第26話 一年後 ~回想~
それと…正直言えばもう忘れたままにして置きたいような気持ちもあるが、あのルルの現状についてはライを通じてある程度把握する事にしている。そう、彼女は一年過ぎた今でもちゃんと生きているのだ。
有体に言えば、ルルは当初の予定通り監禁されたままとなっている。キャメル伯爵家の領地の山奥にある狭い山小屋で、家事など彼女を世話する者は居ない環境の中、家の傍にある畑を耕して日々を過ごす完全な山暮らし。最初の方は逃げ出そうと時折訪れる監視役を誘惑しようとしたり、山小屋から飛び出したりしていたそうだが、場所が山の奥地にある事で一人では満足に山を下りる事も出来ず、結局戻るしかないことを悟り、喚きながらも嫌々生活しているらしい。一時期は僕の面会を求めた時のように「死んでやる!」と騒いでもいたそうだが、一度として有言実行する事は無く、今も自ら死ぬような様子は欠片もないと聞いている。うん、実に彼女らしいな。
アンドレア侯爵の手配によりすぐにでも儚くなりそうな彼女が、どうしてそうなったか。それはあの日、身勝手と思いつつ僕が述べた話の内容を、アンドレア侯爵が笑って納得し、キャメル伯爵家を通して手配してくれる事になったからだった。
「僕…いえ、失礼しました。私の考えとしましては――」
ライとアンドレア侯爵の視線を集めた中で、僕は自分の考えを伝えた。
「――生かす価値はない、そのご判断は間違っていないと私も同意致します。しかし、死を頂くにしても彼女は死に恐怖こそすれ、死の間際になってさえ反省も後悔も彼女に
「ふむ、なるほどね。アレの場合一理ある。君が望むその生活とやら、何か腹案があるのかい?」
「はい。彼女は常に愛される事を望み求め、また他者に愛されている自信があります。それを覆す生活を送らせれば彼女には充分効果があるでしょう。大した案ではありませんが、監禁されている彼女に私から手紙を送れば良いのではないかと愚考致します。私や、他の者達の幸せな暮らしを綴った内容の手紙を定期的に送り付け、彼女に知らせるのです」
監禁先は山奥の小屋。一人住まいの家で、家事など全部彼女一人で行わなければならず、食料の確保は畑から取れるモノのみで、当然畑仕事も彼女の仕事となる。始めだけはある程度物資を必要とするだろうけど、収穫が叶うようになればどんどん物資は減らし、泣いても喚いても彼女以外、彼女の世話をする者はいない状況であれば、嫌々でも働くしかない環境に置く。そんな生活を過ごせば、どれだけ容姿が優れていても、汗を流し土に汚れ、垢塗れになる。衣服も身体も汚れ塗れとなり彼女の『可愛らしい』と言う唯一の取柄は消え去るだろう。ここまでは、監禁すると決まった当初からあった罰の一つなので、そのまま続行するだけで良かった。
ただそれだけでは、彼女は不幸を嘆くだけでかつての夢を見たまま暮らして行くになるだろうと予想する。それを阻止するのが、提案した『手紙』だった。アンドレア侯爵からの問いかけがなければ、ライラとライに僕から手紙を送る事の許可だけをもらうつもりだったが、せっかくだから侯爵も巻き込んでしまおう。
娯楽の無い暮らしでは、手紙は唯一の楽しみになるだろう。ましてや送った相手はこの僕だ。きっと色々都合の良いように誤解して読もうとするはずだ。その内容が、彼女の夢の世界を壊すとも知らずに。
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