第25話 真剣なセンパイと僕の責任

 僕もしまったと思った。いかに傲慢でキツイかすみセンパイとはいえ、女の子なのだ。


「イヤ、僕も……」


 お互い、しばし押し黙った。

 めちゃくちゃ、気まずい。

 俯き加減にちらっと眺めてみたら、かすみセンパイもきまり悪そうにそっぽを向いている。

 僕への物言いを、気にはしているらしい。

 それを素直な言葉や態度にできない辺りが、何だか可愛かった。

 しばらくして、かすみセンパイは僕の隣の席に座った。

 かすみセンパイは、何も書いてない黒板をまっすぐ見つめていた。そして、そのままの姿勢で、キャラをメモした紙を僕の机の上からそっと取った。

 ようやくのことで、その唇から微かな声が洩れる。


「えっとね……」

「はい……」


 僕はセンパイの横顔を見た。内にハネたボブカットのせいで、黒縁メガネの童顔が余計に幼く見える。

 だが、メモをじっと見つめる表情は凛と張りつめていた。その厳しい表情のせいか、なんだか背中がぞくっとした。

 やがて、センパイは真剣な口調で切り出した。


「アタシが書けばイチバン早いのよ。だけど、問題は台本ができるできないじゃない」

「分かってます……」

 

 そう答える僕の目を真っ直ぐ見て、いちばん痛いところを突いてくる。


「アンタがアンタの責任を果たさないこと」

「ぐ……」


 かすみセンパイは再びメモに視線を戻した。

 僕も厳粛な気持ちになった。

 今までそうやって、ちゃあんぽらんに生きてきたのだ、僕は。

 言い訳できない。

 だから、かすみセンパイの横顔を見つめながら言った。

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