SUB3 小さなトゲ
[東所沢駅前]
ある日の放課後。
ロキ 「おい地味助! 今すぐジッカに帰れ!」
章 「突然の絶縁宣言! なんで!?」
ロキ 「地味母の料理が食べたいからだ! せっかく駅前にいるし! ちょうどいい!」
章 「俺、そんな理由で実家帰らされるの? しかも地味母呼びは一応やめて!?」
総介 「横から会話に失礼しまーす! 分かるよロキたん、ふみぽよの料理、美味しいもんね!」
ロキ 「そうか。総介は、章と幼なじみだから、地味母の料理も食べたことあるのか」
総介 「もっちろん! 身長の10分の1くらいは、ふみぽよの料理で育ってるかも! 話してたら、オレも食べたくなってきたな。アキ、いつ帰省すんの? 今? それとも今?」
章 「どっちも今だよ! つーか、しばらくしないから! そもそもお前ら、人の母親を……」
女子学生1「──あの、すみません!」
総介 「お……っと。やば」
総介、サッと距離を取る。
女子学生2「わあ、やっぱり本物だ……!」
ロキ 「本物ぉ? どういう意味だよ」
女子学生1「みなさん、中都演劇部ですよね!? 文化祭の公演、観てたんです!」
女子学生2「始まってすぐ引き込まれて、ファンになっちゃいました!」
ロキ 「フン、当然だな。その感動を伝えるために、神々しい俺様に話しかけた勇気は褒めてやる」
女子学生1「また機会があったら観たいです! 部活、がんばってください!」
章 「う……うん。がんばる……ります! えっと。話しかけてくれて、どうもです!」
章 「やれやれ。……行ったぞ、総介」
総介、物陰から出てくる。
総介 「……ふう。必殺・隠れ総介くんの術、成功! まあ、応援してくれてるのは嬉しいよね~! で、なんの話してたっけ? ふみぽよの料理で好きなメニューの話? オレ、でっかいコロッケ!」
ロキ 「……総介。お前」
総介 「ん? なーに、ロキたん☆」
ロキ 「聞きたいことがある。今日は、お前らの部屋までついて行くぞ」
[
ロキ 「この部屋は、相変わらずごちゃごちゃしてるな。美しい俺様にちっとも似合わない」
章 「叶だって片付け下手だろ。……おっと。叶で思い出した。あいつに渡すもんあったんだった。部屋にいるといいんだけど……俺、ちょっと行ってくる。2人で話しててくれ!」
総介 「いってらー。お土産はリンゴラテね! ……で、ロキたん。さっき言ってた、聞きたいことってなーに?」
ロキ 「お前、なんで女に近付かれると隠れるんだ?」
総介 「おおっと、どストレートいただきましたぁ! けど、別に隠れたりしてないよ~?」
ロキ 「ごまかすな。さっきも隠れてたし、今までも何度か見かけてる。取って食われたことでもあるのか?」
総介 「あー……はは。神様には、隠しても意味ないか。……どこから話したらいいんだか」
総介 「ええと……オレが子役やってた頃さ、よく“親の七光”って言われてたんだよね。実際、役もらえてたのは、親の力が大きかった。甘えてたオレも悪いけど、それで妬んでくる奴もいて。そんな時、一緒にドラマに出てた、歳が近い女の子と仲よくなったんだ。その子は他の子と違った。『総介くんは総介くんだよ』って、言ってくれてさ。あの時は、マジで嬉しかった……。初めて、アキ以外に大事な友達ができたと思った」
総介 「でもさ。ある日、偶然聞いちゃったんだ。その子と、他の女の子との会話を。彼女、笑いながら言ってた。『総介くんと仲よくなんかない、一方的に好かれて困ってる』『七光でダサいよね』……って」
ロキ 「……ふぅん」
総介 「けどそっからまあ、手のひら返されたっていうか。その子が中心になってオレを無視してきた。多分だけど、あの子もしたくてしたわけじゃない。女子グループにあるあるな、“空気読んだ”ってやつ? オレと仲いいなんて言ったら、自分がいじめられる。だから話を合わせたんじゃないかなーって、今は思う」
総介 「けど、まあ、当時はショックでさ! それからだなー、女の子って苦手だなって思うようになっちゃって。側にいてしばらく経つと、普通の会話でも、試されてるよーな、ヘンな疑心暗鬼が先に立っちゃってさ。冷や汗出てくるってわけ。だから、最初から女の子と話すシチュエーション自体避けちゃうっていうか……」
ロキ 「……総介。お前、バカだったのか?」
総介 「どストレート再びっ! ひどくない!? けっこう悲しく切ない話よ今の!」
ロキ 「フン。そんなことが1回あったからって、女はみんな同じだと思う、お前の頭のほうがひどい。もっといい女なんか、アースガルズにも人間界にもいっぱいいるぞ。そう、たとえば──」
ロキ、少女の姿に変身する。
少女ロキ「ほら……ね? 私となら仲よくしたいって思うでしょ?」
総介 「うえええええあああロキ子ちゃんっ!? なな、なかよくとか、そ、そんなっ……!! ろ、ロロロキ子ちゃんはおおお女の子だけど、女の子じゃないっていうか……! だから……!」
少女ロキ 「だから? だから冷や汗も出ない? ……だから、好きなの?」
総介 「汗は出るっ! もういろんな意味で!!」
少女ロキ 「……ね。私がいい女だってこと、教えてあげよっか。もっと、近くで……」
総介に触れそうな距離まで近寄る少女姿のロキ。
ガチャリと扉が開き、会話をしながら章と真尋が部屋に入ってくる。
章 「そうそう。ほかの資料なら、総介が持ってるから、探せば……って近ぁーーーー!?」
真尋 「ロキ!?」
章 「そういうショック療法は! 危険! 死の危険があるから!! 総介保護法で禁止!」
真尋 「ロキ。西野が泡吹いてる。今すぐ変身を解いて」
少女ロキ 「えぇー? ここからいいところなのに。総介に、女のよさを教えてやろーと思って♪」
真尋 「ダメ。……ごめん、2人とも。ロキは俺が引き取るから!」
真尋、ロキを連れて退室する。
章 「……行ったか。おい、総介」
総介 「………………ロキコチャン……? ……ア…………? …………は…………! アキ! はーーーーーーーーーーーーあ命拾いした! 割と真剣に死ぬかと思ったぁ!」
章 「こっちもだっつーの。ドアを開けた瞬間、お前ら、接触2秒前って感じだったぞ。ったく!」
章 「……やれやれ。まあ、ロキはロキなりに、お前のこと心配してるんだと思うけどさ」
総介 「心配?」
章 「女嫌い。前に、あいつ言ってたんだ。『総介はこれから先、どーするつもりなんだ』って。『人間の半分にしかうまく話せないんじゃ、芝居を作るのだって、いつか困るだろ』……だと」
総介 「……ロキたん」
章 「だからってあのショック療法はどうかと思うけどさ。俺も、ちゃんと直したほうがいいと思う」
総介 「いやー、そりゃオレだっていつかは直したいけどさ! 今じゃないっていうか――」
章 「それ、3年前から言ってるぞ。俺もお前を困らせたくなくて、この話題避けてたけどさ。もう俺たち、高2だろ。卒業したら外の世界に出る。その頃までずっと同じでいるつもりか? ロキの言う通り、芝居作りにもいつか影響するじゃん。たとえば将来、女優さんが出る芝居、お前に作れるか?」
総介 「っ……それは……」
章 「……芝居のことだけじゃない。俺は、お前の芝居仲間っていう前に、幼なじみだし。お前がいい奴だって、一応知ってる。だから……ほら、いつかは幸せになってほしいとか、思うんだよ!」
総介 「えぇー。オレ、今もじゅーぶん幸せよ?」
章 「茶化すなって。突拍子もないけどさ、お前ってきっと、いい彼氏とか、いい旦那さんになれると思うんだよ。俺は、お前がそういう優しい奴だって知ってる。だから女の子苦手なままで、その未来をなくしてほしくない」
章 「……くそ。すっげー恥ずかしいけど、言ったぞ! こればっかりは、俺にもどうにもできないんだからな!」
総介 「アキ……。はは! ありがと。まさか、オレの未来まで考えてくれてるなんてねー!? その気持ちは受け止めるよ。今すぐは無理でも、アキがそう言うなら……がんばってみる」
総介 「けどオレは、アキといつまでも芝居やれたら、ぶっちゃけなんもいらないんですけどー?」
章 「甘えるな。お前は、俺以外の奴ともバンバン組めよ。んで、すげー芝居作る演出家になれ」
章 「つーかお前、今そんなこと言ってても、俺は知ってるぞ。お前って奴は、いつか自分の結婚式とかやることになったら、絶対すげー演出して、超盛り上がるタイプだ!」
総介 「あはは! 何その未来予想図。でも、そーかも! 結婚式とかハッピーなやつ、オレ大好き! あっ! その時は余興で、ヒロくんとロキたんに2人芝居の特別編やってもらおう! りっちゃんには音響でしょ。ツッキーにはタキシードとウエディングドレスを頼んで……、アキは天窓から、全身白タイツで登場!」
章 「俺だけなんなんだよ、その謎演出!? ったく……。はは。ほらな。考えると楽しいだろ。今はまだ遠い可能性の話でも……そういうのもありえるってこと。“ハッピーなやつ”、自分で逃すなよ」
総介 「……はは。アキだって、自分のこと棚に上げてるじゃん。お前のほうが、よっぽど……」
章 「なんだよ。……あ、そーだ! 叶が見たがってた資料、探さないと!」
総介 「……よっぽど、いい彼氏、いい旦那になるよ。だって今、こんなにいい幼なじみなんだもん」
総介 「任せといてよ、アキ。アキの結婚式は、オレがカンペキに演出するから。……なんてね!」
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