第38話 青木兄弟 2
ある休日、俺の電話に西本というヤ〇ザから連絡があった。正直あまり付き合いたくはないが、仕事柄どうしても最低限の付き合いをしなくてはならない。こっちから何かを言っていくことはほぼないんだけどね。話を聞いてみると、
笹岡いうやつどこにいるか知らんか。その周辺で金借りまくってトンだやろ?知ってたら教えてくれ。
ウチは断ったんでわからんすよ。なんかあったんすか?と聞くとちょっと時間取ってくれと言われて、近所の喫茶店で会うことになった。
話を聞くに、この西本、自分の女に飲み屋をやらそうとしたらしく、しかしノウハウもないのでコンサルを雇うことにしたそうな。それが笹岡だったってこと。ただ当然のようにヤ〇ザが表にでるわけにもいけないので、女に任せてたらしい。笹岡は女が相手なんで調子に乗ったらしくって、ロクに根拠もないのにあーしろこーしろと言って金をむしり取ったらしい。その金額や300万。正直そこまでいるもんかと怪しんだらしいが、コンサルなんぞ実体のないものには値段があってないようなもんである。まぁ適当に金むしり取るためにやったとこで、店を開けても当然うまくいくわけもなく、早々に閉めるかどうかの瀬戸際になったみたい。で、西本の女が笹岡にどうなってるの?と聞いたが、のらりくらりと言い逃れをしてくるので、やむなく西本が話に行ったらしい。笹岡はそこで初めてヤ〇ザの情婦ってことに気が付いたらしいんだが、どうすることも出来ず、返金しようにもすでに使い切ってたみたいなんで、その場は後日返金しますと約束して、そのままトンズラかましたらしい。
嫁も青木もいなかったすか?と聞いたが、一緒に雲隠れしたっぽい。とにかく探してるから見つけたら教えてくれと言ってきた。まぁ見かけたらということにしといたけど、ノコノコ出歩くわけもないだろしなぁ。
月曜日になり出社して、店長にもこんな話がありましたと伝えたが、触らぬ神になんとやらだなと言い捨て、とりあえずあまり関わり合いにならんように言われた。しかしどうも笹岡と嫁はともかく、青木のことは何故か気になった。母親と日本に来たはいいが、察するに結構苦労はしたと思う。いわれのない差別も受けたかもしれない。その下地があって、今の青木を作り上げたんだろうなと思う。笹岡の嫁も青木と一緒に苦労したんだろうけど、そこは男と女の違いかもしれん。笹岡という人間を頼り切った挙句の嫁と、なんとか前を切り開いていかなけらばならないが、その時まで笹岡に使われることしか出来ない青木の違いだろう。
それから1週間ほどして西本から連絡があった。えぇもん見せてやるわと言われて、なんとなく何のことかわかったから断ったんだけど、西本は俺が来いと言ったら来いやと無理を言ってきた。普段は温厚なおっさんで、ここまでムチャを言って来る人ではないんだけどなぁ。これ以上突っぱねることも出来ず、渋々と指定されたとこに行ってみたが、そこは車で30分ほど走ったまぁまぁ山の中の一軒家。あーなんとなく想像つくわ。こんにちわと言うと、中から若い衆が顔を出した。促されるまま中に入ると、そこには笹岡の嫁、青木、ウチ来た時に付き添ってた男(たぶん兄弟)の三人が監禁されていた。見つかったんすかと聞いたら、居場所がわかって踏み込んだら、笹岡はこいつら置いて車で逃げたらしい。仕方ないからこいつら連れてきたわけだわさと言いながら、西本は青木の顔を思いっきりブン殴った。人という生き物はここまで躊躇なく、人を殴れるもんかと思ってしまうくらいの力で殴ってた。俺が来る前にだいぶシバかれたんだろう。顔が鬱血してたもんなぁ。まぁどっちにしても返金してもらわないかんからと、嫁の方はどこかに連れて行かれた。まぁこっからは想像でしかないが、おそらく風俗に沈められるんだろうな。問題は青木兄弟の方だ。お前なんかいい案持ってない?と言われても、この状況で出てくるわけもなく・・・。
まぁ笹岡にいいように使われてただけだから、正直そこまで罪があるようにも思えんのですけど。一味ってことでなら仕事させて、稼いだ金で返金に当てたらどうでしょう?
と言ってみた。正直目の前で人がぶん殴られるのを見るのは、あまり気分のいいもんじゃないしね。それもそうだなと西本が言い出し、じゃあ俺のやってるとこで働かせてみるってことで話ついた。よしんば逃げても笹岡の嫁でなんとかなるやろしなってことらしい。
結局青木兄弟は情婦のやってる店で、ボーイとして働くこととなったらしい。あれほどボコボコの顔してて使えるんかと思ったんだが、まぁ働いて返していくならそれもよかろうと思う。
1年ほど経ったある日、飲みに出た時にバッタリ青木と会った。俺は友人と次の店に向かって歩いてたとこなんだけど、向こうから声を掛けてきた。
あの時は助けてもらってありがとうございます。おかげでこうやってまともにやれてます。弟の方もお礼を言いたいって言ってたんで、時間あれば連絡ください。
と名刺を渡され、そのまま走り去って行った。お、おぅ・・・としか言えん俺と、顔がポカーンとした友人。渡された名刺を見るとフロア責任者という肩書になってた。ほぉ・・・と感心したんだが、どういういきさつでなったんだろ?と気になって仕方なかった。
数日経ってどうしても気になったんで、西本に連絡を入れてみた。話を聞くに、青木兄弟は最初こそ反発したものの、仕事をさせてみると結構真面目だったみたいだ。今までちゃんとした仕事をしてなかったので、ちゃんとした指導者がいれば、まともな人生送れるような人間だったんだろう。飲み込みも早いし、客のあしらいもうまいわと言ってた。自分の若い衆に入れようかと聞いてみたが、キッパリと断られたらしい。もうちょっと今の仕事をしてもらって、将来は手放して、昼の仕事で真っ当に生きて行ってもらいたいなとも言ってたな。お前も力になってやってくれやと頼まれた。ついでに笹岡と嫁のことにもついても聞いてみたが、笹岡は名古屋で見つけたらしい。そっから先は聞くなと言われた。嫁は大阪の風俗で働かしていたが、ある日突然失踪したみたい。必要経費と返金分は充分払ってもらってるから別にいいけどねと。しかしこの1年ほどで数百万となると、結構無理させたのでは?と聞いてみたが、フフっと笑ってかわされた。青木から名刺を受け取ったことを伝えると、メシでも誘ってやってくれと笑っていた。あの状況からここまでの信頼を勝ち取るとはなかなかのもんだのぉ。
そしてそれから一ヶ月ほど経ったある日、俺は青木から渡された名刺に載ってた携帯の番号へ電話をかけた。
繋がると青木が出た(そりゃそーだ)。元気にやってる?と聞くと青木は急に涙声になって、ご無沙汰しております。あの時はありがとうございますと言ってきた。まぁ俺からしたら勘違いも甚だしいが、本人からしてみたら助けてもらったと思ったんだろな。俺はその場を早く逃げたかっただけなんだが・・・というのは黙っておこう。幸せは少しでも長い方がいい。それがどんなちっぽけな幸せでもね・・・。西本さんからもメシ連れてってやってくれって言われてるんで、ヒマみて行こうか。弟くんも一緒にねと伝えると、それはぜひとも行きましょう。弟も喜びますよと電話の向こうからでもうれしそうな感じは取れた。俺的にはなんか申し訳なくなってきたんだけどね。
ある日曜日の夕方、青木兄弟との待ち合わせ場所に行くと、俺を最初に見つけたのは弟くんだった。いきなり駆け寄ってきて俺に泣きながら抱きついてきた。抱きつきながら、ありがとうございますと連呼されるのはまぁいいとしても、結構人通りのあるとこでの待ち合わせだったんで、通行人の視線が痛い。まぁ落ち着けとなだめて、軽く挨拶をした後、近くの居酒屋に入った。
あの一件からの話を聞いてみた。
あの後、病院に連れて行かれて治療をされて、多少顔がまともになるまで寮みたいなとこに押し込まれてまして、その間西本さんが毎日見舞いに来てくれました。最初はこんな目にあわされてと反発もしましたけど、西本さんが悪いわけでもなく、悪いのは笹岡だったことに気が付きました。また西本さんからアイツ(ワイのこと)に感謝しろよ。アイツがあんな風に言わなかったら、たぶん〇〇してたわ(怖っ)と言われました。それからいろいろ考えて、弟とも話し合い、今この境遇でしかないのならここで生きてみようという結論になり、自分らから西本さんの店で働かせてくれと申し出ました。その後は二人で必死に働きまして、お店での信頼も厚くなりフロア責任者という大役を申し付かりました。給料の方も特に引かれることもなく、最初から満額頂いてますので、西島さんには感謝しています。ガンガン働いて恩に報いようと思っています。
いろいろ話しながら、俺もうれしくなった。なんやかやとワイワイ飲みながら、時折弟くんは涙を流してた。こいつ泣き上戸なのか・・・。しかし、どうしても聞いておかなきゃいけないこともある。姉(笹岡の嫁)のことである。それについてはどう思ってるのだろう?
姉に関してはどうとも思っていません。父親違いますし、あんなおっとりした感じに見えてますけど、笹岡と一緒になって俺らを虐げてましたしね。離れてむしろスッキリしました。
そんな一面をあの女は持ち合わせていたのかと少々驚いたが、そんなことすらも笹岡にいい顔する為の処世術かなぁとも思ったりした。
俺たちは恩に報いる為に貴方の為なら何でもします。それが例え〇〇だとしても!
と、なかなか物騒なことを言いだした。普通に生きてりゃいいだろうし、そこまで求めることもない。そこまでのことを俺が言い出した時は俺の終わる時だわ。
そして楽しいひと時は終わり、会計の時にここは是非払わせてくださいと言われたが、誘ったのは俺だし、俺は君たちの年上だし、君たちの門出を祝してってことでここは俺に甘えとけと言うと、またまた弟くんは号泣しだした。やっぱこいつ泣き上戸だわ・・・。
それからちょいちょい二人をメシ連れて行ったりしての親交を続けていくうちに一年が経った。二人は西本の店を退店し、西本の紹介で昼の仕事をすることとなり、また二人同時に結婚することとなった。関係者だけを集めた小規模な感じではあるが、宴が設けられた。西本が二人の門出を祝う為に設けたと聞いた。あのおっさん、まぁまぁいいとこあるじゃん。当然のように俺も呼ばれたわけだが、二人はここでも物騒なことを言いだした。
俺たち二人は貴方の両手に握られた二本の剣です。振るう時には遠慮なく言ってください。家族放ってでも駆けつけますんで!
いやいやいやいや、家族大事にしろよ。こんなめでたい時に何を物騒なこと言ってんだよ。まぁ気持ちはありがたいけどさ。日本人と言葉のチョイスが違うとこはやはり元中国人といったとこか。
それから十数年ほど経ちはしたが、2人ともいまだに交流はある。2人は結婚した数年後に子供も出来て、幸せな家庭を築いてる。仕事も順調みたいだ。もっぱらの悩みは二人とも子供が思春期に突入して、扱いが難しくなってきてるってことかな。特に青木兄の子供は男の子で、性の方に興味が出てきたらしく、それを聞いた俺がおもしろ半分にエッチなDVDをプレゼントしたんだけど、それを青木兄の嫁が見つけて、俺と青木が正座をさせられて説教されるという事件があった。スイマセンと平謝りしたんだけどね(テヘッ)
俺の両手にはいまだ二本の剣は握られたままである。この先振るうことはないだろうけど・・・・。
ただ、会うたびに物騒なことをいうのは勘弁してほしいかな・・・。
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