ったより冷えるな……」
まぁそれを言ったところで今さらだ。
なあに、この程度で風邪を引くほどさすがにおれもヤワじゃないさ。
ははは。
「……よし、ここなら周囲の様子がよく分かる」
恐らくワイバーンがいるのがあの辺りだろう、と眼下の森を見下ろした。
直接姿を確認することはできないが、計測器の反応からしてまず間違いはないだろう。あそこに巣があるのかもしれないな。
ワイバーンがあそこなら、地形的に騎士団が陣取るのはあの付近だろうな。
自作の魔術望遠鏡を取りだし、騎士団の姿を探した。
こいつは凹凸レンズで遠くを見る普通の望遠鏡ではなく、魔術式で筒内部の空気の屈折率を調整して疑似レンズとしている望遠鏡だ。
「……いた」
ドンピシャだった。
騎士団は少し森の開けた場所に陣取っていた。
いや、そう言えば今は騎士団じゃなくて〝守備隊〟っていうんだっけか。
昔は国家の保有する軍事力は騎士団と呼んでいた。
しかし、現代では国家の軍事力は守備隊と呼ぶそうだ。色々と調べては見たが、違いはよく分からん。というか多分ないと思う。どういうワケか呼び方だけが変わったようだ。
……あのおっさんの姿もあるな。
先日、うちにやってきたテディ・マギルの姿を確認した。
当たり前だが鎧を身につけて完全武装状態だ。
この位置からでは声は聞こえないが、見たところあのおっさんが指揮を飛ばしているようだった。どうやらテディが指揮官のようだ。
そう言えば、とおれはあの時聞いた会話をふと思い出した。
――それでテディ様が王都から来られたんですね。
……ん? 待てよ……?
あの時はワイバーンのことで頭がいっぱいになって気にならなかったけど……王都から来たってことは、よく考えたらテディは中央貴族なんじゃないか?
中央貴族は例え小貴族であっても、地方貴族で言えば中貴族くらいになるし、同じ大貴族でも中央と地方では雲泥の差だ。
……テディの家格は分からないが、なぜ中央貴族がうちみたいな地方の小貴族なんて訪ねてくるんだ? ダリルの師匠とか言ってたけど……うーん?
でも確かに中央貴族なら魔術道具を持っていてもおかしくはないのかもしれない。中央の小貴族とかだろうか? まぁそれでもうちと比べたらかなり上位家格だしな。気になるのはなぜ中央貴族とうちの家に関係があるのか、だが……。
まぁ、それは戻ってから聞けば良いか。
おれは改めて守備隊の様子を観察した。
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