裏の人間
「お疲れ様、なんだかずいぶん落ち込んでいるね」
シャルロの部下によって運び出される悪党共の死体を眺めながら、ため息をついた俺を見てシャルロが話しかけてきた。
「当たり前だろ。あのローブの男が皆殺しにしたせいで、この件の裏にいる人間をあいつらの口から直接聞けなかった。それに、そもそも俺はここにプラムを助けに来たはずなのに、あの子すらいないなんて本当に何をしに来たんだかな」
「まあ君にとっては災難だったかもね。でも良い知らせが1つあるよ。プラム嬢は無事にソリティア様の元へとお帰りになられたよ」
「無事に帰った?」
思わず聞き返すとシャルロは笑顔が返ってきた。
そういえば、こいつは建物への突入前に部下に何か見せられていたな。
やはりそれに何か今回の件に関わる重要な情報でも書いてあったんだろうか。
「説明を……説明を求める。もう何が何だか分からない。考えるのも面倒だ」
少し、『
あれはチートじみてるし、そもそも何でも分かるというのはこの旅の楽しみを損なう。
使わざるを得ないような状況に追い込まれるまでは、使わないと決めたんだ。
俺の要求に対して、シャルロは馬車に乗るように勧め、詳しくはそこで話すと言った。
4人乗りの箱馬車に向かい合うように座ると、シャルロが今回の顛末を語り始めた。
「さて、この話をするのには君がどこまでフィランジェット商会の内情を知っているか聞いておかないと。今商会の中では次期会長争いが起きている事は知ってる?」
「ああ、知ってる。確か前会長のソリティア様の御父上が亡くなられて、娘であるソリティア様と幹部の男のどちらを次の会長にするかで揉めているんだろ? プラムからそれなりに詳しく聞いてるよ」
「それなら話は早い。結論から言うと今回の誘拐事件を仕組んだのは会長候補の幹部の男だ。私の部下がプラム嬢を乗せた馬車が彼の館に入るのを見届けた後、彼からソリティア様にプラム嬢を保護したと連絡が入った」
それを聞いて、俺は大して驚かなかった。
黙ってシャルロの話の続きを待つが、シャルロの方は俺が驚くのを期待していたようで、こちらの顔を見ている。
「驚かないんだね。どうして?」
「どうしてと言われても……分かり切っていた事だろう? 俺が聞きたいのはその先だよ」
王都初日の馬車襲撃やらソリティア達の両親の事故やら、怪しい事件が連続しているこの状況でもしも誘拐を企てた奴が次期会長争いに関わっていないと考える方が難しい。
だが、俺の知りたいのはそこじゃない。
何故誘拐した
「ふぅん。そうか。じゃあ続きだけど。その幹部の男はさっき私達が潰した悪党共にプラム嬢の誘拐を依頼した。そして私達が知っている通り、ソリティア様に1人で聖堂まで来るように文書で伝えた。恐らくそこでソリティア様を聖堂の崩落に巻き込んで殺し、会長候補を消すつもりだったんだろう」
「それを俺が邪魔して……。プラムを悪党の拠点から移送したのは、もしかしてそのせいか?」
当初の計画がどうだったかは知らないが、移送には逃げ出されたり見つかる可能性がある。
事実その移送はシャルロの部下に見つかって、誘拐が幹部の男の仕業だと知られてしまった。
「その通り。恐らく彼はソリティア様を殺すのに失敗したと知って、計画を変更したんだろう。全ての痕跡を消す方に」
そう言ってシャルロは首を斬るジェスチャーをした。
「あのローブの男は幹部の男が差し向けた暗殺者か……。となると、指示を出した書類だとか、俺達が辿れそうな痕跡は全部消されていると考えるべきか?」
「そうだね。部下にはあの建物内部を隈なく探すように言ってあるけど、まず何の証拠も見つからないだろうね」
哀れな部下達だ。
存在しないと分かっている証拠を探させられるなんて。
「だとすると尚更分からない。なかった事にしたいのなら、プラムを返さないか、その……」
俺が言い淀むと、シャルロがその先を拾って続ける。
「殺せばいいって? そうだね。私もそう思った。だから幹部の男にはプラム嬢を殺せない何らかの理由があるんだろう。移送させたのも依頼主に裏切られたと知った悪党共が、プラム嬢を人質にするのを避けるためと考えれば辻褄が合う。簡単に返すのは、私達警備隊がプラム嬢の居場所を突き止めるのは時間の問題だと悟ったからだろう」
「かなり追い詰められた状態で苦し紛れに返してきたって事か……。それで、その殺せない理由って?」
「それは分からないよ。事実はともかく私達は動機については何も知り得ていないんだから」
まあプラムが無事に帰って来たんだし、幹部の男の事情なんてどうでもいいか……。
馬車がソリティアのいる館に着いたようなので、シャルロより先に降りて狭い場所で凝り固まった体をほぐす。
「これで一件落着って事だな。姉妹の命は守られて、幹部の男は警備隊に捕まる。善人が救われて悪人は裁きを受ける事になる」
「残念だけど幹部の男は逮捕できないよ」
俺の言葉にシャルロは、当然のようにただそう言った。
「どうしてそうなる? お前の部下だって悪党共の拠点からプラムが移送されるのを見ていたんだろう!?」
驚いて思わずシャルロを問い詰めると、彼女は悔しそうな顔が目に入った。
その姿を見て俺が冷静になると、シャルロは俺を通り過ぎて館の中に入っていった。
館に入った順番は昼に訪れた時と同じで、俺達は目的を果たしたはずなのに、何故だか気分はそれほど晴れやかではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます