第32話 シェリー宮殿大戦


城塞都市ドロナック

シェリー宮殿



 シェリー宮殿内は兵士総動員の戦いとなっていた。 


 俺も気を取り直して他にも用意していたマジックアイテムを使うことにした。

 これはリッキーリード開発の初めての攻撃魔法アイテムだ。

 森の大妖精ハーランドに譲ってもらった魔石を加工して腕輪にしたものだ。


 魔石は魔力を持っていてこれを出力できるように設計して金属部分に魔方陣を刻み込み初級火属性魔法のファイアーボールを打てるようになっている。

 魔石の質によって様々だが、これによって体内に魔力が少なくとも魔石が持つ魔力である程度の魔術を使う事が出来る。


「いくぞ!

 ファイアーボール!」


 俺の放ったファイアーボールがヒットし敵兵士を吹っ飛ばした!


「やった!」


 ちょっと心配していたが流石はハーランドの魔石だ。

 強敵は難しいにしても一般兵ぐらいなら何とかなる火力だ。


「凄いです師匠!

 また魔法が使えるように

 なったんですね!」


「ふふふ。

 マジックアイテムの力だけどね。

 クリスさんは俺の事は心配せず

 思いっきり戦いなさい!」


「はい!師匠!」


 クリスも俺を守らなくて良くなったからか、かなり戦いやすそうになった。

 ごめんよ…。

 何か足を引っ張ってたみたいで…。

 やっぱり作っといてよかった攻撃型マジックアイテム…。



「何事だ!?」


「ロバート王子!

 敵襲です!」


「やはり別動部隊がいたか…。

 フィリップ兄様の言った通りだったな」


「たった三人ですが

 かなりの実力者です!

 ひとり強いかどうかは

 微妙なチビもいますが…」


 【ロバート第三王子】。

 ドロナック国王アンガス・ドロナックには三人の息子がいる。

 長男フィリップ。

 次男ケニー。

 三男ロバートの三人である。


 可能性としてはこの三人にも悪魔の力が目覚めている可能性がある。

 よってこいつも警戒すべき人物だ。


 そして最初にメイがロバートに向かって叫んだ。


「ディーンさんから聞いた話だと

 ドロナック国内での

 子供の誘拐の黒幕は

 アンタ達ドロナック王室の

 首謀らしいじゃない!

 国家のトップが

 そんな事しているなんて!

 このワタシが絶対許さないわよ!!」


「何だお前は!?

 見るからに怪しい奴め!」


「ワタシはマザーメイ!

 愛する男と親友との誓いの為に

 全ての恵まれない子供を守る

 愛の戦士よ!!」


「ふん!

 返り討ちにしてくれるわ!」


 ロバート王子の目が赤く充血し、全身から黒いマナが溢れ華奢だった体は筋骨隆々に膨れ上がり、メイに体当たりし壁を突き破り二人は壁の向こうへ消えて行った。


「クリスさん。

 あれが悪魔の力だ。

 あんな奴がまだこの宮殿内に

 他にもいるかもしれない。

 クリスさん警戒を怠らないように!」


「はい師匠!

 彼はメイさんに任せて

 私達も先に進みましょう!」


 俺とクリスは敵兵を倒しながらシェリー宮殿の最上階へと向かった。

 そこにはもうひとりの王子であるケニー第二王子がいた。

 

 クリスは向かって来る兵士達を火炎魔術でなぎ倒しケニー王子と向かい合った。


「私は第二王子ケニー・ドロナック。

 なかなか、腕が立つ様だが

 この私には父上から授かった力がある

 他の奴らとは別格であることを教えてやろう」


 ケニーの身体からさっきのロバートと同じ黒いマナが溢れ出した。


『エクスプロージョン!』


 クリスは攻撃魔術を使い先手を仕掛けた。


 ケニーはクリスの魔法を躱し拳を振り抜きクリスを殴り飛ばした。


 しかし、クリスも確実に強くなっていて、受け身を取りながら追撃してきたケニーにカウンターの攻撃魔術を放った。


『バースティングファイア!』


 ケニーの身体はクリスの火炎魔術によって焼け崩れた。


「師匠…。

 やったんでしょうか?」


「いや…。

 あいつの魔力が

 また増幅を始めている…。

 クリス気をつけるんだ!」


 ケニーの焼けた皮膚が再生し緑色に変色し始めた。

 そして、ケニーの額には角が生え、目が真っ赤に変色した!


「魔力が格段に上昇した…。

 クリス…。

 あいつは相当ヤバいぞ」


「その様ですね師匠…」


 クリスは変身したケニーの別人の様なパワーとスピードに徐々に押され始めた。


 これはマズイな…。

 魔力差から言っても、

 このままではクリスが負ける…。

 

 しかし、今回俺はこんな時の為に

 大量の新作マジックアイテムを用意してきた。

 もはやクリスに守って貰うだけの存在ではないのだ。


 今回履いてきた靴は風属性魔力を使える靴だが

 更に改良を加え火属性の魔法陣と魔石を装飾してある。


 これによって爆風により超人的な跳躍を手に入れる事が出来た。

 これはディーンの跳躍を見た時に思い付いたアイデアである。

 更にファイアボールのこの腕輪を使い拳に炎を纏った状態で靴の力で相手に打ち込む事でファイヤーボールより高い攻撃力を出せるリッキーリードの新必殺が完成したのである。


 この新必殺でクリスを掩護するしかない!


「クリス!

 そいつから離れろ!」


「えっ?

 わかりました!」


「行くぞ!」

『フライングファイアーリッキーパンチ!』


 俺はマジックアイテムの靴の爆風を使いケニーに殴りかかった!



 しかし俺の会心の新必殺技は、ケニーにいとも簡単にかわされた。


≪バリン!!!≫


 俺はそのまま宮殿の窓を突き破り、

 そのまま勢いは収まらず城塞都市ドロナックの空を舞った…。


「師匠ーー!!!」


 俺…今度こそ死ぬかも知れない…。



◆◆◆◆



ドロナック城

30分前



 ディーン達精鋭部隊はドロナック城に潜入し次々と衛兵達を打ち破り、侵入から僅か20分たらずで王アンガスの元まで辿り着いていた。


「やっと会えたなドロナック王。

 その様子じゃもう

 人間も卒業間近って感じだな…」


 アンガスドロナックの額には薄っすらと二本の角が生え、背中にも黒い羽の様な物が見えた。

 そしてアンガスの手には人間の腕の様な物が握られており口からは夥しい血が滴っていた。


 そして、アンガス・ドロナック王の隣には白い顔に黒い体と大きな羽を持ち、額には二本の角が生えた悪魔が立っていた。


「ストラスの…ゴミめ…。

 殺す…。

 殺してやる…」


「卒業間近どころじゃなかったな…。

 もはや完全に人間を辞めたみたいだな…。」


 横にいる悪魔がそっとアンガス王の肩に手を置いた。

 アンガス王の肌の色が緑色に変化し背中の羽が更に巨体に変形した。


「さあ…。

 邪魔者は早く排除しないとね」

 

 その悪魔の言葉と共に、アンガスはストラス精鋭部隊に襲い掛かった!

 

 あまりの速さにディーンは一歩も動けなかった。

 ディーンは今迄、自分のスピードに対して絶対的な自信を持っていた。

 そんな彼が反応すら出来ない速さだった。


 アンガス王の圧倒的な速さと力の前にストラスの精鋭部隊は次々と撃ち倒されていった。


 ディーンも何とか感覚で攻撃を躱すのがやっとだった。


「何て化け物だ!

 ケタが違い過ぎる…」

 

 そして、ディーンはアンガス王に壁に追い詰められた。

 アンガス王の隣にいた悪魔が囁いた。


「そろそろ…。

 貴方も大人しくして

 貰いましょうかね」

 

 悪魔は静かに術式を唱えるとディーンの両足が床から動かなくなった。


「何だ!

 クソ!

 全く足が動かなくなったぞ!」


 そして、ディーンの前に立ったアンガス王がディーンの頭に両手を振り下ろした。


「リッキー…。

 すまない…。

 巻き込んじまったのに

 肝心の俺はこのザマだ…」




《バリン!!!》




 その時、窓を突き破って炎に包まれたリッキーリードがアンガス王の後頭部に激突した!


 リッキーは勢いそのまま、床を転がり壁にぶつかった。



《ゴツン!!》



「あうっ!!

 痛たたた…」


「リ…、リッキー!?」


「こ、これはディーンさん…。

 ご無沙汰してます。

 今、ぶつかったのはどなた?」


「…。

 ドロナック王だ…」




◇◇◇



シェリー宮殿最上階



 クリスとケニー王子の力の差は圧倒的になっていた。

 クリスの魔術はケニーの外皮の弾かれ傷ひとつ付ける事が出来なくなってきていた。

 

「駄目だ…。

 勝てない…。

 やっぱり僕はいつも肝心な所で

 皆の役に立てないのか…」


 その時、クリスは以前リッキーに教えて貰った、ある攻撃魔術を思い出した。



「クリスさん。

 これからの戦いの為に

 とっておきの魔術を教えてやるよ。

 この魔術は魔力消費は

 かなり多いが

 もし、通常魔術では倒せないような

 強敵が現れた時に一回限定だが

 使うと良い」



「そうだ!

 あの魔術を使えば

 あいつを倒せるかもしれない!」 


 クリスは全魔術を右手に集中した。

 するとクリスの右手が金色に輝きだした。

 

 そしてフットワークを使いながら慎重にケニーとの距離を取った。


「外したら後がない…。

 何が何でも当ててやるぞ!」


 そしてケニーの攻撃を宙返りをして躱し

 ケニーの死角の位置を取った。


「今だ!

 古代魔法!」

『ランサ・デ・サビオ!!』


 クリスから手から光輝く魔力の槍が放たれケニーに直撃した。

 槍はケニーの胴体を貫いた!

 そして、そのままシェリー宮殿の最上の屋根をも吹き飛ばした。


「やった!

 師匠!やったよ!

 勝った!」


 クリスには、もはや魔力は殆ど残されていなかった。


「早く…。

 メイさんの所に行かないと…。

 師匠が何処まで飛んで行ったのかも

 探さないと…」


 しかし、クリスの目の前で起こった出来事にクリスは青ざめた。

 クリスによって貫かれたケニーの胴体が

 みるみる回復し始めた!


「な、なんて事だ…。

 駄目だ…。

 もう、打つ手がない!」


 ケニーは再びクリスに襲いかかった。

 クリスは死を覚悟した。



《!!!》



 突然ケニーが壁に吹っ飛んだ!



 そして、クリスの目の前に全身を覆い隠すローブを被った大男が立っていた。


「おい娘。

 さっきの魔術

 誰に習った?」


「私の師匠はリッキーリードですが…」


「ヤツは今、何処にいる?」


「師匠はさっき

 窓を突き破ってあっちに

 飛んでいきました…」


 男は窓の外のドロナック城をみた。

 ドロナック城からは煙が上がり大きな魔力が複数感じられた。

 

「なる程。

 あそこか…」


「あ、あの!

 あなたは師匠を知っているんですか!?


「ただの友人だ。

 …とても昔のな。

 教えてくれてありがとう

 お嬢さん

 御礼にあいつを始末してやろう」


 男は起き上がって来たケニーの前に瞬時に移動した。


「速い!?

 これは、そもそもスピードの問題なの…?

 全く見えなかった!」


 クリスには男の動きが全く目で追えなかった。


「悪魔の使いパシリ風情が…」


 男が平手でケニーの頬を叩くとケニーは頭から足先迄粉々に破裂した。

 クリスは今目の前で起こっている事がもはや現実とは信じられなかった。


「じゃあな。

 また会おう」


 男は窓からドロナック城の方へ飛び立って行った。

 それは跳躍ではなく、鳥が空を飛んでいる様に見えた。


「一体、何が起こってるの…」




        To Be Continued…







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