第57話 タブー……ドンドコドンドンドンドンドン

 結末の手前まで夢中になって書き進めて、僕は我に返った。


「締めの一言がなあ……」


 まだまだ書くことはたくさんある。

 先へ進んでもいいけど、書き終わった後にダメ出しを食らったら、僕はもう、立ち直れない。

 いくら「任せた」と言われても、ここはチェックをもらったほうがいいのではないか。

 そのためには、かすみセンパイを起こさなければならない。かすみセンパイを起こすには、振り向かなければならない。

 いくら「見るな」と言われていても……。


「仕方ないよな」


 僕は思い切って立ち上がった。

 振り向くと、かすみセンパイはすぐそこにいた。

 静かな寝息をつきながら、深い眠りについている。

 ベッドの白いシーツの上で横になって……。

 思わず息を呑んだところで、僕はおずおずと声をかけた。


「あの、センパイ、それはシチュエーション的にマズいんじゃないでしょうか……」


 シーツの上に身体を投げ出したセンパイの姿は、無防備といってよかった。

 両腕は大きく開かれ、甘い吐息で上下する、豊かな胸の隆起を露わにしている。

 ホットパンツから伸びた白く細い足。片膝上げて横になっているので、太腿の内側が僕のほうに晒されている。

 まずい。この姿勢は、まずい。

 頭の中に、あの「タブー」の曲が流れる。


 ……ドンドコドンドンドン、ドンドンドン。


「あの……かすみセンパイ?」


 目をそらしながら声をかけたが、寝言も返ってこなかった。

 聞こえるのは、微かな呻き声だけだ。


「あ……ん……」


 まずい。こんな状況で、夜中にふたりっきりは絶対にまずい。

 かすみセンパイに聞こえるか聞こえないかの微妙なコントロールの下、僕は声をかけ続けた。


「起きてください、センパイ……」

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