SUB3 シャッフル!(後編)

[瑞芽寮_食堂]


章     「──なんだこれ!?」


――――――

[スマホに動画が流れている]


衣月   「…………あ? 律は? ここどこ? チッ! 朝から最悪だ……!」


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――――――


真尋   「中都演劇部“半”公式ファンサイト……。西野、まだこれ続けてたの?」

総介   「え~? ナンノコトカナ~?」

章    「背景微妙にぼかしてるけど、これ俺らの部屋じゃん! お前、これ、今朝撮っただろ!」


 静かに大激怒する律。


律    「……部屋シャッフルとか言いだしたのは、このためだったんですか……!?」

章    「つーか、何だよ今なら月額980円って! 妙に高いよ! いろんなとこから怒られるぞ!」

総介   「シーッ! 大声出したらシャッフルバレちゃう! これも演劇部のためなんだって!」


衣月   「……ふぅん」


ロキ・真尋・章・律「「「「!!!!」」」」


ロキ   (これ、絶対ダメな「ふぅん」だ。さすがに俺でも分かるぞ!?)

章    (あー、死んだ。総介、このバカ……!! なんでそうやって生き急ぐんだよ!!)

律    (どうしよう……ここまでどうにか隠してきたのに……。衣月さんが、寝起きの悪さを客観的に自覚してしまう!)

真尋   (すごい。「ふぅん」だけで怒りが伝わってくる……! やっぱり、生きた感情は違うな……!)


 衣月、笑みを深くする。


衣月   「……総介。この前、ネットで散々炎上したよね? こういうの、勝手にやらないでくれるかな? 演劇部のためなら、余計にやるべきことが違うだろ? なんなら、もう一晩2人でじっくり話そうか」

総介   「だって……っ、だってさー、虹架が羨ましかったんだもん!!!」

律    「なんでそこで虹架が出てくるんですか」

総介   「最近、ユキが写真集出して、バカ売れしててさ!」

ロキ   「っ!」

総介   「神5の写真も一部収録されてるから、たぶん、虹架にもいくらか入ってるよ、あれ! またあの演劇部潤うんだよ!? 儲けちゃうんだよ!? うちだって、イケメン使ってお金儲けしたい!!」


ロキ   「そんなの……っ、そんなヤツの写真集、買うヤツがバカなんだ!!」


章    「うぉ!? いきなり何キレてんだよロキ。神楽、完全にとばっちりじゃん!」

真尋   「……それが、とばっちりでもないんだ。俺とロキのケンカの原因も、じつは、その“神楽有希人ファースト写真集”だから……」

律    「は!? どういうことですか?」

真尋   「……じつは、一昨日ロキと一緒に出かけた帰りに、本屋に寄ったんだけど──」



――――――

[回想]

[東所沢駅前]


真尋   「あ。有希人、写真集出したんだ……。さすが、いい表情の写真だな」


真尋   (こういうのを見ると、ライバルって以上に、尊敬する1人の役者なんだって実感するな……)


ロキ   「……それ、まさか買うんじゃないよな?」

真尋   「買うよ。……どうしたの? 何だか不機嫌だけど……お腹痛い?」

ロキ   「あんなヤツの写真集が欲しいなんてどうかしてるぞ! そんなの、俺様の写真で作ればいいだろ!」

真尋   「写真集ならなんでもいいってわけじゃないし……。あ、でもロキの写真集はちょっと見てみたい」

ロキ   「ああ。俺の写真ならいくらでも撮らせてやる。だから、それ買うのはやめろ」

真尋   「それとこれとは話が別だよ。ほら、特典映像のDVDに稽古の映像が入ってる。勉強にもなるでしょ?」

ロキ   「はあ!? あんなヤツの芝居なんか、見なくていいだろ! 真尋は全然見る目がないな!」

真尋   「! 有希人はいい役者だ。そんな風に言うなら、ロキには分からなくてもいいよ」

ロキ   「なんっ……! いいから、こんなもん買うな!」

真尋   「嫌だ」

ロキ   「なんだと!? お前なんか……お前なんか、真尋のくせに!!」

――――――


真尋   「──というわけで、ケンカになっちゃって」

ロキ   「フン。真尋が悪いんだ。言うこと聞かないから!」

律    「珍しく真尋さんも折れないから、どんな深刻な理由かと思ったら……」

章    「それって、いつもの芝居にまつわるじゃれ合いのケンカじゃん……。心配して損した」

総介   「そんなとこだろうとは思ってたよ。まあ、部屋シャッフルができたのは大きかったけどさ。さっさと仲直りして、一件落着――」


 衣月、総介の肩をポンと叩く。


衣月   「話は終わってないよ、総介。動画は今すぐ消して、盗撮は二度としないって約束して。いいね?」


総介   「……はぁい。ま、写真集バカ売れしちゃうようなすごい役者がライバルなんだもん。羨ましがってる場合でも、揉めてる場合でもないよね?」

衣月   「それと。これだけ騒ぎになったら竜崎先生にバレて、部活に影響するかもしれない。今日はおとなしく、自分たちの部屋に戻ること。いいね? ロキ。真尋」


ロキ・真尋「「…………はい」」




[瑞芽寮_章と総介の部屋]


総介   「やっぱりアキのいる部屋が、オレの居場所だね☆ まるごと“そーちゃんスペース”!」


章    (……そういや、叶、言ってたよな。お互いの存在が、当たり前の関係……か)


総介   「なに~? アキってばニヤニヤしちゃって。思い出し笑いは泥棒の始まりだよ!?」

章    「んなわけないだろ! ……それより、南條先輩に言ったんだろ? 劇団作りたいって思ってること。お前のことだから、勧誘もしたよな。そのための部屋シ

ャッフルだったんだろうし」

総介   「! あらら、見抜かれてる~。さっすがオレの幼なじみ! ん。やっぱツッキーはすごいよね。検討以前に、オレの計画の穴、いろいろ指摘されたよ。留学して演劇学んだらどうかとか提案してくれたり、親にはどう話すつもりだとか親身にもなってくれてさ」

章    「そっか……。そうだよな。留学とか、そういう手もあるんだ……」


章    (……総介は、俺の可能性を見つけてくれた。だから、ここまで一緒に来られた。でも……この先は、俺じゃきっと、才能が足りない。努力だけじゃ、届かない日がやってくる……)


章    (……できるならついていきたい。でも俺、どこまで隣で走れるんだろ)


総介   「……何考えてるのか知らないけど、アキは、いつまでもオレと腐れ縁って決まってるんだからね? 将来のこともあるけど、その前に、まずは目の前のコンクールで、最優秀賞取らなきゃね!」


14章SUB3


章    「……そうだな。主演2人のためにも」




[瑞芽寮_衣月と律の部屋]


衣月   「ロキともずいぶん仲よくなったし、同室でも、楽しく過ごせるだろうと思ってたんだけど……」

律    「むしろ、ケンカになりました……」

衣月   「律は、ロキのことももう大好きだ。でも、あえて冷たく言ったんでしょ。あの2人を仲直りさせるために」

律    「……! だって、そうでもして突き放さなきゃ、今度は俺にまで甘えて、仲直りしないですから」


律    (でも……やっぱり、言いすぎたかも。傷付いた顔、してたし……)


衣月   「律は偉いね。好きな相手を突き放すって、難しいことだよ。僕が偉そうに言うのも変たけど、律は……本当に成長したね」

律    「……っ。それはそうと、あの寝起き動画ですけど、あれはきっと何かの間違いで――」

衣月   「ふふ」

律    「……衣月さん?」

衣月   「……ごめんね。実は、自分でも心当たりがあったんだ。律にも言ってなかったんだけど……」

律    「え」

衣月   「南條家は代々、祖父も父も寝起きが最悪で、祖母も母も、苦労してきたらしいんだよ。僕も朝は苦手だけど、そこまで迷惑はかけてないと思ってた。でもやっぱりひどかったみたいだね。律はそれを黙って堪えてくれてたんだね。今も、僕をごまかそうとしてくれた」

律    「衣月さん……」

衣月   「本当にありがとう。それから、ごめん。卒業までの間だけでも、なんとかして直すから」

律    「……いえ。無理して直さなくてもいいです。それが衣月さんだと思ってるし。それに……そのくらいのダメなところもないと、衣月さんは、完璧にカッコよすぎて困りますから」


14章SUB3


衣月   「……よかった。律の目に映る僕は、なんとか、カッコよく見えてるんだね。ありがとう。律がそう言ってくれるから、僕もがんばれるんだ。律に恥じないようにって」




[瑞芽寮_ロキと真尋の部屋]


真尋   「…………。西野の言う通りだ。ケンカしてる場合じゃない。俺も酷いこと言ってごめん。……ロキが怒った理由、聞かせてくれる?」

ロキ   「……だって。お前、ユキトのせいで、舞台に立てないくらい、傷付けられたんじゃねーか。そんなやつの写真集なんて、部屋に持ってきて、燃やしてやるぞ」

真尋   「……そっか……そういうことだったんだね。ありがとう、ロキ。心配してくれて。でも、今もまだ有希人のことを気に病んでるなら、写真集を買おうなんて思えないはずだよ」


 屈託無く笑う真尋。


真尋   「俺は変わった。変われたんだ。ロキとみんなのおかげで」


 毒気を抜かれるロキ。


ロキ   「……フン。当然だ。感謝しろ。感謝の印にリンゴを貢げ」

真尋   「はは。そう言うと思って、買っておいたんだよ。はい、リンゴ」

ロキ   「フン! そうこなくっちゃな」


 ロキ、さっそくリンゴをかじる。


真尋   「あ……ロキ、爪伸びてるね?」

ロキ   「ああ、律にも言われた。ちょっと引っかいちゃって……」


ロキ   (……アースガルズでイズンのリンゴを食べれば、爪なんて伸びなくなる。きっと、今切ったら、もう二度とこの部屋で切ることもなくなる……)


ロキ   「……。……ま、でも、気を付けてれば大丈夫だろ。このままにしとく」

真尋   「だめだよ。引っかいたなら、なおさら。それとも、切られるのまだ不安? 大丈夫だよ。ちゃんと丁寧に切るから。ほら、こっちおいで」

ロキ   「……」


 真尋、ロキの爪を切る。


ロキ   「…………。俺の爪を切るのは、真尋じゃなきゃダメだ」

真尋   「うん。任せて。伸びたら何度でも切るよ。ロキが不安にならないようにね」

ロキ   (……不安なのは爪切りじゃない。……爪を切ったら、そのまま“別れ”になる気がするからだ。それどころか……アースガルズに帰ったら、真尋はもう、俺のこと――)


真尋   「……大丈夫だよ。ほら、切れた。前より上手になったでしょ?」

ロキ   「……フン。まあまあだな!」


ロキ   (……本当に“大丈夫”だったらいいのに)


真尋   「それでさ、ロキ。仲直りの記念に……、ちょっとだけ稽古しない?」

ロキ   「ったく、お前は……。でも、それが、“叶真尋”だよな。いいぜ。今の俺は、前よりもっと芝居がしたい気分だ。だから……」


14章SUB3


ロキ   「いっそ、気の済むまで芝居してやる!」

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神様しばい【第二部】 犬井 楡・三糸ユウ・ゆーます/ガルスマノベルス @glsmnovels

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