第47話 散華
時をさかのぼること、しばし。
撃墜され
『
『調子に乗んなよ、オラッ‼』
それでも戦友の雪辱を晴らさんと、元より熱血漢な
『熱くなりすぎるな』
『『りょーかい‼』』
バッ──ゴゥッ‼
各人の機体が地を蹴り、その足裏のノズルからプラズマジェットを噴いて加速しながら、真っすぐ心神らへと飛びかかった。
3機の手持ち射撃武器はどれも高威力だが取りまわしが悪く、近距離での乱戦には向かないため背中のウェポンラッチに懸架し、代わりに翼内から抜いた格闘武器を手にして。
バババババッ‼
心神らも脚力による跳躍と推進器の噴射を組みあわせた高機動で広場を飛びまわり、3機と距離を取りながら手にした
ヒュン ヒュン──
全高16mの3機にとって己より小さい全高12mの心神から放たれる弾丸は相当によけづらい。だがその不利をものともせず、3機は空中で身をひねって弾丸を全て回避し──
¶
地球連邦軍・宇宙戦艦アクベンスの艦載機たる心神9機に、ルナリア帝国軍によって奪われた自軍の新型ブランクラフト3機がそれぞれの刃を手に迫る。
ヒュヒュッ──
白銀の機体、
『……え?』『はっ?』
『アサマ‼ アサヒ‼』
2機は腹部から上下に両断されていた……そこにあるコクピットの中のパイロットの体もまた、同様になった。
その2機のパイロット、アサマ少尉とアサヒ少尉は、自身の体を見て信じられぬという声を発しながら、絶命した。
そして
その輪にはソレスチャルの手首から伸びた極細のワイヤーがかけられていた。ソレスチャルが両腕を振り、ワイヤーの先の
『うわぁッ⁉』
『イズーッ‼』
その心神を駆るイズ少尉はどちらにも対処せねばと焦り、結果どちらへの反応も中途半端となり、両方を食らって、乗機ともども腹部を中心に縦横に裂かれて4分割された。
ババババババッ‼
ジュアアアアッ‼
紅蓮の機体、
剣の柄の形をした小型の
ビームソードはそれの光刃を幅広にした派生型だが──それでも弾丸を受けとめるには光刃の表面積は狭すぎる。受け損ねれば死ぬというのに、パイロットはなんという胆力か。
『こいつ‼』『嘘だろ⁉』『来るなァ‼』
3機の心神からの銃撃をサラマンダーはあるいは回避、あるいは無造作にビームソードで斬りはらいながら、軽快に駆けて1機ずつ──
薙いでいった。
光刃の灼熱が各機を溶断、その太刀筋はいずれもコクピットを通過し、そこにいたダイニチ少尉、ヤクシ少尉、シラヤマ少尉は一瞬で蒸発、熱さを感じる間もなく死亡した。
『ダイニチ‼ ヤクシ‼ シラヤマーッ‼』
敵に渡った自軍の機体が刃を振るう度、アクベンス飛行科のパイロットたち──飛行長イシカサ・ツキノ大尉の部下たちの命が、散っていく。
大尉には死にゆく部下の名を叫ぶことしかできなかった。
無論、なにもしなかったわけではない。部下たちも。各機、高速で動きまわって敵機の攻撃をかわそうとしながら、決して僚機には当てない連携射撃によって敵機を牽制しつつ撃破を狙う。
そうしていてもなお、敵機はこちらの回避を上回る攻撃を放ってくる。漆黒の機体、
それも無理からぬことであった。
スワロウ1機とそのパイロットに9機がかりであれだけ手こずったのだ。あれと同格のパイロットと機体の3セットで来られたら、戦力差は覆る。
ズガァッ‼
『ぐふっ……』
緑色の機体、
それは刺突でありながら、刀身が大型ブランクラフト用で巨大なために、パイロット──ミシマ中尉の体を正中線に沿って両断した。
『『ミシマーッ‼』』
残る2人、大尉とツルギ中尉にはミシマ機の中は見えなくとも、ミシマ中尉の死は疑いようがなかった。
そして2人には、ドラグーンのサーベルがミシマ機に深く刺さりすぎて抜きづらくなっているのが見えた。
『撃て、ツルギ‼』
『許せ、ミシマ‼』
バババババッ‼
この機は逃せない。大尉の隊長機とツルギ機はミシマ中尉の遺体を巻きこむことを承知の上でドラグーンを撃ち──ズガァン‼
ミシマ機だけが、爆散した。
ドラグーンはあっさりサーベルを手放し、それが刺さったままのミシマ機を2機のほうへと蹴りだして盾としていた。
そして盾が銃弾を防いでいる一瞬のあいだに、外側から回りこんでツルギ機へと突進。素手となった──しかし鋭い爪の生えた右手を、ツルギ機の腹部へと突きさした。
スガッ‼
ズボッ‼
手刀がすぐ引きぬかれる。
その手は血で濡れていた。
ガシャッ──崩れたおちた機体の中で、それでもツルギ中尉はまだ生きていた。虫の息で、敬愛する上官へと最期の言葉をかける。
『隊長……逃げ……』
『ツルギ⁉』
『艦長、アキラと、幸せ、に……』
『ツルギィィッ‼』
通信ごしにツルギ中尉が息絶えたのを感じ、大尉は涙した。ここまで、ほんのわずかな時間で、8人いた部下の全員が死んだ。
そして、すぐ自分も。
自分ひとりで勝てるはずがない、このドラグーン1機にさえ。しかも、ソレスチャルも、サラマンダーも、もうこちらに向きなおっている……万事休す。
『大尉、逃げろ‼』
その瞬間、大尉の耳に聞こえてきたのは。母艦たるアクベンスの艦長であり、愛する夫である、オオクニ・タカヤ少将の声だった。
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