第9話 親友のライ


「アンドレア侯爵の怒りを買いまくったんだ、理由はで充分だろ」


 グラスの中身を呷り、僕を諭すようにライは言う。確かに同じ派閥内で、アンドレア侯爵に睨まれるのは恐ろしく、社交界はもちろん領地にもその影響が出れば相当な痛手になるだろう。そう考えれば、キャメル伯爵家としてもルル伯爵令嬢を切り捨てる事で怒りを解いてもらう決定を下した事は、賢明な判断だと言える。家族を見捨てなければならないその心情はどうあれ、家を存続させ領地とその領民を守るのは貴族としての大事なお役目だからだ。


「もう一回言っとくけど、ルーは悪くないからな。こうなったのは、ルルアレの素行の悪さが、あり得ないくらい本当に酷かった結果だからな。いくらお気に入りだと言っても、ルルアレが婚約を軽んじてあそこまで酷くなかったら、親父もここまで怒らなかっただろうなと思うし。自業自得、身から出た錆ってヤツだよ。むしろ侯爵家の現当主をあれほど怒らせて、生涯幽閉この程度で済んだだけまだマシだと思う。俺が親父だったら、絶対にこれだけじゃ満足出来ないしな!」


「ライ…」


「だって、俺は親友であるお前を傷つけ続けたルルアレを絶対に許したくない」


「…僕は、傷ついてなんか」


「嘘つけ、俺にはお見通しなんだからな。…ルルアレだけじゃない、甘やかしまくって注意すらまともにしない所か注意する側を非難してた前伯爵夫妻だって、同罪だろ。北の領地に蟄居させて籠らせるだけなんて、あり得ないし。ライラと義理の両親は諫めてた側だからいいけども、ルルアレと前伯爵家のせいで俺、キャメル伯爵家自体を嫌いそうになってたんだぞ」


「それは…僕がライに彼女との事を相談してたせいもある?」


 ライには友人は他にもいるけど、親友と言い張るのは僕だけ。僕もそうだ、大事な友人しんゆうと言えるのはライラとライだけだった。だから僕は、ライに良く個人的な事を相談していたのだ。どうすればルーの婚約者としてふさわしくあれるかとか、デートの誘い方とか、恋の詩の作り方のコツも色々教えてもらった。どれも実を結ぶ事はなかったけれど、ライも熱心になって一緒に悩んで考えてくれていた。

 だからこそ、僕とルル伯爵令嬢との間が上手くいっていない事もライは良く知っていた。


「だからルーのせいじゃないって! 相談されるのは身分とか関係なく、俺自身を頼られて嬉しかったんだ。俺も張り切って真剣に考えて、いつも成功すればいいと祈ってた。それなのに…毎回毎回ルーを粗雑に扱いやがって…」

 

「うん、いつも彼女の事で相談に乗ってくれてありがとう。とても助かってた。贈り物の好みはライラに聞いたりはしてたけど、さすがにデート法とか相談出来なかったしさ」


 結果を報告する度に、僕よりもライが落ち込んでいた。ごめんな、役に立てなかったと泣きそうになっている彼に、次こそは僕ももっと頑張るから一緒に考えて欲しいと慰めていたのだけど、普通は逆じゃないかと内心思ってたのは秘密だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る