物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

第1話 「主人公になれなかった脇役」



 定められた運命とは残酷だ。


 他人を見れば見るほど自分が、とってもちっぽけな人間であることを嫌々自覚してしまう。

 期待していたことが全部無駄であることを突きつけられた俺には、もう何も残っていなかった。

 誰しもが、この世界の主人公になれるわけではない。

 いくら努力をしたとしても、スタートラインからゴールラインまでの過程を飛び越えるような人間に勝つことなんて到底出来ない。

 俺はそれを知っていた。

 努力が報われたりしないことを。

 ただ辛い現実に突き当たることも全部。



「——待ってくれよ! ライザ!」


 離れていく三つ編みの少女の腕を掴もうと必死に手を伸ばす。

 彼女はそれを拒絶するかのように何処かへと行こうとしていた。


「あのさ、アンタのような田舎っぺにはもう興味が微塵もないから、ほっといてくんない?」


 去り際に彼女はそう告げられ、俺はさらなる絶望の淵へと突き落とされた。

 彼女の向かう先には他の男がいた。

 黒髪の平均的な顔の男。

 名前はリュート。

 俺とライザと同じ魔術学院に通う生徒だ。


 ただし、ただの生徒ではない。

 魔術学院に通う前、彼は英雄と呼ばれていた。

 そう、世界を救った英雄である。

 悪の根源である魔王を打ち破りあらゆるものを手にした男だ。

 名声、名誉、金、地位、女。

 その中には俺の幼馴染であるライザも含まれていた。

 ライザは忠犬のように廊下を歩いていたリュートに胸を当てるように抱きついたのだ。


「おはよ、リュートくん!」

「ああ、ライザか、急に驚かすなよ。登校する度に抱きつかれるとコッチの身がもたないんだが」

「でも、私が一番乗りじゃなきゃダーメ」

「ふぅ……やれやれ」


 呆れながら嬉しそうにしているライザの頭を撫でるリュートを見て、みっともなく嫉妬をしている自分がいた。

 何故いつもリュートなのか。

 とは、そんな野暮な疑問を抱いたりはしない。

 彼こそが、この世界の主人公そのものだからだ。だからこそ胸が痛むのだ。

 昔、大好きだった祖父にいろいろな物語を読み聞かせられてきたからこそ受け入れられなかった。

 俺も物語のような立派な主人公になりたいという願望があったのだ。

 しかし田舎出身のレベルなんて、たかが知れている。

 将来結婚を誓い合った幼馴染のライザが『力』を覚醒させた頃から圧倒的な差を感じていた。

 そして何もない平凡な俺は、魔王を討つために旅立っていった彼女をただ見届けるしかできなかった。

 それでも彼女は優しく微笑み約束した。

 戦いが終わったら、また逢おうと。


 彼女が去ってから俺は少しでも追いつこうと絶え間ない鍛錬で自分を鍛え続けた。

 もしも彼女の想いが変わっていないのなら告白しよう。

 そう決めた。


 

 新しいことを挑戦するために入学して数年後、アルカディア魔術学院での俺の成績はあまり良い方ではなかった。

 魔術の基礎もやっと追いつけるぐらいの実力だ。

 しかし五年間以内に単位を取得できれば学院を卒業することができるし就職先も豊富だ。

 このまま五年間学んでいればライザの隣に立てる日がやってくるかもしれない。

 汗を流しながら送る泥臭い鍛錬の日々。

 当たり前のようになった日常。

 そんな日常でもがいつしか終わりがあることをある日、俺は思い知った。

 魔王が倒されたという朗報が、唐突に舞い込んできたのだ。



 英雄リュートと仲間の五人が魔術学院に通うことが発表された。

 どうやらリュートの提案らしい。

 若い頃から魔王を倒すことに専念していたため、ロクに学べなかったぶん学院で知識を蓄えたいとのことだ。それに社会常識を身につけることで更に成長できるから、若い自分らにもその権利があると彼は訴えた。

 結果、彼らは俺と同じ学舎に通うことになり、驚くことにリュートのそばには幼馴染のライザがいた。

 再会に喜ぶ俺は、とっさに彼女を抱きしめようと飛び込んだが。


「やめて」


 対してライザは嫌そうに俺の手を振りほどき、冷たく告げてきた。


「馴々しく触らないでよ。こんなところをリュートくんに見られたら、どう責任とるつもり……ハッキリ言ってうざいから目の前から消えてよ」


 ライザの俺に対しての想いが消えていた。

 彼女の瞳には俺は映っていなかった、大好きだった幼馴染の軽薄な言葉が心に突き刺さる。

 それでも諦めきれなかった俺は去ろうとするライザへと必死に手を伸ばし腕を掴もうとしたが、届くはずがなかった。

 その結果、主人公リュートに恋する乙女のような表情を向けるライザを見て、あまりの絶望で吐きかけてしまう。

 俺、ヘリオス・クロウリーは主人公になれなかったのだ。


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