第55話 センパイの熱い想い
背後のベッドの上で、かすみセンパイが囁くような声で語りかけてくる。
「でもね、アタシ、嬉しかったんだ、アンタが手挙げてくれて」
余程眠いのか、センパイの声は、ますます小さくなる。僕の手が一瞬、止まった。作業を促すように、センパイは続ける。
「ウチの学校、底辺校でしょ? でもね、この演劇部には演劇部の意地があるの。芝居だけは誰にも負けない、っていうね。だからアタシ、ここを選んだ。皆、プライド持って、できることを一生懸命やってる。だからアタシは、ここが好き」
好き、という言葉に、なぜかドキっとした。自分がそう言われたわけでもないのに。だがセンパイは、そこで言った。
「でもね……」
まだ何も言ってないのに、胸がきゅんと痛んだ。僕にできることなら、何でもしたかった。
「……何ですか? 僕でよかったら……」
声が、急に厳しくなる。
「タシたちの先輩が築いてきた伝統と実績にアグラかいてる連中がいるのも確か。アタシ、入部してからずっとそれが悔しかった」
内心、グサリときた。僕のことだ。
適当にやって大会上位に入って、記録を調査書に書いてもらおうと思っていたのだ。
その僕に、センパイは言った。
「でも、アンタは台本担当に手を挙げた。動機はどうだか知らないけど」
一言多いが、それには返す言葉がない。僕はキーを叩きながら、次の言葉を待った。
だが、センパイの「寝ながら説教」はそこで終わってしまった。
僕の耳に残ったのは、かすかな囁きだけである。
「教えることは教えたからね。あと、任せた……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます