第54話 台本もクライマックスに向けて
……一晩経って、場面は翌日の教室に変わる。
観の前でもじもじと恥じらうあきらを、小菅が急き立てる。
「……ほら」
目をそらしながら、あきらはぼそりとつぶやく。
「……ごめん」
観は妙に明るい声で答える。
「……気にして、ないから」
その言葉の裏にあるわだかまりに、あきらは敏感に反応する。
「……小菅」
ふだんはふざけ倒している小菅も、この日ばかりは爆発しかかる。
だが、そこはぐっとこらえる。
「……もういいだろ、このへんで……ったく! なあ観、おまえもそういう……いやなんとなくまあ事情は知ってるけど、そこはそれ、あきらちゃんとは知らない仲でもないんだからあれだ、そう!」
小菅の気遣いに感謝しながらも、観は自分のうちに閉じこもる。
「悪い、小菅、これだけは」
小菅は怒りに、必死でブレーキをかける。
「そうかよ、もういいよ。俺はいいけど、あきらちゃんにだけは、な。腹割って……」
あきらは、無理に笑ってみせる。
「観が言いたくないなら、いい」
今度は、観がめをそらした。
「あきら……ごめん」
小菅も、やけになってはしゃぎ回る。
「何それ何それ、じゃあ夕べの俺の苦労なに? 泣いてるアキラちゃんなだめてここまで連れてきた俺の立場ど~なんの?」
そこへ担任に呼ばれた両親がやってきて、そこは懇談の場になる。
「気持ちは分かるが小菅くん、ここは僕に任せてくれないかな」
意外な展開に、観は慌てふためく。
「親父……? おふくろ……? 先生、何で?」
父親は、頭から観を怒鳴りつける。
「観! たるんどるんじゃないか、お前少し!」
母親は母親で、理解のある母親を気取ってみせる。
「父さん! こういうときだけいいカッコしようったってダメよ」
どちらにも耐えきれない観は、逆上する。
「もう、ほっといてくれよ!」
その場の一同は、唖然として沈黙する。
やがて、その場を出ていこうとする小菅が、皮肉たっぷりに言い捨てた。
「じゃあ頑張って、よい四者面談を。……行こうぜ、あきらちゃん。俺たちの出る幕じゃないってよ」
その後に続くあきらが、物言いたげに振り向く。
「観……あたし……」
小菅とあきらが出て行った後、担任は面倒臭そうに、夏休み中の生活についての説教を始める。ふてくされる観。叱る父親。軽く流す母親……。
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