第8話 宝石と氣づき
また原石採掘に行くデュラン。しかしエレンも一緒に行きたいと言い出したので連れて行くことにした。
瞬間移動で原石がある洞窟近くまで行く。山の中腹で足元は余り良くないので慎重に移動する。大人2・3人分ぐらいの大きさの洞窟の入口があった。入口付近は暗いので明かりを灯しながら進む。しばらく進むと視界が開ける。
「わぁ~」
思わず感嘆の声を出すエレン。目の前に広がるのはエレンの瞳と同じ色のアメジストの晶洞だった。しかも超巨大。人が何十人も入れるくらいの大きさがある。天井には所々穴があり程良く外の光が入る。
「綺麗だろ?」
「ここ、エレンの部屋…」
エレンは嬉しそうに顔を輝かせていた。足元も全部原石で凸凹している。足元が水没している洞窟もある中で、ここは水も溜まっているところもあるが基本的に濡れることはない。そして、この洞窟自体はとても頑丈で崩れる心配も無く入口から割とすぐに晶洞に辿り着ける。
まさにここは奇跡の洞窟で秘密の場所だった。ここならエレンも安心して連れて来れた。デュランは専用の道具を使い慎重に石を採る。エレンは既に塊になって落ちている加工しやすいものをデュランに確認しながら拾っていた。
作業が終わり洞窟から出る。ここは道がちゃんと繋がっていなかった。だからこそ瞬間移動できるデュランにしか来れない秘密の場所になっていた。次の場所に向かう。
ラプナトルは『宝石の町』として有名だった。そして町全体が豊かに栄えている。
ここを統治し採掘のオーナーとなっている辺境伯とは旧知の仲だった。というもの、以前はここは寂びれた町だったが、デュランがここでしか取れない希少な原石の美しく色鮮やかな結晶の価値を見いだし、宝飾品にして王族へ献上したところ、たちまち人気が出て、この一帯は宝石の町として栄えるようになったのだ。
宝石の採掘は一攫千金のイメージがある。だが実際は採掘には膨大な時間や手間がかかってていた。時には命がけで掘り、砂利を洗い続け、選別する。そんな作業を何日も続けても一欠けらの原石すら出てこないこともある。
故に宝石の価値は高いのだが、ここではデュランの意向で作業する人達に原石の入手の有無に関わらず一定の報酬がしっかり支払われている。
しかも長い年月をかけて培った石の目利きや、不老不死をいいことに危険な場所にも自ら採掘に行ったり、デュランからしてみれば砂利を洗う作業も良い暇つぶしでやっているだけなのだが、その姿に感動した現場の人達からのデュランへの信頼はただならないものだった。
デュランは街でアメジストと他の原石を交換したり仕入れをした。そして作業現場にも顔を出す。最近は原石が余り出ていないと肩を落とす作業員たちにアメジストのお裾分けもしていた。一定の報酬でも十分有り難いことなのに、小さいとはいえアメジストの原石をもらえた人達は感激で涙を流す。しかしデュランは自分も作業を体験しているからこそ、それぐらい作業員は貰って当然だと考えていた。
数名の作業員と新しく採掘を始めた現場に行ってみる。足元が悪い。片側が急斜面になっている細い道をエレンの手を取りながら歩く。しかし、エレンの右側の土が崩れズルっと足を踏み外し斜面に落ちていく。「エレン!!」デュランはエレンを抱きしめると一緒に転げ落ちる。目が回り上手く瞬間移動が出来ない。そのままデュランは一番下の所で頭を思いっきり打ち、気を失ってしまった。
庇ってもらい無事だったエレンは茫然とする。上にいる作業員たちの姿は見えない。仰向けに倒れているデュランを見ると…頭から大量の血を流していた。
「おちたらしぬ、あぶない。しぬはダメ…死ぬは…」
エレンの中で何かが動く…エレンの両目から涙が流れ
「デュランずっと…いない。ヤダ…嫌だ!!デュラン!!!」
エレンはデュランに両手で触り目を瞑る。すると手から眩い光が溢れデュランを包み込んだ。しばらくすると光が収まる。デュランを見ると血は流しておらず落ちる前と同じ状態で寝ているだけだった。エレンは微笑み…静かにまた涙を流す。そのままデュランに覆いかぶさるように倒れこんだ。
***
デュランは目を覚ます。開けた青空にはいつか見た白い満月が覗いている。崖を落ちたとすぐ思い出し状況を確認しようと体を動かす。エレンが上に倒れているのに気付き慌てて声をかけるが返事がない。デュランはエレンが怪我をしたのかもと思い蒼ざめるが、よく見ると怪我もなく眠っているようだった。エレンを落とさないように状態を起こす。
ふと自分も気を失う直前に頭を打ち血が出たはずだと手で頭を触り確認するが、血は全く出ていなかった。それどころか、あれだけ転げ落ち衝撃を受けている筈なのに全く体に痛みが無いのは奇跡としか言いようがない。
不思議に思っていると程なく『デュラン様ー!!』と作業員たちが探す声が聞こえ助けを求めた。作業員たちも蒼ざめながらデュランの無事を確認すると涙を流し安堵していた。すぐに辺境伯が駆けつけ屋敷に招待し着替えや食事などを手配してくれた。眠ったままのエレンも念のため診察してもらうが酷く疲労しているということ以外は特に見つからなかった。
一泊しエレンが目を覚ます。まだぼぉーっとしている感じだったので辺境伯は滞在を進めてくれたがエレンは「家に帰りたい」と言うので馬車で送ってもらった。その間もずっと寝ているエレン。いつもと違う様子に戸惑う。家に着いてエレンをベットに寝かせるとそっとおでこにキスをするデュラン。
「危ない目に合わせてしまってごめん。早く良くなって…」
***
「デュ…。…ラン。デュラン!」
誰かが呼ぶ声で目を覚ますデュラン。目を開けると居たのは元気になったエレンだった。着替えも済ませ笑顔でデュランのベット横に立っている。
「エレン!良くなったのか?」
慌てて起き上がり聞くデュランにエレンはにこやかに
「ええ。心配かけてごめんね。もう大丈夫よ。朝ごはんの支度してくるから」
と言って部屋を出て行ってしまった。何となく違和感を感じながらも元気な姿に安堵しデュランも朝の支度を始める。するとエレンがまたノックをしながら返事も待たずに部屋に入ってくる。
これはいつものことだ。デュランが着替えをしてても、バタンと扉を乱暴に開け、デュランがどんな格好してても動じない。初めの頃は根気よくノックの意味を教えたが通じず、照れているのは自分だけかと思い諦めるようになっていた。
「デュラン昨日着ていた服だけど…」
そう言いかけてエレンは止まる。デュランはズボンを履き上半身裸にシャツに腕を通すところだった。
「昨日着ていたのは、いつものカゴの中にないか?…エレン?」
少しぼぉーと顔が赤くなっているエレンを心配するが
「あっごめんなさい!分かった」
と言って足早に去っていった。その後もずっとエレンの顔が赤くなっているのを気にするデュラン。
(元気に見えるけど熱が上がってきてるかもしれない…)
朝食、デュランがジャムの瓶を渡してあげようとするとエレンと手が触れる。エレンは上手く掴めず瓶を落としてしまった。すると
「エレン。本当に熱があるんじゃないのか?見せてみろ!」
と言うとエレンのおでこに自分の手を置き自分のおでこと比べてみる。次にほっぺや首筋を触るが熱はなかった。
「デュランちょっと…やめて」
と、か弱い声でいうエレン。
「どうしたんだよ?」
「だって…あの、恥ずかしい…」
(え゛?)
予想もしていない言葉に驚くデュラン。しかしエレンを見ると熱もなく顔を真っ赤にしている。
『エレン。顔が赤くなるのは病気だけじゃないからな。例えば暑かったり、さっきみたいに…』
前に自分がエレンに言った言葉を思い出す。病気でもなく、熱くもなく、恥ずかしいと言って顔を赤くしている理由はエレンがデュランを異性として認識したということだ。突然のことに動揺を隠し切れないデュラン。
今までは小さい子供という認識だったから暮らせたけど1人の女性として認識してしまったら…
(一緒に暮らすの無理じゃね!?どぉすんだよぉ~)
自分の顔も急激に赤くなり鼓動が早くなるのを感じるデュランだった。
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