第23話 ロリ先生の今日の事件の話と俺の過去

 彼女の、たった5年なのに濃すぎる人生を知って、俺はまるで一本の映画を観た後のような気分になった。驚きと謎の感動で、言葉が出なかった。何か言わなきゃと思うのに、頭が回らない。

 すると彼女は、それに気付いたのか、


「いいわよ、無理して何か言わなくても。感想を求めてる訳じゃないし」


と、微笑みながら言った。

 それでも、これだけの話を聞いてノーコメントはないだろう、何か言わなきゃと俺は焦って、


「いや、あの、なんていうか、その...」


と、何かを言い出そうとはしたものの、他人との関わりが8年近くすっぽり抜けている俺には、結局正解の言葉が見つからず、何も言えなかった。

 すると彼女は、


「じゃあここからは、一応今日の話をするわ。なぜお母さんがここまで来たかってことね」


と言って、話し始めた。俺はそこが結構気になっていたので、ありがたい。


「まず、授業前になんで私が毎回外に出てるかってことだけど、お分かりの通り、授業で使う物を持ってきているの。

 その方法なんだけど、まず、授業で使うものは、今お母さんが住んでる家、の私が使ってた部屋...つまりお父さんが以前使ってた部屋から持って来てるの。

 そしてその部屋には、家の外にある階段を登って、鍵の付いてる扉を開けると入れるようになっている。つまり、外の階段を登れば、お母さんに見つかるリスクが低い状態で部屋の中に入れるってことね。

 その扉の鍵を、パンを毎日くれてた女の子がいたって言ったでしょ? その彼女に預けて、授業に必要なものだけじゃなく、その他生活必需品なんかも、私の代わりに部屋から持ち出してもらってるの。だって、私が取りに家に帰ったら、万が一お母さんに見つかっちゃった時、大変でしょう?

実は、内緒で家を出てきた訳じゃなくて、一応「出ていく」って書いた紙はポストに入れてきたから、余計会うのが気まずいのよ。

 だけどその彼女、人見知りが激しくて、私が頼んだ大きな荷物を持って、この家に来るまでの道を歩くのは恥ずかしいんだって。だから、そういう大きな荷物は、彼女に外に出してもらって、それを私が、運搬用ドローンを操縦して、ここまで運ぶの。

 ここの近くまで荷物を持って来たり、大きな荷物の時は荷物を部屋から外に出したら、必ず彼女からメールが来るはずなんだけど、今日はなぜか約束の2時になってもメールが来なかったから、私が「どうしたの?」って送ったら、「ごめん、今日はこっちまで来てほしい」って言われたの。不思議に思ったけど、彼女のことだから、何かしら理由があるんだろうと思って、お母さんに見つからないように気を付けながら荷物を取りに行くことにした。

 そして、家の近くまで行ったら、私の名前を呼ぶ声が聞こえたの。彼女が呼んでるのかと思ったんだけど、よく考えたら、その声はお母さんの声にとても似ていた。

 気付いた私は、本当にそれがお母さんの声かも確認せずに、ひたすら走って逃げてきて、それであんなことになってしまったの。

 さっき彼女から、「まなみちゃんのお母さんに指示された」って旨のメールが来たから、彼女からのメールは、虚偽だったって訳ね。

 さすがにお母さんも、「出ていく」なんてことを言われたから、きっと心配だったんでしょうね。まぁ、家を出てからもう何日も経ってるけど。ほら、また遅い」


この話と過去の話で、授業前の外出の謎と、ロリコンきっかけで語学勉強を始めたという言葉の意味と、彼女が当初よく頬を赤らめていた理由がわかって、とてもすっきりした。

 そして、彼女のお母さんは、今は本当に彼女を大事に想っているんだなと思った。


 お母さんというワードで俺は思い出し、この際だからと、まだ彼女に話していなかった、両親の死や、助けてくれた女性の死を含む、俺の過去についての話をした。彼女は時々頷いたり、相づちを打って、終始真剣に聞いてくれた。


 俺の話が終わると、彼女は、


「激動の人生ね...」 


と、気の毒そうに言ったので、


「いや、先生には敵わないよ」


と本当に思っていることを言うと、


「いえ、私の人生なんかよりよっぽど残酷だわ。失いたくない人たちを、次々と失っているもの」


と、これまた本当のことを言われてしまったので、何も言えなくなった。




 その後は、いつも通りだけど、いつもよりも一つ一つの物事に幸せを感じながら過ごせた。心なしか、彼女もいつもより優しかった気がする。いや、もちろんいつも優しいのだが。




 そして夜になり、彼女のおやすみを聞き、ベッドに寝転んで、小説を読み終えると、目を瞑って考えた。


(彼女は、俺のことを、見てくれて、愛してくれて、大事にしてくれる人だと言い、実の母親よりも、俺なんかと暮らすことを選んでくれた。

 彼女には、後悔させない。させてはいけない。絶対に幸せにする!! ...って、俺は花婿にでもなったつもりか)


そんなことを考えながら、就寝した。

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