第27話 開戦



 これは、いわゆる奇襲作戦であった。

 兵力の差がありすぎる為、何としても無傷で全軍の上陸を果たしスピード勝負でドロナック王国側が全兵力を集め陣形を組む前に首都ドロナックに到達する為だ。

 艦隊から降りて来た兵士はヴィクターとビリー王に一礼し、進軍の準備を整えだした。

 たまに俺の事を聞きつけ声をかけてくる兵士が何人もいて俺が本当のリッキーリードだと知ると大騒ぎしていた。

 中には感動して膝から崩れ落ちて泣き出す兵士もいた。

 俺のスモークランドでの人気はどうやらすこぶる高い様だ。

 

 連合軍は首都ドロナックを東から攻める大軍と北側から迂回して潜入部隊に分かれた。

 潜入のタイミングは予定では連合軍がドロナック軍と城塞都市の東側に位置するゴイン平原にて開戦する際の爆撃魔術を空に打つ事を合図とした。

 

 その爆撃魔術を使える人間が必要であった事と少しでも連合軍側の戦力を上げるために為、俺の提案により当初は潜入部隊に同行する予定だったストラスのヴィクターに連合軍に同行して貰う事とした。


 俺達は進軍速度を計算した上で、概ねの予定時刻を決め進軍を開始した連合軍を見送り、二手に分かれた。



◇◇



城塞都市トロナック城



 ドロナック城の王座にはひときわ常軌を逸した邪気を放つ男がいる。

 ドロナック王アンガス・ドロナックである。

 王は長い白髪に深いシワが刻まれた顔に、燃えるような赤い目をした男だった。


「フィリップよ。

 先程、ドロナック港が

 ストラスとラディの死に損ない共に

 打たれたとの報告があったようだな」


「はい…!父上。

 更にその連合軍はこの城塞都市に

 進軍中との情報も入っております…」


「その原因は何だ?

 兼ねてよりストラスのネズミが

 場内を嗅ぎまわっていた情報を

 お前は、得ていただろう?」


「そ…その。

 その者たちの調査は続けておりましたが

 中々手強く捕まえる事が

 出来ませんでしたので…」


「それで。

 奴らに十分な準備をさせる時間を与え

 此度の事態を招いたと言う訳か」


「父上!

 お許しください!」

 

「潰せ…。

 お前が自ら出向いて

 残党どもを一掃してこい。

 悪魔の契約の力を使っても構わん」


「かしこまりました!」


 フィリップは鬼の形相で部下を引き連れ軍の招集を始めた。


「フィリップ様!

 東より敵軍約五千を

 確認しております!」


「我が軍は取り急ぎ、どれ程用意できる?」


「我が軍は数にして

 都市外の待機兵も合わせ

 一万を確保しております。

 あと周辺の駐屯地より

 2万の増援を予定しております!」

 

「ならば全て出せ。

 残党のザコどもには十分な戦力だ

 しかし、失敗は許されん状況だ!

 更に囚人百人にあれを使う…。

 後、念の為にブロックも

 待機させておけ…」


「ブロックですか!?

 危険では…。

 とても我々では制御出来るとは

 思えませんが…」


「構わん。

 今回は俺自ら力を使う!」


「フィリップ様がまた

 悪魔の力をお使いになられるぞ…。

 またあれをやるのか…」


 すぐにフィリップの元に一人の奴隷の少年が連れて来られた。

 歳にして14〜5歳ぐらいだろうか。

 少年は何が起こるのかも想像できない恐怖で震えていた。

 そしてフィリップは少年に近づくと口が怪物の様に拡がり少年を頭から丸呑みした!

 フィリップの口からは血が吹き溢れながらもバリバリ咀嚼し、飲み込んだ。

 その直後、フィリップの全身から黒いマナが燃え上がり、彼の両目が真っ赤に染まった。

 

 あまりの光景に兵士達は目を背けた。

 しかし、これはいつも見た光景である。

 悪魔の契約術式で力を使うためには生命力に溢れた子供の魂を肉体ごと体内に飲み込み悪魔への生贄を捧げる必要があった。

 その為、アンガス王室は、奴隷商を使い幼い生きた子供の肉体を集めていた。


「生命力の質が悪いな…。

 もっと生命のパワーに溢れた

 幼い子供の肉体が必要だな」


「申し訳ございません!

 先日、奴隷商のレオポルドファミリーが

 何者かに壊滅させられたらしく

 子供の奴隷の供給が滞っておりまして…」


「レオポルドファミリーが?

 奴らにはダミアン

 を紹介してやったはずだ!

 壊滅させられたとは

 にわかに信じられんな」


「何でも生き残りの構成員からの情報では

 リッキーリードが現れたとか…」


「リッキーリード?

 下手糞な冗談だな…

 まあ、今は、そんな事より

 連合軍のやつらを早く始末するぞ!」



◇◇



城塞都市ドロナック東側

ゴイン平原



 ラディ、ストラス連合軍は集結していた。

 そこに立ち塞がるはドロナック軍一万人。


「予想通り、お待ちかねだったようだ。

 しかし数にして

 概ね一万と言ったところか。

 我々精鋭の連合軍相手に

 たった二倍の兵力とは…。

 我々も舐められたものだなビリー王。

 しかしこれを、

 勝機とみる事も出来るやもしれん!」


「しかし、ヴィクター殿。

 奴らの中には悪魔の契約術式を

 使える人間がいるかもしれん…。

 油断は禁物ですぞ」


「ビリー王!

 敵軍先頭に見えるのは

 ドロナック第一王子フィリップかと!」


「何だと!

 王国第一王子自らだと?

 奴の力は注視せねばなるまい…。

 しかし、妙な陣形だ…。

 王子の周りには側近の他に

 100人程の非武装の集団がいる。

 そしてその後ろに馬鹿デカイ

 鉄の檻の様なものも見える…。

 何か裏があるのか…」


 そして、始まりはドロナック軍側の号令で

 一万のドロナック軍が前進を始めた。


 開戦と同時にヴィクターは空に向け開戦の爆撃術式を放った。

 そして両軍入り乱れ戦いが遂に始まったのだった。



◇◇



城塞都市トロナック北部湿地帯



 リッキー達は上空に開戦の爆撃術式を確認した。



「合図だ。

 リッキー、俺達の出番だ」


 遂に始まってしまうのか…。

 俺達は北側の城壁を登り城壁の警備をディーン達が仕留め城内に潜入した。

 ディーンを含め、精鋭部隊はいつもながら、物音ひとつ立てない仕事振りだった。

実に恐ろしい連中である…。

 実際のところ過去にこいつらの暗殺技術を警戒して俺はすぐに配下に引き入れたものだった…。


 しかし少し進んだと所でクリスが警備兵と目が合ってしまった!


 しかし、ディーンが瞬時にディーンがカランビットナイフを使い兵隊3人の喉元を切り裂き絶命させた。

 振り返り、顔中に返り血を浴びたディーンの表情は完全に今回の戦いの覚悟を決めた様子だった。

 

「さあ、リッキー!

 王の首を取りに行こう」


 俺はかなりドン引きしていた…。

 


                     

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