第四章 ノーツの神聖魔術

第40話 混血児リリアン・リード1


◆◆◆◆


205年前

グランデ帝国

ウルバーノ


 私は人魔戦争中に魔族兵捕虜であった母とグランデ帝国兵の父との間に生まれた。


 私には名前など無かった。

 名前どころか人権すらなかった。


 当時の戦争においては捕虜に人権など無いったから、当然捕虜から生まれた子にも当然である。


 父にはゴミの様に捨てられ母は後に処刑されたと聞いた。


 魔族の血が入っている為、成長が早く産まれてすぐに歩き、言葉もすぐに話せる様になった私はグランデ帝国で奴隷として売られ、各地をたらい回しにされた。

 

 奴隷市場で鬼の形相で周囲を睨む私に買手など付かなかったが、それは私の望んだ通りだった。

 市場に出された奴隷は買手がつくまで満足な食事は殆ど与えられなかった為、そのまま栄養失調や餓死する奴隷を多く見てきた。

 ろくでもない奴らの奴隷になるぐらいなら…、これ以上の辱めを受けるくらいなら自ら死を選ぶ。

 まだ3歳だった私はそう腹を決めていたのだ。


 そしてある日の事だった。


 市場が休みの日。

 私はいつもの様に檻の鉄格子の間から外の世界を見ていた。

 飢えも限界に達し、精神も限界に達していた。

 薄れそうになる意識の中、一人の少年の姿が目に入った。

 そして、その少年の後ろから、見るからに身分の高そうな付き人達らしき人達が追いかけて来た。


「おい、お前達ついてくるんじゃない!

 いつも言っているだろ!

 俺は一人が好きなんだよ!

 俺は身体的自由の権利を希望する!」


「しかし、リッキーリード様…。

 帝国内では常に貴方に同行する様。

 セバスティアーノ皇帝から

 承っておりますので…」


 あんな子供なのに明らかに身分の高そうな人達から頭を下げられている。

 そして、とにかく偉そうだった。


 気付けば私は興味を持って彼を見ていた。

 もしかして帝国の貴族か何かだろうか…。


 その時に、私は彼と目があった。 

 彼の目が少し真剣になった様に見えた。

 そして彼は私の前まで歩いて来た。


「お前、魔族か?」


「あ…。

 半分…魔族…です」

 

 そして、彼は何かを考えている様子だった。


「お前、外に出たいか?」


「……。

 で…出たいです」


 何故か、彼の目に見つめられると自分の心の奥底にしまい込んでいた生きたいと思う本心に嘘をつけなかった。


「お前…。

 結構な魔力値を秘めているな」


「わ…わからない」


 するとその時、彼から途轍もない魔力が感じられ私は思わず息をのんだ。


「俺につくならここから出してやる」


「は…はい」


「おい!

 店主はいるか!?

 この娘を買おう!

 俺はリッキーリードだ」


 それは突然だった…。

 いきなり私の前に現れて私の運命が激変した出会いだった。


 私は簡素な衣服を着せられ市場の男に髪を引っ張られ市場の外に連れ出された。

 そこで私の目の前には見た事もない程に高級そうな馬車が待っていた。

 

「さあ。

 乗ってくれ。

 俺はリッキーリードだ。

 宜しくな」


「私は今日からリッキーリード様の奴隷になればいいのですか?」


「奴隷か……。

 それは考えてなかったな」


「じゃあ、私は何をすればいいのですか?」


 私は彼が何のために私を買ったのかまるで分らなかった。


「あっそうだ!

 今日からお前は俺の娘だ!

 名前はそうだな…。

 【リリアン】だ!

 いやぁ、俺、童貞のまま父親に

 なっちまったよ!

 笑っちまうなスカペリ!」


「ムスメ…?」


 一体どういう事なのか私は理解できなかった事を今も鮮明に覚えている。


「「……。」」


「おいお前ら笑えよ!

 ボケてんだからよ

 特にお前だスカペリ!」


 そう言いながら。

 彼は隣にいる明らかに身分の高そうな大男の頭を飛び上がってひっ叩いた。


「申し訳ありませんリード様。

 このスカペリ、冗談には疎いもので。

 しかし宜しいのですか?

 そんな魔族風情を娘などと?」


「見た所こいつには中々見込みがありそうだからね。

 今日からリリアンは俺の養子だ。

 これよりこの子にも口の利き方を気を付けるようにな」


「承知致しました」



 こうしてこの日から私はリッキーリード様の養子となり、彼に仕えて身辺警護を出来る様に彼から直々に戦い方、主に魔術の訓練を受ける事となった。

 



                  To Be Continued…

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