第14話 眠れる大魔道士



 クリスは距離を取って攻撃魔法を撃ち、その隙にメイが接近して攻撃を出す。

 しかし、クリスの攻撃魔法は全てダミアンの防御魔法に弾かれる。

 メイは接近戦に持ち込もうとするが、近づく事すら出来ない。

 その時、ダミアンの姿が消え瞬時にクリスの目の前に移動した。


「瞬間移動魔術!?

 まずいわクリスちゃん!」


「おい娘……

 魔力量は中々だが、戦い方はまるで素人だな。

 これが本物の魔術戦闘というものだ」


『エグスプロージョン』


 クリスは爆撃魔術を直撃し煙を上げながら舞い上がった。


「クリスちゃん!」


 マザーメイは動こうとしたが、足元に魔法陣が光出し体が鉛の様に重くなった。

 

「さっき、仕掛けて置いた。

 お前程度では術式をかけられた事すら

 気付かなかっただろう」


「し、師匠、僕達では……

 あいつは強過ぎる……」


「ほう、まだ息があるのか。

 見かけによらず中々タフな様だな。

 まあ、次で終わりだがな」


 ダミアンが魔法を唱えようとした時、足を引きずりながらメイが間に入った。


「クリスちゃんは絶対に殺させないわ!」


「ほう、この術式をかけられながら

 動けるとは、大した馬鹿力だな。

 だが、その状態ではもう戦いにはならんな

 2人まとめて終わらせてやる」


 

 メイは何とか身体を動かそうとするが足を引きずりながら這って身体を動かす事が精いっぱいだ。

 そこに突然、孤児院の少年テリーがダミアンの前に立ちはだかった。


「テリー!あなた何してるの!」


「ママ!僕だって戦うよ!」


「テリー!相手はただのチンピラじゃないのよ!

 アナタ殺されてしまうわ!」


「でも、このままだとママも殺されてしまうよ!

 僕たちのママは一人だけなんだよ!

 僕は、弱くても……勝てなくても!

 僕はママを守りたいんだ!

 世界でたった一人の僕らの大切なママを!」


 テリーは足が震えていた。

 眼には涙を浮かべていたが

 その眼は鋭くダミアンを睨みつけていた。


「怖さを知っても、辛くても、逃げ出したくても…。

 誰かを守る為に敵に立ち向かう…。

 テリー、あなたもそんな男になったのね。

 そしたら強さも優しさも知った本当にいい男になるのよ。

 彼がそうだったわ……

 ヴィンス……テリーは

 貴方にそっくりの良い男になったわ……

 アイリス……あなたの助けた少年は、

 ヴィンスの様な立派な男に育ったのよ。

 あなた達の意志はこのアマンダ村の次の世代に受け継がれて、

 皆の中に生き続いているのよ!

 テリー!

 ワタシはあなたを、死なせなんかしないわ!

 絶対に!

 このマザーメイの命をかけて守ってみせるわ!」


「私達も行くわよ!あんた達!!」


 ダミアンの前に、マザーメイ自警団のレイチェルとステファニーが立ち塞がった。

 そして、その周りを他のマザーメイ自警団も取り囲み陣形を作った。


「死ぬ時は皆、ボスと一緒ですよ!」


「あなた達。

 ボスって呼ぶのは、おやめって言ってるでしょ」


「そうだ!俺たちもメイさん達を守るんだ!

 子供も戦おうとしてるんだぞ!!」


 隠れていたアマンダ村の住人達も!飛び出してきてメイ達を守ろうと盾になった。

 アマンダ村はひとつになっていた。


 その時サミーが怒りながら叫んだ。


「お前たち!

 捕虜にするからって

 誰も殺さないとでも思っているのか!

 いい気になりやがって!」


 しかし、ダミアンは不敵にほほ笑んだ。


「サミー。

 問題ない、少し苦しませるが、

 自警団以外の奴らは殺さずに捕らえさせてやる。

 やつらには素敵な霧をプレゼントしてやろう」


『ブラックミスト』


 ダミアンが放った魔力が黒い霧になり自警団や村人達を覆いつくすと

 皆一同に苦しみ出し倒れ始めた。


「さすがはダミアン先生!

 まったく、驚かされるばかりです!」 


「魔力の弱いやつらはこの霧を吸っただけで、

 意識を保っていられまい。

 では、まずは邪魔な自警団のやつらから始末してやろう」


『ボーアンドアロー』


 ダミアンが唱えると、今度は無数の光の矢が出現しメイ自警団に発射された。


「く……動けないわ!

 駄目!やめて!」


『エクスブロージョン!』


 その時クリスが膝をつきながら魔術を放ち、矢の起動を変えた。


「クリスちゃん!」

 

「皆さん!大丈夫ですか!?」


 しかし、起動が変わった先は、修道院のホールに続く廊下だった。


「クリスちゃん!まずいわ!

 あそこにはリッキーちゃんが、まだ眠ったままよ!」


「え!本当ですかメイさん?

 それでは師匠に当たってしまう!」


「あらやだ!

 どうしましょう!!」



≪ドン!!!!!≫



 ダミアンの魔法が修道院を直撃した。



◇◇



 俺は悪夢にうなされていた。


 メイとマザーメイ自警団のメンバーと揉みくちゃになりながら

オイルレスリングをさせられている。

 そして、中央にいたメイが俺に飛びかかって来た!

『夢なら早く覚めてくれ!!』


□□


 ……その時、ふと目が覚めた。

 最悪の目覚めだった。

 何故か俺は瓦礫まみれになっていた。


「何だ……?

 俺はまた気を失ってたのか?

 そういえばメイに抱きしめられて…。

 そうだ!レオポルドファミリーの襲撃にあったんだ!

 しかし、この状況は一体?」


 村の広場の方を見渡すと、クリスとメイさん、自警団の人たち屋がアマンダの村人達も瀕死の状態になっていた。


「クリス!メイさん!」


 おいおい、あの二人がこの状況……

 やっぱりとんでもない奴が向こうにはいるのか?


「あらやだ!

 リッキーちゃんが生きてるわ

 クリスちゃん!」


「師匠……助かった……」


 どうやら、あの黒いローブの魔道士が例の奴らしい。

 確かにすさまじい魔力をはなっている……


 その時、レオポルド・ファミリーの連中がやって来て俺は簡単に捕まった。


「ドン・サミー!

 こんな所にまだ子供が残ってましたよ!」


 俺は、サミーの前に連れて行かれた。


「おい、ガキがまだそんな所に隠れていたのか?

 俺から逃げられるとでも思ったのかい?」


 こいつがサミーか……

 確かに、何とも悪党面だな。

 そして、その後ろにいる男がクリス達を圧倒する程の魔道士か。

 結構なジジイだが、確かに凄い魔力を放っているな……

 

 ん……あれ?


 こいつ、どっかで見たことあるかも?

 俺の記憶よりもかなり歳を取っている様に見えるが……


「おい、そこの魔道士。

 お前、もしかしてダミアンか?」


「何だ?このガキ。

 ダミアン先生に何だその口の聞き方は?

 ねぇダミアン先生?」


 サミーがダミアンに呼びかけ、顔を見ると

 ダミアンは顔面蒼白になりながらガクガク震え出した。

 

「リ、リ、リ……リッキー!!!

 リッキー・リード!!!」


 ダミアンは完全に腰が抜けて、尻もちをつきながら、後退りし始めた。


「どうしたんですか先生!?

 リッキー・リード?

 どう見ても、ただのガキですよ」


「リッキー・リード!!

 貴様!生きていたのか!!」


「やっぱりそうか!

 お前、俺が昔滅ぼした

 ゴードン王国の魔道士ダミアンだな。

 お前こそよく生きてたな。

 俺が魔法で吹き飛ばしたから

 あの時、てっきり死んだと思ってたよ」


「リッキーちゃんが

 本物の大魔道士リッキーリード?

 一体どういう事なの……」


「ええ、師匠は本物の大魔道士リッキーリードですから。

 後は宜しくお願いしますよ……」


 クリスさん。

 宜しくって言われても。

 今の俺ではとてもダミアンには勝てないんだけとな。


「リッキー・リード!

 貴様……なぜ200年前と全く姿が変わっておらん!!」


「変わったっての!

 背もスッゲー伸びてるし!

 そういうお前はえらいジジイになったもんだな!」


「なぜ、ここにリッキー・リードが!?」


 はっ!これはもしかしたら!


 このまま、ハッタリかませば、もしかしてダミアンの奴ビビッて逃げ出すのでは!?

 そうだ!その作戦で行こう!


「くそ!リッキー・リード!

 お前さえいなければ!

 俺は天才魔道士として!

 ゴードン王国も乗っ取って

 世界の覇者になれたのだ!」


 やっぱり、めちゃめちゃ恨まれているな俺……

 でも、明らかに俺にビビってやがる。


「で?ダミアンよ!

 また俺の前に姿を現したと言うことは、死ぬ覚悟は出来ている様だな?」


「う……クソぉ!」


 お、いいぞ!ビビってる!

 このまま押し切るぞ!


「しかし、俺は寛容だ!

 今すぐ引き返すなら

 命だけは助けてやっても良いぞ!」


「私は……私は。

 お前を倒す為だけに、

 この236年間を生きてきた!

 リッキー・リードよ!

 お前という存在の恐怖に怯えながらな!

 しかし!

 私は忘れられたシュラム王国の古代魔法を解明した!

 その魔術は術者の寿命を引き換えに、

 相手の魔力を食らいつくす事が出来る!」


 え?こいつもしかしてやる気なの?

 相手はリッキー・リードだよ。

 あなたバカなの……?


 これはまずい!何とかしないと!

 そんで何?その魔術?

 聞くからにヤバそうじゃん!


 そうだ!魔力を戻さないと!

 確か俺が魔力を失ったきっかけは、通常時の魔力量を制限し魔力蓄積を行う事で、必要な時に開放、増幅する魔力ブースト術式の最中だ。

 もしかしたら、その抑えた魔力を再び発動する為のトリガーに当たるプロセスが足りなかったのかもしれない。

 それを発動させれば、魔力が戻るのかも知れない……

  って!それが出来ればこの200年間でとっくにやっるっての!

 まずい!俺殺されるんじゃ!?


「ちょっと待ってダミアンさん!

 そうだ、一度話し合おう!

 きっと話せば分かる!」


「リッキー・リードォ!!!!

 今日という日を待っていた!!!

 お前を倒して俺はお前と言う恐怖から

 236年ぶりに開放されるのだ!」 


『古代魔法シャームリアドー!!』


 え、何それ?

 全く聞いた事ない魔術なんですけど!


 俺の周りに無数の魔方陣が出現し俺を取り囲んでいる!

 そして光を放ち、俺を飲み込んだ。


 何だこの魔術は!?

 全身の力が、吸い取られていくのか?

 そもそも、俺の魔力って殆どないけど。

 


≪ドクン!!!!!≫



 何だ?

 何が起こった? 

 俺どうなるの?



≪ドクン!!!!!≫



 体中が熱い!!

 焼けそうだ!!


 すると。

 俺の身体の奥から何かが変化し出した。


 俺の体中から黒みがかった緑色のドス黒い魔力が湧き上がってきた!

 懐かしいこの感覚……自分ですら鳥肌が立つ程のこの力!

 魔力のブースト術式が成功したのか?

 もしかして、トリガーが入ったのか?


 とにかく……俺の魔力が戻ったのか!?




To be continued…

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