第3ピリオド(最終話)
響弥に「ハルト」と呼ばれた人物は、
「雅。
響弥に言われて、雅は思い出す。
フェンシング専門誌に
彼は九歳で競技を始めると、
世界大会に出場すれば、
そして
彼は、競技初心者の雅も自然と
雅は
「何やってんだよ、……お前」
波瑠都は茶色く照った髪を
「何って……、ジュース飲んでる」
響弥は手の中にあったペットボトルを持ち上げて、波瑠都に見せた。
雅にでも分かる。波瑠都は響弥に「今何をしていたか」を聞いた訳じゃない。
試合に出ていない「理由」を
「
波瑠都は声を低くして言ったあと、
響弥はペットボトルを下げると、
「雅と、先輩たちの試合観てた」
ペットボトルを手の中で回しながら、響弥が答えた。
「んなこと、聞いてんじゃねえよ」
波瑠都はそう言いながら、響弥の
「波瑠都……」
響弥は
雅は二人の様子に、
いつのまにか、風は止まっていた。
蝉の声はさらに
籠るような暑さは
視線を下げた響弥の額から、汗が流れた。
波瑠都は
「なんで、試合に出てねえんだよ」
波瑠都は睨みながら、響弥を見下ろす。
響弥は一つ息を
「まあ……、色々あったんだ」
「答えになってねえよ」
再び視線を下げた響弥は静かに息を吐いて、
「答えろ、響弥」
波瑠都が詰め寄った。
彼の持つ響弥のペットボトルから、結露が
雅はたまらず立ち上がった。
響弥と出会って数ヶ月だけど、ようやく彼が心の内を話してくれたことを考えると、どれだけ彼が
雅は震えそうになる唇を抑えながら、声を
「……響弥は、フェンシングが好きだから」
途端に、波瑠都の視線が雅に移る。
彼は目を座らせながら、口を開いた。
「なんだお前。関係ないやつは
彼の言葉に、雅は
「関係ある! ……俺は響弥の仲間だから」
雅は生まれて初めて、
唇と膝が震え出したから、雅は目を閉じて深呼吸をする。
息を吐いたあと、雅は言葉を続けた。
「響弥は、今日から俺と、ううん、俺たちとフェンシングをするんだ」
雅は真っ直ぐ、波瑠都を見つめた。
波瑠都が髪を掻き上げる。
彼は鼻で笑うように、雅へと問いかけた。
「だから?」
雅は自分たちのフェンシングへの気持ちをバカにされたような気がした。
「響弥は、大屋くんに負けたりしない!」
汗が背中を流れていくのが分かる。
雅は息が上がって、再び深呼吸をした。
すると、響弥がベンチに座ったまま、低い声を
「今日から、競技に戻る」
響弥は真剣な眼差しで波瑠都を見つめると、
急に、波瑠都は顔を
雅には、彼が唇を
波瑠都は再び、響弥と向かい合う。
「お前を
彼はそう言い
蝉の声が、再び周囲の音を掻き混ぜる。
雅はベンチに腰を下ろすと、
下を向く響弥の表情が、不意に緩む。
彼は手元のペットボトルを何度か手の中で揺らしながら、雅へと呟く。
「……雅」
「うん?」
雅は響弥へと首を傾げた。
響弥は手中のペットボトルの蓋を開けて、ジュースを一口飲んだ。
蓋を閉め直すと、響弥は雅の方へ体の向きを変える。
「
そう言い終えた響弥は笑顔を見せながら、ペットボトルを剣に見立てて雅へと構える。
途端に、雅の全身を
雅は
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
風のフェンサー 水無 月 @mizunashitsuki
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