第13話 閑話 2
side飛田 爽
隣人はどうやら幼なじみ同士らしい。食堂での会話や、薄い壁から細々と聞こえてくる会話で推測した。これは大当たりで、仲良くなった真琴にそうだと教えてもらった。それが嘘偽りないのは分かったけど、どうやら本郷の方はそうではないらしい。
朝食に誘っただけであの態度。怖いし敵に回したくないけど、真琴が気になって仕方ない。だから兄から聞いていた授業内容で先手を打った。これで俺の気持ちが何なのか、どういう意味を抱いているのか、ほんの少しでも分かると思った。
結果はケガをして終わり。カッコイイところを一つでも見せようとしたけど、怒られて手元が狂って落下。心配させるなんてほんと、カッコ悪い。
でも九死に一生で気づいた。咄嗟だったけどケガをして欲しくない、守りたいと思った。
目を覚ました保健室で真琴が側にいて、キズ一つない姿にほっとした。
「……本当にごめん……あの、俺に出来ることがあれば怪我が治るまでなんでもする」
「なんでも?」
「うん、身の回りのことでもそれ以外の事でもなんでもするから」
「そう、なんでもか……じゃあ」
「ダメ」
いつからいたのか、本郷が現れて真琴を連れ去ろうとする。手を伸ばして引き止めたいけど、痛む身体でそれは叶わない。だけどせめて叶えたいことだけは伝える。
「別にいいよ!でも、そんなにしたいなら名前で呼んで」
俺も名前を呼んで欲しい。少しでもいいから君の特別になりたい。
「分かった、爽!」
それを聞いた瞬間、胸の内に甘い何かが広がった。なるほど、これが恋という感情なんだ。うん、色々と超える壁は多そうだけど手に入れたい。
「飛田、生きてるか?」
「渚も見舞いに来てくれたんだ」
「同室のよしみでカバン渡して来いって言われたから来た」
「ぶっきらぼうな口して~本当は俺のこと心配だったんだよね?」
「うるさい。それだけ口が回るなら自力で帰れるな」
「あっ、冗談!冗談だって!肩は貸して!」
「はぁ……」
大きなため息を吐くけど、渚は文句を言いつつも肩を貸して歩幅も合わしてくれる。
「なぁ、さっきここにいたやつ」
「真琴と本郷のこと?俺らの隣部屋だよ」
「ふーん……」
珍しい反応。付き合いは中等部の頃からでそんなに長くないけど、渚がこんな反応をするなんて珍しい。どれだけ、両手いっぱいの女の子に告白されても全く興味なかったのに。
「真琴か、俺のクラスにも似た子がいた」
「あ、楓ちゃんじゃない?真琴とは双子だよ」
「ああ、そういうことか」
「渚は楓ちゃんが気になってるの?」
「そう、だな……」
これでも勘はいい方だから、渚がどういう気持ちを抱えているのか、なんとなく分かってしまう。頼むからこればっかりは外れて欲しい。と思うけど、ライバルは確定で一人はいるから今さら情けないことは願わない。
初めて心の底から欲しいと思った人だから、絶対に誰にも譲ったりなんてしない。
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