第135話 第三者視点4
御者を務めているアランは、曲がり角でわざと馬車のスピードを落とした。
「後はヨロシク」
「御意」
馬車に乗っていた、エリザベートが公爵家から連れて来た使用人の一人を馬車から降ろすためだ。ちなみに三人連れて来ているこれらの使用人は、全て公爵家小飼いの隠密衆だったりする。
一人は用心のためアンリエット達に付けていて、一人はこの馬車を後方から見張れる位置に潜んでいる。
残る一人が同じ馬車に乗っていたのだが、クリフトファーに雇われたであろう連中が釣れた今、一緒に捕まるのはマズい。
なので予め打ち合わせした通りに馬車を降りて貰い、近くに潜んでいる仲間と合流して後から尾いて来て貰うという手筈になっている。
アラン達が捕まり、連れて行かれて連中のアジトの場所が判明したら、アンリエット達に付いているもう一人と合流して、アジトを急襲して貰うという段取りにもなっている。
「さて、エリザベート嬢。どうやらお迎えが来たようだよ? 念のため、なるべく顔は隠しといてね?」
「分かったわ」
曲がり角でスピードを落としたため、尾けていた連中との距離がかなり縮まった。人通りもあまりなく、見通しの悪い道に差し掛かかった所でちょうど良いと判断したのか、
「止まれ!」
馬車の前に一目で堅気ではないと判断できるほど、如何にも軍人といった雰囲気を漂わせている男達が五、六人現れた。
エリザベートは緊張のあまり乾いた唇を何度も舌で舐めて落ち着こうとしていた。普段どれだけ勇ましいことを言っていても、いくら武道の嗜みがあるとはいっても、そこはやはり公爵令嬢。
こんな修羅場のような場面を何度も経験しているはずもなく、アランに比べたら圧倒的に場数が足りなかった。
「エリザベート嬢、落ち着いて。大丈夫だから。ね?」
そんなエリザベートの状態を慮ってか、常になく優し気な口調でアランは囁いた。
「えぇ、ありがとう...」
アランが馬車を止めると、連中は音もなくスッと馬車の周りを取り囲んだ。
◇◇◇
一方その頃、先発したアンリエット達はオープンカフェで一服していた。町をブラブラ歩き回って疲れたし喉も渇いたからだ。
「上手いこと釣れたと思う?」
「さて、どうでしょうな。雇ったというのが誘拐のプロであれば、囮作戦なんぞには引っ掛からないような気もしますが」
「誘拐のプロなんて輩が居るのね...」
「営利誘拐を生業にしている輩は結構居るそうですよ?」
「そうなんだ...」
「だからお嬢様も気を付けて下さいね?」
「肝に銘じておくことにするわ...」
アンリエットは若干引きながらそう答えた。
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