唯試論

0 誰

 実体を伴わない存在に憧れている。

誰の中にもその姿を映すことなく、心を揺さぶる音楽のように在りたいと、ただ願っている。


 脳裏上の私に同一のものはただ一つして存在せず、しかしその一つ一つは実際私であって、それでいて私そのものとは言い難いという。私の知るあなたすらレンズに映る虚像に過ぎないのだから、思い出の中の私は一体何を思えばいいのでしょう。

 全ては等しく私であって、完全な私はどこにも存在しないという。それは、誰にとっても全く同じようで、逆らいようのない絶対なのです。


 私は誰でもない。

 しかし。私は、脳組織の活動により働き続ける意識である。

 私は、言葉を愛するありきたりな高校生である。

 私は、発想の濁流を電子の海に放流する僕である。

 それは、反応の連続でもある。

 または、自我の錯覚でもある。

 あるいは、虚構の産物でもある。


 私は誰でもない。

 お前は誰だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

唯試論 @Imymemine3980

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る