第5話 グレン

「そんな目で見ないで、わかったから‥‥‥話すわよ」 リビングのソファーに僕達は座る。グレンは少し離れて窓際で立っていた。


「私も来訪者、アメリカ人よ」


 だよね。この世界線の人間にこんな力はないはずだ。話は続く、


「この世界線に来た時、部屋に閉じ込められた。いろいろ聞かれたし検査も沢山したわ。怖くて私は何度も逃げ出した。でもすぐ連れ戻される。そんな中この力に気づいたの‥‥‥政府の中でも私に対して意見が分かれていた結局、政府は私を取り込もうと決めた。それで研究所で働いていたってわけ、グレンは私の監視役なの」


「俺はそこそこ偉いんだぞ!」

と、どや顔のグレンには触れず。


「いつこの世界線に?」

  気になったので聞いてみた


「あら、それって私に年齢を聞いているようなものじゃない。でもいいわ、特別に教えてあげる。50年前20代の時よ、そんな風に見えないでしょう? こちらに来てから変わらないの」


  僕より少しお姉さん位に思っていたから正直驚いた。


「怖かった、寂しかった。でも、私は愛する人に出会えた。子供も授かった。それで、外での生活が許されたの。でも、子供には遺伝子の異常が見つかっていた。白血病よ」


ミアの表情が暗くなる。


「発病した子供は何処かに連れて行かれ二度と戻っては来なかった‥‥‥私のいた世界線では治療薬はあった。でも、この世界線にはなかった」


あの時の服はその子供の物だったんだ。悲しみの感情が流れてくる。苦しい‥‥‥。


僕はミアの後ろに立ち肩に手を置き、そのままソファーに寝かせた。あつしが立ち上がる。


「ミアに何をした! って? 寝てる?」


「そうだよ、寝かせただけだ。悲しい記憶は閉まっておいた方がいい」


 それまで、窓際に立っていたグレンがミアの所に来て髪を耳にかける。


「美しいだろう? 俺はクローンだからオリジナルにはかなわない」


 ! 今凄いカミングアウト聞かされたようだが‥‥‥。


「部屋を変えよう」


 グレンの後ろをついていく、そこは会議室のような部屋だった。グレンと僕達は向い合って座る。


「三百年前地形をも変える天災があった。なのにたった三百年でここまでになるとは思わない」

 グレンは腕を組む。


「俺は一つの仮説立てている。この世界線にやって来る来訪者達はそれぞれ強い力を持っている‥‥‥その中に建物をコピー出来る者がいたらどうだろう」


 そうだ、パリの街並み、セントラルパーク、不自然だ、どれも正確に再現されている‥‥‥。


「俺はこの世界線は来訪者が作った物だと思っている」


あつしが言う

「それが本当だとして、あんたはどうしたいんだ?」


グレンはあつしを真っ直ぐ見て、


「俺は来訪者を元いた世界線に帰したいと思っている‥‥‥そんな顔するなよ、俺は真面目にそう思っているんだぜ」


ふっと笑うと目を伏せた。


「この世界線で起きた出来事はこの世界線の人間のせいだ。来訪者には関係ない。政府に利用されただろう、だが、自由を奪っていい訳がない。色々調べたよ。あの災害の後、人類も悲惨な状況だった。強奪、殺人、自殺、人類は減ってしまった。そこで考えたんだ偏見を生む容姿を同じにしようと‥‥‥決めた。そして、クローンを沢山作り、そして遺伝子組み換えで作った丈夫な作物を作って一定の人にしか渡らないようにした。

 そう、条件に合った人にしか食糧は渡らないようにして人類は“区別”した。そうやって出来たのがこの世界線だ。そしてアジア人がいない理由だよ‥‥‥ようじは聞いたね、どうして人が皆同じ髪の色、瞳の色なのかと、これが答えだよ。容姿が決められているのは本当だ。そしてこの世界線の人類の大多数はミアのクローンだと言うこと。俺もその一人さ」



 凄いカミングアウトだと先程思ったがそう言う事なのか。


「俺はミアの子供の担当だったあの頃は来訪者と言われる人達も研究所に連れて来られていた。初めは何とも思ってなかったよ。それまでは……。


 ある日病気を発病した子供が来た。子供はどんどん弱っていく、泣く事も無く怒る事も無かったよ。


 その子供が初めて言葉を話した“ママに会いたい、帰りたいよ”だった。それは最後の言葉になった」


 しばらく沈黙があった‥‥‥。


「それから俺は政府に疑問を抱くようになり、来訪者と会話をするようになった。会話は禁止されているのだがな、それで皆言うんだ。帰りたいと」


 伏せていた視線をあげ、あつしを見る。


「あつし、こんな理由じゃダメか?」


「グレン!!」

 とあつしが立ち上がる。


「俺もその計画に協力させてくれ!」


  鼻息を荒くして言う、僕は協力するって決めていたからね。今更だけど。


「それでは、ここに俺が作った偽造チップがある。これをミアに入れてもらう。子供を担当していた事はミアは知らないから言わないでくれ」


 2人で頷く。


 ミアのいる部屋に戻る。


「あら、私寝ちゃったのね。ごめんなさい」


 グレンがあのチップを出す。

「ミアこのチップを二人に入れてくれないか」


「話は終わったみたいね。あつし、顔が怖いわ」


  チップは首に、仲間用のチップは右の小指にとミアが移動させて入れる。


 その後、あつしと一緒にベランダに出る。この景色がコピーされた物だとしても凄いなあと思う、そうだ! あつしに聞きたい事があったんだ。


「なあ、あつし。リニアはいつ開通したんだ?」


「二千年だよ。もう二十年経ってる」


「えー! 同じ二千二十年でもそんなに違うのかあ~あつしは何回も乗っているんだよな」


「まあな、早いし便利だ」


「うらやましいな」


 そういってベランダから見える景色を見ていた。


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