第73話 横川一家 3

時計は15時を回った。今現在、横川は支払いに来てはいない。時の流れがこれほど遅いものかと焦れてしまう。さっさと17時になればいけるのにと、鼻息だけ荒くしてしまう。まぁ慌てても仕方ないのだが、やはりじっと待つのは性にあわんな。とりあえず、支払いに遅れる舞でも踊っとくか・・・。




そして16時半となった。あと30分。店長もチラチラと時計を見て、やはり落ち着きがない様子だ。俺はというと、ファイルを鞄に入れ出撃準備を整えた。ここまで引っ張ったんなら、もう来てもらわない方が思い切りよく行ける。




そして、17時になる5分前・・・




電話が鳴った。横川からだった。ちょっと遅れるからねーと軽い感じで言ってきた。俺はちょっと待ってと伝え、店長に代わって話をしてもらった。店長が話し始めて2,3分経っただろうか。行け!とサインが出た。俺は会社を飛び出て、車に乗ってまずは横川の自宅へ向かった。向かってる最中、店長から電話があった。




「話してみたけど、たぶん時間稼ぎっぽいな。おそらく今日支払う予定のとこ全部へ電話掛けてるハズだから、他社は動いてないはずやから。とにかく誰か捕まえろ。あまり時間的猶予はないからな。次電話が無けりゃ、動くとこが出てくるはずだし、おかしいと思ったとこは次に電話あっても動くやろな。18時には持ってくるって言ってたから、時間は1時間しかないと思え。じょにー、頼むぞ!」




発破を掛けられた俺は、とにかく横川の自宅へ急いだ。自宅へ着くと、まだどこの業者も来てない。このアドバンテージを生かさなければならないと意気込んでみたものの、あいにく全員不在。集金場所を漁ってみたが、全部入金になってない。ひどいとこは2日前から入金がない。参ったなと思ったが、以前見かけたパチンコ屋に行ってみるかと考えた。が、誰かここに帰ってきたら困るし、業者さん来たら順番待ちになる。あいにく俺は分身の術使えんし。待つか動くか、迷った俺は店長に電話をした。




「誰もいません。以前見かけたパチンコ屋に行ってみようかと思ったんですが、ここを空けるのも誰か帰ってきたら困るし、俺が行ってる間、先に別なとこに来られても困まりますし。どうしましょう?」




店長はひとしきり考えた後、




「わかった。社長呼んでこっちに来てもらう。着いたら俺が行くから。それまで待ってろ。」




わかりましたと応じて、俺はホッとした。1人だとどっちかにしか行けんしな。それから30分ほどして、店長がやってきた。




「社長に来てもらったけど、ブツブツ言ってたわ。今日は社長連中と集まって飲むつもりだったのにってな。まぁ会社閉めてもらってから行って来てくださいと言っておいた。あと横川から電話があった場合はすぐ会社に来てくれと言って、俺が抑えにいくからな。とにかく見かけたっていうパチンコ屋に行ってこい。」




了解ですと俺は車に乗って走り出した。これだけ金無いのにパチンコ屋にいるとは思えんけど、現状で行くところと言えば、そこしかないからな。両親、義両親のとこもあるけど、車で片道2時間と遠い。パチンコ屋に着くと、俺は駆け足でシマを見て行った。運動不足がたたって、足がもつれて転びそうになった。女性店員と目が合って、プっと笑われた。この野郎、笑いやがったな。デートに誘っちゃうぞ!っと思ったが、まぁまだ仕事中。後日誘ってみよう。横川一家を探してシマからシマを足早に見ていくんだが、いるわけねぇよなぁっと思ってた矢先・・・、




いた。




なんと次男が膝立てて打っていた。行儀悪いのぉ。こんだけ支払いに追い立てられても、パチンコする金があるってのは不思議でならんな。俺はおもむろに隣に座り声を掛けた。




「修三くんやね。ワタシ、ヤマダファイナンスのもんやけど、ちょっと話いいかな。」




めんどくさそうに席を立つ修三。次男なのになぜ修【三】なんだろ?まぁ気にしてたら負けだ。山本五十六は56番目ってわけではないのだから。




パチンコ屋から出た俺と修三は話を始めた。




「お父さんが支払いになっていません。正確には支払いに来ると言って、来ておりません。現状では全額返済していただくしかありませんので。残り15万弱、返していただけますか?」




修三はパチンコを途中でやめさせられたこともあり、見るからに不機嫌な顔で、




「そんなん知らんよ。親父がやってることやから、俺に言われても困る。親父に言ってみたら?」




あーこいつ、連帯保証人ってやつがどういうものかわかってないクチか。




「修三くん、キミはお父さんの借りたお金の連帯保証人でしょ。連帯保証人って言うのは、借主、つまりキミのお父さんね。返さなかったり、連絡取れなくなったりした時はすぐに全額返さなきゃいけないのよ。そこに俺は知らんだの、親父がやったことだのは言えんのよ。20歳越えてる大人なんやから、そういうのは通用せんよ。」




修三は慌てだした。親父に連絡取ってみると携帯を出して電話しだした。が、電源を入れてないらしく、何度も掛けているが通じることはなかった。その間に俺は店長に連絡を取った。




「次男見つけました。親父に連絡取らせてますが、電源切ってるみたいで繋がりません。おそらくもうダメなんじゃないすかね?」




店長もウンウンと頷きながら、




「社長にも電話してみたら、時間過ぎても連絡なかったみたいでな。電源を切ってるってことは捕まってるか、はたまた腹決めて逃げる段取りしてるかだな。家に居ても仕方ないし、まぁ息子しか捕まらんなら、そっち一本で行こうか。」




っと、こちらに来ることとなった。




親父に連絡取れない修三くんは困惑してた。まぁ店長来たらゆっくり話するかな。20分ほどして店長が着いたのだが、それまで修三くんはずっと親父に連絡を取っていた。




店長が着き、どう?と聞いてきたが、ずっと親父に連絡取ってますと応え、俺は修三くんに話し始めた。




「修三くん、気が済んだかね?どんなに掛けても出んやろ?つまり払う気はないという意思表示なんよ。そうなったら連帯保証人であるキミに全額払ってもらわないかんのよね。とりあえずお金ある?」




修三は困惑しながらも、




「そんなもん払えるわけないやろ。あったら金なんぞ借りんわい。なんで俺が親父の借りた金払わないかんな。アホらしい。あんまりうるさいこと言うなら、俺も人呼ぶぞ。」




ふーむ、こりゃ少々タリン子だな。人呼んで納得するなら呼んでもらってもいいんだけどな。




「ほぉ。ちなみに誰呼ぶの?」




っと、面白半分に聞いてみたんだが、




「ケンジくん呼ぶからな!」




ほえ?誰それ?ちょっと頭が混乱した。冷静になって聞いてみると、修三は若い頃暴走族に入ってて、ケンジくんとやらはそこの特攻隊長やってたヤツらしくて、今でも少々イキってるっぽい。これはひょっとして、大古に失われし召喚魔法【昔のワル仲間召喚】ではないか!オラ、ワクワクしてきたぞ。呼んでもらっても全然かまわんのやけどな。呼んでもらおうと話しかけようとした時、店長がズイっと出てきて、




「呼べ。時間もったいないからさっさと呼べ。」




あ、店長怒ってる。修三はニヤニヤしながら電話をかけ始めた。




「あ、ケンジくん、お久しぶりっす。修三っす。いや今ちょっと絡まれてまして、助けてほしいんすよ。金払えって詰められてて。自分が借りた金でもないのに払えって言うんすよ。ケンジくんの名前出したのにバカにするようなことも言ってて、困ってるんすよ。」




場所を伝えてたから、来るには来るんだろう。店長を見てみると、あー怒ってるわ。ちょっとムシの居所が悪かったみたいね。タイミング悪いなぁ。




15分ほどして、ケンジくんとやらは原付で来た。なんかヤンキー御用達のジャージって感じで、胸の辺りにでっかい犬があしらってるやつ。同じく原付に乗った仲間らしきやつが3人の計4人。なんかどいつもこいつも田舎のヤンキーって感じだなぁ。まぁ田舎だから仕方ないんだけど。手は出してこないだろうけど、出して来たら出して来たでおもろいしな。店長は機嫌悪いままだけど、俺は何故かニヤついていた。修三は喜々としてケンジくんに駆け寄り、話をしだした。




「ケンジくん、こいつらっす。金払えってうるさいんすよ。話つけてください。」




おお!これも大古に失われし攻撃魔法【たのんまっせアニキ!】だ。いやぁ懐かしいのぉ。中学生の時以来やわ。さてケンジくんとやらは何を言って来るんかね?




ケンジくんは俺と店長の前に立ち、




「俺、こいつのダチなんやけど、なんで金払わないかんの?あんまりムチャ言うようだと、詰めた話をせないかんなるけど、いいの?俺が誰かもこいつから聞いてるやろ?」




はぁ~。溜息しか出んわ。また一から説明せないかんのか。ヤレヤレという感じで俺が話しようとした時、店長が前に出た。あ、結構怒ってる。




「お前はどこの誰?」




と店長が重低音の声で凄んだ。ヤダコワーイ。ケンジくん一同は少々ひるんだ。やっぱ迫力が違うのぉ。そして店長が話を続けた。そんな中、俺は半笑いでそれを眺めてた。




「俺らはこいつの親父に銭貸してるもんや。親父が連絡取れんから、連帯保証人であるこいつに全部返せやって言ってるだけや。それを勝手にお前らが出てきただけやろ。喧嘩売るなら腹決めてやれや。買ったるから。その代わり、後々どうなっても知らんからな。それから、知ってる連中の名前出したら面倒になるからな。ここでチャッチャと終わらそうや。」




あ、ケンジくん完全に吞まれてるわ。弱いもんイジメくらいしかしたことない連中と、海千山千の人間とやり合ってきた店長では年季が違うわな。さらには他に人を呼ばれないように釘を刺す。もっとも呼ばれたら呼ばれたでいいんだけど。所詮チンピラが呼ぶ人間なんぞ、チンピラ以外おらんわな。ちなみに店長がお金のことを「銭(ぜに)」と言った時は、相当機嫌が悪いのでお気を付けください。ケンジくんは吞まれながらも仲間にいいとこを見せないかんみたいで、




「仲間が助けてくれ言ってきたから来たんや。とりあえずこいつ、連れて帰るからな。」




店長はそれを聞いて、ニヤっと笑いながら、




「そうはいかんのぉ。こっちの用事が済んでないから。済んだら勝手に帰ってもらってもかまわん。そうや、丁度えぇわ。お前ら、こいつが払わないかん15万、立て替えたれや。仲間やったら助けたれや。こいつ困っとるやろ。その15万無いっていうのなら、保証人でもかまわんぞ。保証人になってくれたらこいつ放したるわ。どうする?」




ケンジくんたちは店長の迫力にビビッてしまったようだ。ボソボソと言ってるが、何を言ってるのか聞き取れない。店長が業を煮やして、




「さっさと選べや!時間がもったいないやろ!クソガキ共が!」




と怒鳴りつけた。いやいやいや、店長、歳そんなにかわらんですやん。むしろ店長の方が年下の可能性ありまっせ。っと思ってしまったのは内緒だ。ケンジくんは、




「いや、そういう事情なら俺らが入れる話やないんで帰ります。」




そう言い残して4人は原付に乗って帰っていった。




そこに1人残された修三くん。キミは今、何を思ふ・・・・。



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