第33話 まずは冒頭のツカミから

 それから毎日、観は悠里を見かけたけど、そんなナンパなんかできるわけがない。それとなく校内を探してみたけど、いなかった。

 廃屋の中に、悠里の姿が現れる。家の奥の扉から、出たり入ったり。

 そこで、観は語る。


《ある日の夕暮れ時のことだった。僕は帰り道で、彼女を見かけた。尾行とかそういうんじゃないけど、つい、後を追いかけた。でも、気が付いてみると、もういない》


 現れては消える悠里の姿を追いながら、観は語り続ける。


《そんなことを繰り返しているうちに、僕はとうとう、山の中の崖っぷちに立つ廃屋で彼女を発見した……》


 そこで初めて、悠里は観に気付く。


《誰?》


 観は逃げることもできず、その場に立ち尽くす。

 

《いや、何でも……》


 悠里は観に迫る。


《こっちへ来て。あなたは誰? どうしてここにいるの?》


 悠里に廃屋へとに引きずり込まれた観は、そこに崩れ落ちる。

 そこで舞台の全ては止まり、再び観のひとり語りとなる。


《凄まじい腕力でした。その上、不思議な威圧感と共に問い詰められた僕は、事情を洗いざらい吐かされてしまいました》


 そこで、観は跳ね起きる。


《……本当です、もう、何にも隠してません、ごめんなさい、帰ります!》


 だが、悠里の静かな声が、その足を止める。


《あなた以外にもう1人、私に近づくものがいたら、私は壊れてしまう。だから、私のことは誰にも言わないで》


 そのまま動かなくなった悠里を残して、観の語りが始まる。


《悠里は、はるか未来から過去の風俗調査を目的として送り込まれたアンドロイドでした。対人コミュニケーションが取れる最低限の人工知能しか搭載されていないので、関われる人間は1人が限界なのです……》

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