一話


「だから!何度言ったら分かるんだ?僕が君の願いを叶えてあげるよ」


「私は嫌よ」


「君の為に言ってるんだよ?」


 プイッと生意気にも緩が僕に背を向ける。



 一週間前僕が目を覚ました時、ある個人病室を上から見下ろす形になっていた。

 

 緩と書かれた表札は少し端が破れ古臭いけれど、病室のベッドで眠っている姿は中学生だ。

 少し癖毛の付いた淡いベージュに、透き通るような白い肌、薄いピンク色をした唇。

 黒髪と違うのは、栄養不足からなんだろう。

 目元には涙が伝った跡がある。


 一週間を過ごしていく内に、何となく分かってきた事がある。


 僕はこの病室からは出られない、宙に浮いて幽霊に近いが魔法みたいなものが使える事などなど……。


 緩についても少し分かっていることがある。それは僕が緩には見えていないと言うこと。

 他には同時間に味気の無さそうな病院食、同看護師、同点滴……そりゃ泣きたくもなるだろう。

 病室に訪ねてくるのは医者、看護師、たまに伯母さんらしき人のみ。と言っても伯母さんはまだ一回しか見たことがない。


 いつも窓の外を見ているけれど、心ここに在らずで死んだ目をしている。

 あの目を見ていると僕は胸の辺りが何故かむしゃくしゃするんだ。


 ……僕が助けてやる。

いつ死んでもおかしくない緩を僕の魔法で救ってあげるよ。



 ー…って思ってたのに!何だよこいつ。


「私のマジシャンか何だか知らないけれど、お断りするわ」


 本当は魔法だけど、そんな事言っても信じないだろう?!だからマジシャンという事にしといたんだよ。

 それにしても、断った上に僕が差し出したミモザの花を受け取らないだなんて。


「どうして断るんだよ、願いはあるだろ?!」


「願いはあるけれど、何処の誰かも分からない男に差し出されたお花なんて受け取るわけないでしょ。突然現れたけど何処から来たの?」


 この個人病室で目覚める前、僕はずっと暗闇の中に一人だった。だから、目覚める時は産まれた瞬間だと思っていた。

 だけど、幽霊かと思えば魔法は使えるし、妖精か何かとか考えたけど、結局分からなかった。

 僕が聞きたいよ。僕が何処から来たのか。


「僕の名前はレムだよ。何処から来たかはー…マジシャンのトリックだから秘密」


「インチキね。普通に戸から入って来たんでしょ。夜中に女の病室に忍び込む何て、」


 ちょっと待て何処から来たかは、信じないかもしれない。けれど、僕は君の願いを叶えに、君を救いに現れたんだぞ?!


「ー…変態」


 その言葉を聞いた瞬間、頭にカチンと来た。

 ミモザの花が鈍い音を鳴らし、掌から零れ落ちる。

 

 もの凄く勘違いをしているみたいだけど、それでも僕はー…。


 こいつ、嫌いだ。









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