第30話 死の宣告

「ホホホ」


「あーもう! 説明して! 今の状況を教えてよ! 」


「ホホホ。

私、宝具で貴方試す

宝具無反応

貴方敵じゃない」


「あっ……うん」


アンバー大司教もシィフ異端審問官長も、先程までの剣呑な雰囲気を納めて呑気にお茶を飲んでいる。


余りの切り替えの速さ、そしてふてぶてしさに和也も愛歌も毒を抜かれてしまった。


「あの、じゃあ俺を試すのが目的で来たんですか? あんな、物騒な芝居までして? 」


「ホホホ、芝居ではありませんよ」


「笑い事じゃない……え、その宝具が発動してたら俺死んでたんだよ!? 」


穏やかな、子を諭す様な表情でアンバー大司教がなおも続ける。


「全て承知の上でございます」


「勇者教って……目的のためなら何しても良いんですか」


「はい」


迷うでもなく突然のように答えられた。


「魔王死すべし、二度とあの様な災厄が起こってはなりません」


「……おかしいよ、あんたら」


「おかしく無くては生き残れない世界なのです、ここは」


道行く人が、エルヴィンやドロシーと言った一般人寄りの者らでさえ。

この世界で生まれ育ったというだけで、修羅の世界の住民だ。


特に、この大司教は研ぎ澄まされている。


宝具を所持している辺り、帝国十二勇士の1人なのだろう。

和也はゾッとして目を背ける。


「ホホホ、そのようなお顔をなさらないで下さい。貴方の善性は証明されました、我等は敵ではありません」


「そっすか……」


「代わりと言っては何ですが、私に出来る限りの事を、何でもして差し上げましょう。自慢ではありませんが、私は大きな組織の長でありますので」


「自慢じゃん……いや俺は別に」


「では、私から」


短刀を収めた愛歌が、若干喧嘩腰でアンバー大司教に声をかけた。


「ホホホ、何でしょう」


「質問をしたいのです」


「何なりとお聞きくだされ」


愛歌が懐から紙を取り出しテーブルに載せた。

何も書かれていない白紙を、和也とアンバー大司教も見詰める。


「この紙はこの国で一般的に流通している紙です」


「ええ、そのようですな」


「この城や、西にある砦の建築技術は、かなり高いように思えました」


「ホホホ、我が勇者教も建設や設計に携わりましたのですよ」


愛歌が観察するような視線を大司教に注ぐ。

心無しか、愛歌がアンバー大司教を押している風に見えた。


「ホホホ、何やら勿体ぶっているご様子……そろそろ、最後の質問をしてただけませんかな? 」


「……アンバー大司教様。この国は、技術や文化の獲得を目的に異世界人の召喚を行っていますね? それも、頻繁に」


「えぇ!? 」


愛歌の口から飛び出た言葉に、この場の誰よりも和也が驚いた。

アンバー大司教は微笑みを崩さない。

シィフ異端審問官長は微かに眉を上げた。


「如何にも」


「大司教様、それは……この者らにお話してよろしいのですか? 」


異端審問官長がまたもや腰の剣に手をかけた、鈍く光る刀身が和也の脳裏にチラつく。


もし話してはならない、知ってはならない事だと大司教が言えば、今度は試す目的では無い本当の攻撃が飛んでくる。


「どうせ、この世界より優れた技術の世界より来た者ならいつか気付く事でございます。構いませんよ」


「……この者らも……分かりました」


アークライトが話したのか、見抜いたのか、異世界人だと気付かれているらしい。


「この世界には、魔物の域を超えた超常生物も数多く存在するのです。ドラゴンや悪魔王ですね。そんな彼らと同列の存在に、空間を自由に渡り歩く幽鬼がおりましてね。その幽鬼を利用したのが異世界間の移動なのです」


「へー……」


「それで、それを知ってどうするおつもりですかな? 」


「いえ、帰れる手段の有無を確認しておきたかっただけです」


「あ、帰るの? 愛歌ちゃん」


「飴も有限ですし、いつかは帰らないと」


ホホホ、ともう耳に馴染んだ笑い声が大司教から漏れる。

愉快そうに笑みを浮かべ、愛歌を気に入ったようにウンウンと頷いた。


「賢く、貪欲な子は良いですねえ。私の元で働きませんかな? 勿論、異世界との行き来もさせてあげます」


「結構です、私はお兄様教なので。異世界間の行き来は利用させて頂きますが」


和也、教祖となる。

なんかなってた。


「ホホホ、刃を向けたお詫びです。一往復でしたら協力いたしましょう」


「ふふ、ありがとうございます」


ホホホ、ふふふ。


腹黒い、とは言い切れないものの、底の見えない2人の含みのある笑い声が重なった。

もう窮地は脱したと言うのに、和也は冷や汗が止まらない。


「異端審問官長……シィフさん? いつもこんな事してるの? 」


「私の普段の仕事は異端審問、いつもはこんな事しない……大司教様に振り回されるのはいつもの事だが」


「大変ね」






色々あったね。


勇者教の面々との面会は終了した。


去り際、ほんとにウチに入らない? としつこく食い下がる大司教を愛歌が一蹴し、暫くの休憩に入る。


「はぁ……とりあえず、もう命の危機を感じるような面会はやーね」


「前提でおかしいのです。つぎは、皇家特別顧問兼ねて帝国十二勇士の方、でしたっけ」


「勘弁してよ、もう偉い人とは会いたくないよ俺」


「ファイトです! 」


遠慮がちなノックと共にエルヴィンがひょっこり、扉の影から顔を出す。


「失礼します。そろそろ次の方っす」


「はーい……いこっか」









次の応接室に向かった和也と愛歌。

この城は幾つ応接室があるんだと疑問に思うも、押し込めて扉のを開けた和也の目に飛び込んできたのは小さな女の子、幼女であった。


幼女であった。


「そっか、今度はそういう方向性でストレスを与えてくるか」


幼女は和也が入室したのにも気付かず、部屋を走り回ったり調度品をひっくり返したり投げたり和也とエルヴィンの様に使用人をベルで呼んで遊んだりと、とにかく落ち着きがない。

2回くらい和也は爪先を蹴られた。


「あのー! 進藤和也と申す者ですがー! 」


「きゃっきゃっ」


「あのー! 面会って事で来てるんですけどーー!!! 」


「きゃっきゃっ! 」


「あのー!! どうせロリババっ」


言い終える事は出来ず、和也の顔面に飛び上がった幼女の膝蹴りが炸裂した。


「デジャビュ」


「失礼ね! ババアってなによ! 気付かなかったわ、ごめんなさいね! いらっしゃい! 元帝国十二勇士、まぁ皇帝は認めてくれないけど、引退した帝国十二勇士、ロリエルよ」


「ロリ? 」


「愛称で呼ぶには信頼度が足りないんじゃなくって? ロリエルと呼びなさい」


ロリ、エルがふーんと胸を張って和也を見下す様に言う。


テーブルに乗り、それでも背が足りていないので実際は見上げているのだが、可愛いので気にしなかった。


ロリエルは栗色の短めな髪、小学生か、もっと下かという幼い顔で愛らしく笑う。


「こんな姿、振る舞いで困惑したでしょう。悪いわね、実は」


「あ、言わなくて良いよ。どうせ何かで若返って精神が時たま引っ張られて幼くなっちゃう的なやつね。俺その辺も履修済みなんだわ」


「へぇ、異世界人……流石の教養、いえ洞察力と言ったところかしら?」


「ごめんなさい、お兄様はそんなんじゃないんです……」


ようやく落ち着いた皇家特別顧問兼ねて帝国十二勇士、ロリエルはサイズの合わないソファに座って一呼吸置く。


少し躊躇い、和也の目をしっかり見て話し始めた。

彼女は遠慮や駆け引きが苦手らしく、真っ直ぐ、それでいて真摯に話を進める。


「貴方、近々死ぬわよ」


「制御がろくに出来ない膨大な魔力に潰されてね、心当たりあるんじゃない? 」


「爆ぜて死ぬわ」


「あっ捻れて死ぬかも」


「ごめん、周りを巻き込んで圧縮して死ぬわ」


「この世界の人基本順序立てて話すの苦手よね!! 俺話についていけねーわ! 」

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