第137話 第三者視点6

 アンリエットは隠密衆が立ち去った後、ハンスに向き直って、


「ねぇ、ハンス」


「ダメです」


「まだなにも言ってないじゃない...」


「おっしゃらなくても分かります。エリザベート嬢が拉致された場所に行きたい。そうおっしゃりたいんでしょう?」


「さすがはベテラン! 有能! 執事の鑑!」


「持ち上げたってダメなもんはダメです」


 けんもほろろとはこのことか。ハンスには取り付く島もなかった。


「そこをなんとか...」


 それでもメゲずにアンリエットは食い下がるが、


「僅かでもお嬢様を危険に晒す訳にはいきません。ダメったらダメです」


「ちょっとだけ。先っちょだけ。遠くから覗くだけでいいから...」


「お嬢様、ご友人がご心配なのは分かりますが、まずは御身を大切になさって下さい。アランが付いております。きっと大丈夫でございますよ。それと先っちょだけの意味が分かりません」


「でも~...」


「デモもストライキもありません。とにかくダメです」


「ハンスのいけず~」


 アンリエットは仕方なくハンスを説得することを諦めた。



◇◇◇



 一方その頃、囚われの身となった二人を救うべく、アジトを見張っている隠密衆の内の一人が屋根裏から戻って来た。


 物陰に隠れている仲間と合流する。


「一号、どうだった?」


「まだ動きは無さそうなんだが、連中がちょっと妙なことを言っていた」


「どんな?」


「なんでも『旦那はなんだってあっちの方に向かったんだ?』とかなんとか」


「お、おい! そ、それってマズい状況じゃないか!」


 仲間の一人が気付いて慌てる。


「えっ!? なんで!? あっちってアンリエット嬢の所ってことだろ!? あっちには三号が付いてるんだから問題無いはずだろ!?」


 一号と呼ばれた男はなにを慌ててるんだとばかりにそう言った。


「俺ならここに居る...」


 その時、物陰からもう一人の仲間が現れた。


「へっ!? えぇっ!? さ、三号!? お、お前、な、なんでこっちに来てんだよ!?」


 今度は一号と呼ばれた男が慌てる番だった。


「この二号から連絡を貰った後、アンリエット嬢が『こっちはもう大丈夫だから応援に行って』と言ってくれたんだよ。だからお前らに合流した」


「そ、それじゃあ今、アンリエット嬢にはハンス殿が付いてるだけってことか!? マズいじゃないか!」


「だからそう言っただろう!」


 二号と呼ばれた男が一号を窘める。


「それでどうする?」


 三号が二号に尋ねる。どうやら三人の中では二号がボス的な立場らしい。


「こうなったら強行突入するしかないだろう。一刻も早くエリザベートお嬢様を救出して、一刻も早くアンリエット嬢の所に戻る。それしかあるまい。ハンス殿が付いてるんだ。そうそう敵に遅れをとることはないと...思いたい...」


 最後は希望的観測になってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る