ダンジョン入場

 ジョンが取り仕切りようやく俺達は、ダンジョン内に入る事にした。

 ダンジョンに入るには手続きが必要なようで、それらを済ませる順番待ちをしていると、何やら後方の冒険者達がざわめいている。

 

「おい、あれって勇者レイオンじゃないか?」「本当だ、フレイア様もいる!」「確か港町に出たクラーケンを倒しに行ったって聞いたけど……もう帰ってきたのか?」


 ざわめきが示す方向にはやたらと長い金髪をなびかせ青い目をダンジョンに向ける如何にもといった風貌のエルフの男と、対照的に黒いミディアムショートの髪で赤い目を思わせぶりに周囲に向ける、なんというか……エロい女性がいた。


「ははは! むさくるしい下々の者どもが群れてるな! 私のように優美に優雅に振舞えない物かね君達!」


「レイオン、煽るのはやめましょうねぇ? あの子達の中には私達のファンだっているのよ?」


 冒険者達の集団の間を通りながら、煽るエルフを女性がたしなめている。

 よくあれで血気盛んな冒険者に襲われない物だと思うが、周囲の反応を見る限りではあのエルフは相当な実力の持ち主なのだろう。

 誰もが悔しそうな顔を見せながらも、彼に一歩も近づこうとはしない。

 むしろ憧れの目を向けてる者さえいえる。


 あの2人のそれぞれが特異な雰囲気を放っているが、1つずつ挙げるとしよう。

 男の方で特に不思議なのはダンジョンに向かうというのに、まるでパーティーにでも向かうかのような豪華な服装を着こなしている事だ。

 あんな服装じゃまず防御力は見込めないし動きにくい、そして戦闘の中ではあの服装は10分と経たずに汚れ切ってむしろみすぼらしく見えてしまうだろう。

 いや、服が汚れない程に簡単に敵を倒せる実力を持っている自信の顕れなのか?


 女の方は耳が髪で隠れていて見えないが、あの捻じれた角の形状からして魔人という種族だろう。

 ただ、種族全体を通して鎖国的な傾向で自分達の国からは滅多に出ないと聞いたことがある。

 それに魔人という種族は目の色は青や緑、黄、黒などはあっても、あんなに完全な赤の目は存在しなかったはずだ。


 要するに2人とも、ダンジョンか国かという違いはあれど、この場に似つかわしくない服装や容姿をしているのだ。


「なあ、あいつらは一体何者なんだ? 勇者とか言われてるが……」


「なんだ知らねえのか? ……まあ最近まで国からの討伐任務とかで街を離れていたしな。あいつらは【絢爛たる血の聖団】っていうパーティーの一員だ。4人パーティーのはずだが、今日は2人しかいないみたいだな」


 長いパーティーネームだな……。

 

「あとリーダーのレイオン・ドラゴンブレイカーって奴はセラフィ王国を襲っていた悪竜の背骨を素手で圧し折ったっていう逸話がある。あいつは俺と同じエルフだ」


 あの硬いドラゴンの背骨を素手で!?

 あいつ本当に人間種かよ?

 いや、そんな事よりも。


「ジョンお前、エルフだったのか!?」


「え? この耳を見て分からなかったのか。ほら」


 そう言ってジョンが被っていた革の兜を外すと、確かにそこにはエルフの長耳があった。


「今まで耳を直接見たことがなかったしなぁ……」


 それにエルフにもお前みたいなおっさんしてるおっさんがいるとは思わなかった、とは口には出さないでおいた。

 俺の答えを聞いてジョンは適当な相槌を打って続けた。


「魔人のフレイアについてはエロい女ってくらいしか……分かんねえな」


「フレイアか。エロいぜアレは」


「フレイア様がこの王国一エロいのは確かな事ですぜ。フレイア様を描いた絵が1日で完売する程に人気がありますわ」


 パーティーの男衆全員がフレイアがエロいという事に同意した。

 そうか……エロいのか。

 確かに周囲の冒険者の男達は、レイオンというよりかはフレイアの方に視線が向いているな。

 男達の視線に釣られ、俺もフレイアを見る。

 一目見て確かにあれは男受けしやすい女性だと理解した。

 慣例的に着られているローブは通常体型を隠しやすい物だが、彼女の場合はむしろその豊満な体の一部が強調されている。

 そして腕や脚などのローブから垣間見えるパーツの一部がやたらと長く、ドラゴンの俺でさえそこにエロを感じられずにはいられな……ハッ!


 後ろから俺達男に注がれる強烈な冷めた視線に振り向くと、そこにはこちらを汚物を見る目で眺めるヴェウェックがいた。


「チッ、男って本当に……」


「いや、これはその……あ! 手続きの順番来たみたいだから入らないか、なあ?」


「お、おうそうだな! いつまでもこんな所に居られないぜ」


 うーん、ドラゴンである俺がなんで人間の女ごときに気を取られるんだ……。

 こんなの俺のキャラじゃないぞ。

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