第50話 セリフを生かす技
さて、昼飯をさっさと啜りこんで、午後の作業である。
午前の作業がスムーズに進んだので、午後もこんなもんかとタカをくくっていたが、世の中そんなに甘いもんではない。
僕の手は、すっかり止まってしまったのだった。
かすみセンパイは、パソコン画面上の片言隻句も見逃さない。
「ハイそこ書き直し!」
「1シーン書き直しなんですけど……」
泣き言は一切、通用しない
「書き終わるまで待ってやったの。アンタのセリフ尊重して」
原因は、かすみセンパイのダメ出しが異様に多いことだった。1シーン書いてはダメ出し、削除して書き直し……
ダメ出しで特に多かったのが、肝心のセリフがまずいことだった。話の展開は、頭の中では分かっている。だが、分かっていてもなかなか書けるものではない。
「セリフが長い! 対話は必要最小限!」
時間が経つにつれて、かすみセンパイはヒートアップしていった。
部活の将来と大会の成功を願うかすみセンパイの気持ちを考えれば、どれだけ罵声を浴びても仕方ないと思えてくる。僕は言われるままに何度でもセリフを書き直した。
「説得は文法的に、感情は非文法的に!」
「殴られると『どこが』よりも『痛い!」が先に来るものなの」
「悠里は人間そっくり、リアルにつくられてるんでしょ? 観を好きになったら『「バッテリーが切れた』」なんて言わないんじゃない?」
「母親が真顔で説得しても、観が聞くわけないでしょ……」
いちいち数え上げていてはきりがない。
かすみセンパイのダメ出しに辟易し、セリフに呻吟しながら書き進めていく。それでも不思議なもので、ある程度書くと登場人物が自然に喋りだすのが感じられた。
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