第544話 雑誌に載っていた正社員五人娘と鬼の復活様
「見てください! 中にも特集記事が載っていて、メニューとか店員さんの写真もあるんですよ!」
お風呂後、お昼。
王都のお城の前に以前作ったカフェ ジゼリィ=アゼリィ三階の個室をオーナー代理特権で開けてもらう。オーナー夫妻の娘ロゼリィもいるし、並ばず入ったのは許してくれ。
お店はお昼時ということで外まで行列が出来ていて、最後尾に立っているスタッフさんの看板によると中に入れるまで最大一時間待ちだそうだ。
「うわ~すっごいね~。ローエンとかジゼリィがインタビューに答えているじゃないか~。世界的に有名な雑誌にこれだけ特集組まれているって、相当な宣伝になるね~あっはは~」
「……そうだな……」
宿の娘ロゼリィが満面笑顔で買った雑誌を俺に見せてきて、覗き込んできた水着魔女ラビコがニヤニヤしながら俺の頬を突いてくる。
俺はちょっとテンション低く頼んだランチセットが届くのを待つ。
「あっれれ~社長ってばご機嫌ななめじゃ~ん、お風呂で何かあったのかな~? 例えばこっそり抜け出して何かを探しに行ったけど失敗したとか~……」
「わ、ちょ……! さーて頼んだ新鮮魚介のミックスフライセットはまだかなー。お、ロゼリィやったな、まさか雑誌に載るとか思わなかったよな! いやぁすごいすごい!」
水着魔女ラビコが余計なことを言い出しそうになったので、俺は慌てて笑顔で会話に参加。
……一応ラビコは他のみんなに俺のエロ本探しの旅のことは黙っていてくれているらしい。
そして黙る代償として、このネタを使って俺をおもちゃにしだしたけど。
くそ……エロには厳しいロゼリィにバレたら朝までお説教コースだろうし、黙ってくれていたラビコには感謝なんだが、弱みを握られて余計面倒なことになった予感。
「はいっ! まさか子供のころから買っている雑誌に自分のお店が載るとは思っていなかったので、すごく嬉しいです。ふふ、なんだかとても大きなことになっているって実感します」
ロゼリィが本当に嬉しそうに微笑み、保管用に買ったと思われる二冊目の雑誌を抱きしめる。
「これね~、記事の最後に『協力:ローズ=ハイドランジェ』って小さく書いてあるんだよね~。多分これ、アンリーナが仕掛けた宣伝の一環じゃないかな~。ジゼリィ=アゼリィ特集の次のページにでっかくソルートン限定化粧品の広告載ってるし~」
ラビコが小声で俺の耳元につぶやいてくる。
確かにローズ=ハイドランジェの名前が記載されているし、広告も載っているから商売人であるアンリーナが何か仕掛けたんだろうけど、ロゼリィがこんなに喜んでいるんだから裏事情は考えなくていいだろ。
「こら、そういう夢を壊すようなことは言うな。素直に喜べ」
「へいへ~い。でもご安心を~全然人気も無いのにお店側がお金積んで雑誌に特集組んでもらって強引に今流行っている感を出そうとするとかよく聞くけど~ここの雑誌はそういうの全部断るんだよね~。きちんと独自に調べて、今本当に流行っているか、お店の商品もキチンとした物なのかを判断してから記事にするのさ~。だからこそこの雑誌は世界的に信頼があって、長い間発行されているんだよね~。アンリーナ側の仕掛けはあっただろうけど、ジゼリィ=アゼリィの人気と食べ物の味は本物だと雑誌側に判断されたのさ~あっはは~」
ロゼリィに聞こえないようにラビコを小突くと、ラビコが小声で返してくる。
ほう、実際のところは分からないが、ラビコの言うことが本当だったらむしろ良い裏事情じゃないか。
「アンリーナはこの雑誌の事情も分かっていて、それでも絶対にジゼリィ=アゼリィの人気と味は本物だと判断されるって確信のもと動いたんじゃないかな~。しっかし世界的に有名な大企業ローズ=ハイドランジェの次期代表アンリーナを味方に引き入れるとか、ほんと、社長ってば人脈半端ないよね~あっはは~」
うむ、本当にアンリーナと知り合えて良かったと思う。
俺は商売のことなんてさっぱり分からないが、アンリーナが世界を舞台に戦ってきた商売の知識を使い俺を補助してくれたおかげでジゼリィ=アゼリィはここまで大きくなれた。
この王都のお城前に作ったカフェ ジゼリィ=アゼリィだって、アンリーナが建物の設計を担当してくれ、壁紙ひとつ取っても手抜き無しの豪華な物に仕上げてくれたからな。
その商売人アンリーナとの出会いを思い返すが……ソルートンの海賊風船乗りガトさんの奥さんがやっている、安い早い旨いのうどん屋で知り合ったんだっけ。
なんだか生姜天がどうので揉めて、それ以来の付き合いだが……なんで俺アンリーナに師匠って呼ばれているんだろ。
そういやアンリーナは今どこにいるんだろうか。
「うわ、見ろよキング。セレサとかもインタビュー受けてンぞ。いいなぁ、アタシも雑誌に載ってみてぇなぁ」
猫耳フードを揺らし、クロも雑誌を覗き込んできた。
あれ、本当だ。しかも写真付きで載っているな。セレサにオリーブ、ヘルブラにアランスにフランカルの正社員五人娘の集合写真が載っていて、『ジゼリィ=アゼリィ本店の美人看板五人娘』と結構扱いデカく紹介されている。
なんというか、彼女たちは言葉通り美女揃いなのだが、こうやって雑誌に載っているとアイドルっぽく見えるな。
うーむ……そして写真でも分かるオリーブさんのお胸様の大きさよ。
カメラマン、絶対これ分かっててお胸様が強調されるアングルで撮ってるよな……んー、この写真欲しいな……俺も後でこの雑誌五冊ほど買っておくか。
そしてクロさんよ、あなたは魔法の国のお姫様で、公式にはセレスティアを離れペルセフォスにいる大魔法使いであるラビコの元で修行中となっているが、実際は絶賛無断家出中で、正体バレそうなことやっちゃイカン状態でしょうが。
「…………」
しかしこの正社員五人娘の集合写真エロいな、これは絶対に欲しい。
待てよ……雑誌買うより、この雑誌社のカメラマンに接触図って原本譲ってもらえないか交渉したほうが大きな写真手に入るか……とか考えていたら、俺の背後に無表情で立っていたバニー娘アプティが雑誌の一点をじーっと見ている。
「どしたアプティ……あれ? この不自然な白いナース服にこの横顔……」
アプティが見ている『混雑する店内の様子』と紹介されている写真を見ると、奥のほうに小さくではあるが、とても見覚えのある人物が写っていた。
この女性、銀の妖狐の島にいたイケボ兄さんの料理の再現度九十五%シェフ、ランディーネさんじゃないか。
そういや銀の妖狐が、彼女は定期的にソルートンのジゼリィ=アゼリィに通って勉強しているって言っていたな。
すごいな、今まで気が付かなかったけど、普通にお客として来ていてくれたのか。
思い返すと銀の妖狐の島で彼女が出してくれた料理はどれも美味しく、言われなければ、そうそうこれこそイケボ兄さんが作った料理なんだよ、ってなるぐらい再現度が高いものだった。
なるほど、彼女は才能もあるのだろうが、きちんと努力をしていたのか。そりゃあ美味しいはずだ。
そしてこれあれか……彼女が最近撮ったであろう写真に写っているってことは、銀の妖狐の俺を島に連れ込もう作戦は今も着々と進行中ってわけか……。
キモい銀の妖狐の島になんて二度と行きたくないが、ランディーネさんが作るご飯は美味しかったし、俺のお世話をしてくれたメイド二十人衆にはまた会いたい。
ガラスの指輪をくれた短髪娘ドロシーや、メイドリーダーであるアーデルニさんは元気だろうか。
あと俺好みのエロ本屋作ってくれるとか言っていたけど、あれは銀の妖狐のサービストークだったのかな……それを確かめる意味でも再上陸はアリだろうか……うーん。
「……ふぅん、この人たちがシュレドさんが言っていた本店の看板娘さんなんだ。すっごい胸が大きくて美人さんなんだね、胸元くん」
「……シェフのシュレドさんが言っていたけど、みんな胸元くんの、あ、愛人さんなんだって……」
銀の妖狐の島は人間が決めたつまらない法はなく、一番強いやつがルールだとか。だからその島を所有している銀の妖狐が認めれば、俺は晴れて未成年にして念願のエロ本様が手に入るってわけか……うーむ、そこは魅力。
とか唸っていたら、出来たての料理を持ってきてくれた女性二人が登場。
彼女たちは以前俺が王都の騎士学校に短期で通わせてもらったときにお世話になった人物で、強気な感じの女性がアリーシャと言い、もじもじした感じの女性はロージと言う。
色々あってこのカフェ ジゼリィ=アゼリィでアルバイトをしてもらっているのだが、アリーシャさんがすっげぇ不機嫌そうなんですけど、なんで?
……ってこの五人が俺の愛人? なんだよその嘘情報。あのパッと見筋肉格闘家シェフシュレドめ、適当なこと言いやがって。
「皆様お待たせいたしました、こちらがご注文のランチセットになります。どうぞごゆっくり……ねぇ胸元くん、私たちだってそこそこ胸はあるし、見た目だって負けていないと思うよ?」
「ご、ごゆっくり……ふふ、胸元くんが王都にいる。なんだか安心するな……」
二人がロゼリィ、ラビコ、アプティ、クロに丁寧に頭を下げ料理を配膳し、愛犬ベスにもリンゴを笑顔で渡してくれたが、俺のところに来た途端アリーシャが態度を変え、自分のボディラインを強調するようにポーズを取る。
ロージのほうはニコニコ笑顔で俺のジャージの裾をつかんでくる。
「あのな、シュレドが言ったらしい五人が俺の愛人だのは、君たちを笑わせようと言った誇張の嘘だぞ。五人が美人看板娘なのは本当で、アリーシャとロージだって俺好みの美人さんだ。もし今度この王都にあるカフェ ジゼリィ=アゼリィが特集されたら、そのときは俺が自信を持って君たちを美人看板娘の二人として推薦する」
ソルートンのジゼリィ=アゼリィ本店には、ここの王都支店のデータが定期的に届いている。
それを毎回見ているが、売上は順調どころか常に右肩上がり。王都民の口コミデータも商売人アンリーナが独自に調べて送ってくれるが、それによるとスタッフさんの評判もとてもいいそうだ。
中でもアリーシャとロージは笑顔で元気よく丁寧接客だと、老若男女どの世代からの反応も良いと書かれていた。
「び、びじ……胸元くん好みの美人!? 本当? それ本気で言ってる? 信じていいんだよね?」
「やった……私、胸元くん好みの見た目だったんだ。嬉しい……じ、じゃあ隣に座ってもいい……?」
なんか誤解されているっぽいからハッキリ言っておいた。
なんだよ正社員五人娘が俺の愛人って設定は。確かにソルートンじゃ、そういう妙な噂が流れて収集つかなくなったけど。でも嘘だし、それ。
あと本店の正社員五人娘と比べられて嫌な気持ちにさせてしまったのなら謝るし、二人は正社員五人娘に負けないぐらい美人で有能なスタッフだと断言出来る。
ん? 二人が顔真っ赤にしているが、なんだ?
「あ~あ……出たよ社長のナチュラル告白~。これだから油断ならないんだよ、このエロ本購入未遂童貞はさ~」
「……購入未遂……? え、なんでしょうかそのお話。詳しくお聞きしても……いいです?」
出来たてのランチセット、新鮮魚介のミックスフライをモリモリ食いながら水着魔女ラビコが呆れ声を漏らす。
その言葉に目ざとく反応したのは、宿の娘ロゼリィさん。
このクソ魔女……言いやがったな……!
さっきの俺のエロ本クエストⅡ(未遂)のこと言いやがったな……!
……黙っててくれるんじゃなかったのかよ!
いや、違うな……別にそんな約束はしていないし、このクソ魔女に期待した俺がバカだったんだ。
そう、こいつはさっき得た俺の冒険の書のセーブデータを最高に面白いタイミングで暴露しようと図っていただけで、異性に興味はあるけど上手く行動出来ない繊細な少年に寄り添う優しいお姉さんの仮面をかぶっていた悪魔なんだ!
「うん、この感じ、胸元くんだね。そしてこんなに魅力的な女性に囲まれているのに、いまだにそういう本を求めるってことは……まだ私たちにもチャンスがあるってことだ。やったね、ロージ!」
「そ、そうだね、まだチャンスあるかも……嬉しい」
アリーシャとロージが嬉しそうにハイタッチ。
なにがやったねで、何が嬉しいんだ二人とも……!
俺はこれから目の前に迫るドス黒いオーラを放つ鬼、URロゼリィと素手で対峙しなきゃならんのだぞ……!
い、今から鬼討伐クエストメンバーを緊急募集する!
我こそは異世界の勇者だという紳士諸君、ぜひとも参加を……!
勝てなくても構わない、俺が逃げる間の肉の盾になってくれればそれで……あ、だめだ、右腕つかまれ……あああああああああああああああああああああああ──
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