第二章 招請状の件

第5話 ロック・バルダーという名の人族

 ヨナ様との話を終えて、豪奢なギルドタワー高位者専用ラウンジで紅茶を飲みながら少しほっとしているところへ、まだ若い少し緊張した面持ちの呼び人が、私の元へやってきて「スクーデリア皇国、第一皇女殿下でしょうか? 最高評議長ヴェルーガ・カイマン・ヴィードリー様がお呼びです。こちらへどうぞ、お越しください」と作法も問題なく、次の課題を持ってきたのであった。


「わかりました、一緒に行きましょう」と答え、残った紅茶を静かに全て飲むと呼び人に案内され複雑な構造のギルド本陣の中を歩いて行くのであった。


 一見複雑ではあるが、その実洗練されていて綺麗に区分けされているところ等が、設計者デザイナーの目から見ると一目瞭然いちもくりょうぜんであったので、迷わずに一対の重厚な会議室と思われる大扉の前にたどり着いたのであった。


「こちらで、ヴェルーガ・カイマン・ヴィードリー最高評議長がお待ちです」と呼び人は私に一礼し、さらに失礼のない様に数歩下がって一礼すると、かなり緊張した面持ちで去っていった。


 緊張の中にも、誇りたいといったような感情があったのは見ないでおくことにした。


 美しい姫君を呼びに行けるのは、呼び人の中でも名誉な役割であるからだ。



 重厚な大扉のドアノッカーを使い、部屋の中に合図を二度送る。


 しばし待つと大扉は内向きに開き、立派な体躯たいく龍人族ドラゴン・レースがやってきた。鱗は虹色に光り、ミスリルのような色合いの立派な方であった。


 竜人族特有の尻尾も太く、まさに竜人族といった体躯の方であった。


「ギルディアスへようこそスクーデリア皇国第一皇女殿下、私がヴェルーガ・カイマン・ヴィードリーだ。最高評議長などをやっているが、皆からは長老と呼ばれている」と、笑顔らしい大きな口を少し開け気さくな挨拶あいさつをしたようであった。


 私もその気さくさに少しつられて、挨拶を返すことにした。


「アストライア・フォン・スクーデリアと申します。アストライアと呼んでいただいても差し支えありません」と笑顔で返すことにしたのである。


「ではアストライア姫早速で申し訳ないが、会わせたい人族レースの男性がいるのだが構わないかな?」とおっしゃるので、「大丈夫です」というのと共に着衣に乱れがないことをさっと確認し、付いて行くことにしたのであった。


 私の手持ちはショルダーバッグだけである、後は少し大きめで魔導式の腕時計であった。


 ショルダーバッグの中にはそれなりに荷物を入れてあるがまだ空きはあり、資料を手渡されても入るくらいの余裕はあった。


 長老様に付いて行くと、精悍せいかんなイメージの人族男性がいた。


「彼の名はロック・バルダーと言う、今回のアストライア姫、君の招請に応じ来てもらった。いわばギルドナイツとしての上司にあたる存在だ」と長老様にいわれたのであった。


 そういわれてしまうと仕方がないと思い、「よろしくお願い致します。アストライア・フォン・スクーデリアと申します」と丁寧に挨拶をした。


 礼儀作法はひととおり習っている、作法に間違いはないはずであった。


 ロック様は「よろしく」と答えただけではあったが、只者では無い何か秘めたものを感じさせた。


 因みに私は特種新人族ではあるが他の新人族となんら変わらない外観であり、つまり外見上からは新人族なのか人族なのかどうかわからないということを示しているわけではあるのであったが、唯一魅力だけは飛びぬけており美しいといわれることが多いのでもあった。


 人族とした場合、能力や秘めたる技術などはほぼ人族としては最高位を超えるものであるのでそこを見抜かれてないか少し心配になったくらいであったが、杞憂きゆうだったようである。


 長老様がいった。


「後はナイツとして、彼の指示に従ってくれ」というと忙しい中出てきたようで、長老様は年代物の魔導式懐中時計を出して時間を確認すると「ロック、後は任せる」というと部屋から退出したのであった。


 長老の背中に一礼して、ロック・バルダーという人物をチラッとだが眺めてみた、精悍なイメージ通りのたくましい肉体を持っており俊敏しゅんびんさも合わせ持つ秘めたる力の持ち主と思われた。

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